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不安だった「SLAM DUNK THE FIRST」を観て

正直、疑っていた。上映1日前になっても全然わからないストーリー、1ヶ月前に発表された声優交代、たまにリアルは書くけど漫画は全然描かなくて、たまにバッチを作ったよと売り出す井上雄彦氏がやる初アニメ監督作品。不安要素がてんこもりだった。あまり覗かないようにはしてたけど、それでも流れてくるSNSからの投稿も最高という人も言えば、期待を裏切られたという人もいる。何もわからなかった。もし自分が期待していたものと違う作品を見せられたら、反転アンチになってしまうかもしれない。ちょっと怖かったが、見ずに悶々と悩んでいるのはもっと嫌だった。月曜の朝、劇場に向かった。

杞憂だった。開幕のオープニング、爆音で流れるbirthdayの、チバユウスケ。それに合わせて入場してくる「ワルモノ」湘北チーム。迎え撃つ最強王者山王。これだけでもう最高だった。俺がbirthdayファンということもあるが、チバの曲を背に受けて対峙する両チームがかっこよすぎて、あとどんな感じになっても劇場にきてよかったと言える演出だった。

本編の話は割愛するが、試合でのプレイの動きもそうだし、なにより音響にとてもこだわっている作品だと感じた。ボールが後ろに転がっていく音が本当にそうなっているように立体的に聞こえてきたり、ボールをキャッチする音、ゴールに入る音、ダンクをしてリングを揺らす音、バッシュでダッシュしていく両チームの足音と、まるで本当に試合会場にいるような感覚を覚える体験だった。昔クイーンのボヘミアン・ラプソディの映画を見に行ったときを思い出した。そして盛り上がるシーン、反撃するぞというシーンで流れてくる10-FEET、TAKUMA氏による重厚なロック。重低音がまるで足元から地響きを這うように聞こえ、みているこっちの鼓動も早くなっていく。湘北メンバーと一緒にコートにいるような、もしくはメガネくんや洋平達のように必死に応援しているような。

声優陣も、始まってしまえば全くとは言わないがそこまで気にならなかった。主役メンバー以外だと、彩ちゃん役の瀬戸麻沙美氏は姉御肌のいい女を魅力的に演じていたし(なんか劇中の彩ちゃん原作より美人に見えたな)、安西先生の宝亀 克寿氏の演技も良かった。TVアニメ版の仏様のような演技もいいけど、元々安西先生はホワイトヘアードデビルと恐れられた鬼監督、その深みを覗かせつつも選手たちを信頼している演技がよりキャラクターが魅力的に見えて、井上雄彦監督の頭の中ではこういうイメージだったのかと驚きとともに関心してしまった。

試合ラストの演出は、漫画での表現をこう出してくるかと唸ってしまった。山王戦なんて何回も読んだし、展開も分かるのにブザーがなり終わるときにはついガッツポーズをしている自分がいた。

映画本編を振り返れば、あのシーンがないとか構成がふらふらして集中できないとか、色々言いたいことはでてくるのだけど、それを井上雄彦監督はヨシとしなかった。ギャグ描写での件でパンフでのインタビューでも言ってるけど、「よりバスケらしさ」を優先した結果出来上がったのは今作品だと思う。もっと大ヒット目指すなら有名芸能人つかうとかできる限り声優陣は変えないとか、もっとわかりやすく大衆向けに作ることもできたのだけど、監督はあえてリスクをとって新しいSLAM DUNKを構築していったのだと思う。というか新しいものでなかったら、多分監督引き受けてなかっただろう。そして実際唸らせる作品が出てきた以上、それは監督の目論見通りですと脱帽するしかない。あとんす。

正直、なんか知らないけど流行ってるから見に行こうかなあとSLAM DUNK知らない人には全く勧められない、原作読破前提の狭いターゲットむけの作品だと思う。逆にSLAM DUNK原理主義な人たちで、リアルやバガボンドは読んでない人には、足されたオリジナル部分に違和感を覚える人も多そうだ。それでもSLAM DUNKの試合、湘北メンバーの試合を見たい、同じコートで観たいというファンにはこれ以上ない作品だと思う。

一時でも少年の頃の熱さを思い出してくれたこの作品に感謝。

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