対話 7

ばつん。

「痛い?」
「んー、まぁ少しは。ちょっとじんじんしてきたかも」

軟らかい骨を貫通する感触を、私は知らない。いつだって人にお任せしているから。皮膚は知ってる、はじめてのピアスを開けた時に上手くできず、サクサクという音を耳の一番近くで聞いた。不思議な感触だった。腕を切る時に皮膚のその先にいってしまうことがある、それに近い感じ。繊維をちぎっていく、アレ。骨に穴を開けるってどんな手触りなんだろうか。気になりながらもまだ自分では開けられないでいる。

「冷やさなくてよかったの?」
「んー、めんどくさいし。消毒もしたことないけど別に穴が塞がったこともない。どうでもいいんだよ。大切なのは身体に穴が空いた事実だけ」
「そんなもんかねぇ。ま、痛くないならそれでいいけど」

そんなもんでしかない。煙草に火をつけ、深く吸う。血行が悪くなれば、耳のじわりとした痛みも柔らぐかもしれない……なんてことは思わなかった。これで、8つ目か。

深い赤に塗った爪。
色を抜いて傷んだ髪。
穴だらけの耳。

昔に比べれば随分と遠いところまで来てしまったな、と思う。親にとっては自慢の娘だっただろうし、そこに不満もなかったはずだったのだけれど。優等生の私はいつの間にかこんな風になってしまった。中身は変わっていないはず、でもそれは私が決めることでもない。いくら見た目が変わったところで、世界に対抗するための手段に過ぎないことはとうにわかっている。

はてさて、それにしてもうまく言葉がまとまらない夜だ。

「最近すごいよねぇなんか。焦ってるの?日常生活も予定の組み方も身なりも全部。何かに追い立てられているみたいに、見える」
「ヒントあげる。あともう少しで私の生まれた日だよ」
「それ、もはや答えじゃん?」

にししと笑いながら話すこの人には、やっぱり敵わないなぁと苦笑するしかない。最近、ここ2年くらいのバースデイ遺書(?)を見返す機会があったのだけれど、どちらの時も彼氏と彼女について言及したり、近況を伝えたり、していた。自分の書いた過去の文章って不思議よね。とても手触りのいい、不確かで確かなものを両手に持っている感覚。そこにある主観を客観視する。ああ、苦しくて愛しいなってハの字眉毛で笑っちゃう。

「そこまでがセットなんだよ。吐き出して終わりなら、酒飲んだり腕切ったりセックスしたりして出すもん出せばいいんだし。きっと、そうではないんだろ?今こうして僕と話していることが、何よりの証拠だ」

否定のしようがないなぁ。こうやって文章を残したり読み返すことが、自分にとって毒なのか薬なのかはわからない。まぁ、毒だろうが薬だろうが喰らってやるさ。自分の吐瀉物ごと、愛してあげたいから。

おわり

#対話 #エッセイ

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