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凪のような人の皮を被る「PERFECT DAYS」

役所広司主演、「PERFECT DAYS」見てきました。
舞台は東京だけど、外国の監督さんが撮った映画ということぐらいの知識で見てきました。鑑賞後チラシ見ましたが「ベルリン・天使の詩」の監督さんなんですね。pillowsの歌に引用されてたからタイトルは知ってる。機会があれば一度見てみたい映画です。

あらすじとしてはその程度の知識でしたが、Twitterで流れてくる感想は賛否両論。特に否の部分は個人的にも嫌いそう…って思いでしたが、見てもないのに嫌だってなるのもあれなので、ちょうどタイミング良かったので映画館に向かうことに。

結論を言うと予想通り苦手、それも個人的にベスト5に入るくらい苦手なものでした。帰り際こんな気持ちになったの久々だなあと振り返って、昔見た「未◯のミ◯イ」の鑑賞後を思い出したり。でもこういう映画、というか物語ないし主人公はやっぱ嫌いなんだなとわかったのはいい収穫でした。

一応断っておくと、映画としてはしっかり最後まで見届けました。役所広司の演技は素晴らしいですし、最後出てきた三浦友和はやっぱカッコいいなあと見てて思いました。映像としても素晴らしく、「キレイな」東京を映し出すのが本当上手で、基本主人公の男性が起床→仕事(トイレ清掃)→居酒屋で夜ご飯→寝る前の読書→就寝を繰り返すだけの話なんですが、その日々の日常を美しく映し出してくれます。最も、上映後売店のお兄ちゃんに「途中寝ちまったよ」と話すおじいさんもいたので退屈っちゃ退屈なのかもしれません。
見に行った時は平日の夕方ってこともあり、年輩の男女の方が多かったですね。でも同時刻の他の映画の時より人は多く入ってるようでした。

で、じゃあお前は何が気に食わなかったのよと言われると、「低所得層向けの島耕作」みたいな作品だなあと思ってしまったのですね。しかも実際には(おそらくですが)実は金銭的には裕福な、かといって至って健康体でもあるけど何らかの理由で安アパートに住んでる「なんちゃって低所得者」だからより質悪く見えてしまった。(HPみたら鎌倉の裕福な家で育ったらしい、やっぱりか)
ここから先はネタバレ含みで書いていきます。






まず主人公は公共施設のトイレ清掃を仕事にしているのですが、同僚の20代男性に「どうせ朝ゲロまみれになってるんだから適当でいいんですよ」と言われても黙々と仕事に準じます。真面目でいい男じゃないかと思うのですが、ゲロまみれどころか、糞尿が飛び散った部分も見えず、シンクも床も綺麗で拭き上げてるだけで全然苦に見えない!いや映画なんだから汚ない物見せる必要ないだろと言われるとそうなんだけど、自分にはとても嘘くさくみえてしまったのですね。自分ごとですが店舗勤務だったこともあり、勿論お客様のトイレ清掃も業務の内でした。日にもよりますがおしっこやうんちが引っかかってたりなんて当たり前だし、中にはトイレの中に空き缶突っ込まれて詰まってたり、水が逆流して汚水まみれだったり、シンクで髭をそってそのままでヒゲだらけだったりとか普通でした。そういった経験があったので、なんか飄々と手軽にトイレ清掃するのを見て「そんなアホな」と思ってしまいました。あと使う道具が全て汚れてないのも何なんだ?モップすら新品で黒ずみとかなかったけど。一日ごとに新品のに取り替えてるのかな??
まあ、どうもこのトイレをピックアップしたのはユニクロ会長の柳井正氏の息子の康治氏の依頼から始まってるらしくて嗚呼・・・みたいな気持ちになりました(ユニクロも提供でスタッフロール出てきましたね。)


次に気になったのは主人公の爺さんにとって都合のいい女性しか出てこない。出てくるのは同僚の彼女でガールズバー勤務の子(俺の好きなカセットテープの曲を気に入ってくれる、帰り際にキスもしてくれる)、淡い恋心を抱いているスナックのママ(他の客よりちょっと親密に接客してくれたりお通しサービスしてくれる)、遠くから家出してきたティーンエイジャーの姪っ子(特に大きい問題も事件も起こさず、数日間同じ屋根の下で暮らして仕事にも付き添ってくれて最後感謝とともに帰ってくれる)。
いや男性の同僚も自分より頭の悪くお金もない男として出されてるので、自分の優位性を保つ為に(たまに車や金を貸していい先輩をアピールもする)動いてるのですが。
まあ都合がいい、「俺の平穏な日常にたまに気持ちのいい彩りを添えてくれる女性たち」って感じでした。正直見てて何度も「なろうすぎる・・・」と天を仰いで、4回目くらいで「いやなろうってよりは島耕作だなこれ」と思い直しました。
……書いててこれお前の嫉妬じゃないか?って思った。嫉妬かもしれん。俺も女やったらなんかよくわからんけど古本読んでてよく見ると顔がいい(役所広司だから当たり前や)ミステリアスなおじさん気になるかもしれん。まあこれが本格的に同棲や結婚になると別なんだろうけど。たまに話す異性としてはいいのかも。

最後、一番気になったのがこの主人公に「生への渇望」みたいなのを感じられなかった、生きているだけの死人を見ているようで気持ち悪くて怖かったのが一番嫌だった理由です。彼の住んでる安アパートにはテレビもパソコン、スマホもなく(仕事で一瞬通話してるシーンあったけど多分会社から支給されてるやつかな)、ラジカセと本棚、自分で撮ったフィルムカメラの写真くらいしかない。生活もルーチンワークのように同じことを繰り返して変化のない、平穏な日常を黙々と過ごすために生きているようにしか見えなかった。外界との交流を極力拒んでいるですね。居酒屋で流れてるテレビも野球の試合しか流れてなくて、ニュースや新聞をみることは絶対ない。家出してきた姪っ子にも話していました。
「君のいる世界と僕のいる世界は違う」と。
優しいおじさんでいるようで、実際は親身には聞いてくれない、これ以上の関係にはならないよと宣言してるんですよね。なんか姪っ子はニコニコしながら反復して同じ言葉言ってましたが。おじさん頼りに家出してきたんじゃないんかなあ、頼りにするなって言われたようなもんなんだけど、実はおじさんに父性は求めてなかったのかも、とりあえずの逃げ場にちょうどいい人(場所)だったのかもね。お母さんが迎えに来た時運転手付きの高級車で来たし。お母さん=妹は実家太いってことが示唆されて、主人公のおじさんも金銭的に困ってるとかで安アパートに住んでるわけじゃないってのがわかる。でも5.6年は実家に帰ってなく、主人公の父親が病気か老化でボケか寝たきり状態になっているのも知らないみたい。でも最後まで親父さんに電話するとか向かうとかはなかったなあ。ラストシーンも車乗ってたけど結局この日常を繰り返すのが俺の幸福だみたいな演出の笑顔だろうし・・・。

と、一見温厚で平穏な、「凪のような人」のおじさんだけど、急に人がやめて仕事が倍になった日には烈火の如く事務所に連絡していたし、「自分の世界」を壊されるのは非常に嫌悪しているのもわかる。このまま数日仕事量が増えて、おじさんの本質や怒りみたいなのが浮き上がるストーリーも期待したのですが、やめた翌日には新しい同僚(前の若い男と違って黙々と仕事だけしてくれそうなおばちゃん)が来ておじさんの世界は日常に戻るのですが……。このまま過酷な日常が続いてたらどうしてたのかな、多分早い段階でおじさんもトイレ清掃の仕事辞めたんじゃないかなあと思う。おじさんいうほど「トイレ清掃」には命かけてるとかではないだろうし。

あと、ラスト前の三浦友和氏となんやかんやあって影踏みをするシーンで、影と影が重なったら濃くなるですかねという話題になって、二人で確かめてみると友和さんの方は「変わらないですねえ」という一方で役所さんの方は「変わってますって、よく見てください、変わってますよ。人が交わって変わらないなんてことはないですよ。」みたいな事を、最後はちょっと怒ってるくらいの声色で言うんですよね。そのシーンだけ見たらいいこと言うなあって思うのですが、それ言う前にあんた姪っ子に俺と君は世界が違うって真逆のこと言ってるやん。自分より社会的地位高そうな人間には俺もあんたも同等の力持ってるんだぞって言いたいのか?みたいに見えてしまってすごく冷めてしまったんですよね。そういう事を言いたいわけじゃないって言われそうですが、自分にはそう映ってしまいました。すみません。
因みに僕には影は濃くなったようには見えませんでした。

結局この映画から見えてきたのは、主人公のおじさんの気持ちの良い世界のために世界が回ってる、そこで世界が完結している体の良い寓話にしか見えませんでした。重ねていいますが演技や撮影技術は本当に素晴らしく、だからこそ浮き彫りになる異様さが不気味で不快に感じました。せめて一つでも奇人めいてるところとか、あえて質素な生活を送っているバックホーンや業とかが描かれていたらもっと魅力的に見えたのかもしれませんが……(なんか神社から苗木?をもらって自分の家でいっぱい育ててる描写はありましたが)。
この素晴らしい日々、「PERFECT_DAYS」を続けていくことがこの男にとって何よりの幸福だし、見ている方にもこの幸せを感じてほしい、みたいなのが監督のメッセージだったのかもしれません。今の僕には届きませんでしたが。それとも僕が今思っている不気味さが本当に監督が伝えたかったメッセージかもしれません。10年、20年後みたら逆になんて素晴らしい映画なんだって思うかもしれない。人の幸せなんて千差万別ですし。
そういう意味では好き嫌いはともかく、見てよかったし(こんな文を書くぐらいには)考えさせる映画なんだなと思います。

役所広司が平穏な日常を求めていたのは実は吉良吉影のような業を背負っていた、とかだったら一気に緊張感が高まって面白くなりそうなのになあ…ジャンルがサイコホラーとかになるからだめかw



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