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#6生徒の自己選択・自己決定を尊重した 「子どもが主語」の学校づくり【後編】|校長の挑戦

 新連載、「校長の挑戦」。いろいろなしがらみのなか、積極果敢にさまざまな挑戦をしている全国の校長先生への取材を一人ずつ掲載していきます。6人目は、先週に続き大阪府枚方市立山田中学校長の山本俊夫先生です。

山本俊夫先生写真

プロフィール
京都教育大学・産業技術科学科卒。所有免許は小学校二種、中学校一種「技術」、高等学校二種「工業」、職業指導一種。大阪府門真市で教諭を20年、指導主事を6年、教頭を2年務めた後、大阪府枚方市で教頭を3年務め、枚方市立招提北中学校の校長に昇任。4年務めた後、2021年度より枚方市立山田中学校長。日本キャリア教育学会、日本生活科・総合的学習学会、日本学校ソーシャルワーク学会に所属。(一社)日本産業カウンセラー協会会員。現在、友人とともに都道府県最高峰制覇に取り組んでいる。昨年「無人航空機操縦(ドローン操縦)技能」(JUIDA)を取得した。

■「SDGsサミット」を開催

19年度SDGsサミット

 前任校では2019年度から、3年生の「総合」でSDGsと関連づけた活動に取り組みました。半年以上をかけての実践で、大まかな流れは次のとおりです。
 まず、生徒は一人ずつ、SDGsの17の目標のなかから興味があるものを自己選択し、夏休みに「企画書レポート」を作成します。2学期にレポートの報告会を行って、テーマや内容が近い者同士でグループを組んで「アクションプラン」を立てます。
 そして各グループはその「アクションプラン」に基づいて、JICAやユニセフ、NGO、企業、当事者などの外部機関とつながり、募金活動や河川の清掃活動、子ども食堂への訪問などの「アクション」の実行を通して、SDGsの解決に向けたテーマを掘り下げていきます。最後は年度末の2月に、「SDGsサミット2020」と題する報告会で、生徒たちによるプレゼンテーションと課題解決に向けた協議会を開催しました。
 2019年度の「SDGsサミット」は、新型コロナウイルス感染症感染拡大により全国一斉臨時休業に入る10日前の2月17日に開催しました。生徒たちは22のグループに分かれ、「貧困をなくそう」「無駄なきゴハン~食品ロスをつなげる」「LOVE BEYOND GENDERS」などの多様なテーマについて、1・2年生も交えてSDGsの課題解決に向けた話し合いが行われました。また、外部からも多くの方々にご参加いただきました。
 ちょっとしたドラマもありました。いわゆる「場面緘黙」で、人前ではほとんど話ができない生徒がいました。その生徒が、分科会からの報告のとき、大勢の人たちの前で堂々と発表をしたのです。きっと、この活動に強い思いを持って取り組んできたのでしょう。彼の小学校時代の担任が指導主事としてたまたま参加していたのですが、その大きく成長した生徒の姿を見て涙を流していました。
 この活動を通じて育みたいのは、やはり生徒たちの主体性です。日頃から「与えられたことをこなす」ことの多い生徒にとって、主体性を育成することは簡単ではありません。多くの生徒たちは、活動のなかで必要なものは、先生が用意してくれるものだと思っています。つまり「待ち」の姿勢です。
 ですからこの活動では、生徒に「自己選択・自己決定」をさせ、教師は「待ち」の姿勢をとります。もちろん多少の促しもしますが、生徒たちが自分で「何を」「何のために」「どのような行動をとればよいのか」に気づき、「当事者意識」をもって考えられるようになるまで、根気よく「待ち」ます。この教師側の「待ち」の姿勢が、主体性を育んでいくのです。
 また、テーマについてただ「調べる」だけなら、インターネット検索等で簡単にできます。でも、検索した情報をまとめて作成した「コピペ」のプレゼン資料には価値がありません。ですから生徒たちには、自分で外部の専門機関を探し、コンタクトをとって話を聞いたり実際に行動したりするなど、付加価値の高い情報収集・経験をさせるようにしていました。こうした活動を通じて、生徒たちは大きく成長しました。

■研究授業と協議会に生徒が参加

 一般的に、中学校には生徒会組織として「代議員会」「文化委員会」「体育委員会」などがあります。そして、そこに属していない生徒は、「国語係」「数学係」などの教科係を務めます。しかし、教科係の仕事はプリントを配ったりノートを回収したりと、教員の下請けにすぎません。加えて、生徒会の委員会がある日は、教科係の生徒らは委員会が終了するまで友だちを教室などで待っています。ですから私はこの係活動を「格上げ」できないかと考えていました。
 そこで前任校で立ち上げたのが、「学習創造会」です。ここでは、教科係の生徒が一堂に会して「『学び』とは何か」「何のために学ぶのか」「どのような『学び』をすればよいのか」などについて話し合います。
 ややむずかしいテーマのようですが、生徒たちは活発に意見を交わし合い、「学び」にどう向き合うべきかを考えていました。活動を通じて生徒たちの意識にも変化が見られ、単元によって「ここは考える場面か、それとも教わる場面か」などと考えるようになった生徒もいました。
 この「学習創造会」では、教科ごとにどうすれば「学び」が充実するかも考えました。その一環として実施していたのが、研究授業と協議会への生徒の参加です。たとえば、国語係の生徒が、他学年の国語の研究授業とその後の協議会にも参加して、授業のよかった点や課題などを教師とともに述べ合うのです。
 さらには研究授業の前の話し合いにも生徒が参加し、研究授業をどのような授業・活動にするかについて事前に意見交流を行いました。そこでは、生徒たちから「先生はよくみんなに『はい拍手!』と促しますが、拍手される側としてはあまり嬉しくないです」「いつもテスト前になると急いで授業を進めますが、ついていけなくて困ります」などなど、日頃の授業に対しても忌憚のない意見が出されていました。教員にとっては少々ショックな部分があったかもしれませんが、日頃の授業のあり方を振り返るよい機会になったと思います。
 現任校では「学習委員会」という組織が生徒会に位置づけられていたので、この委員会で同様のことを実施しています。今年度は3年生の研究授業に1・2年生、2年生の研究授業に1・3年生、1年生の研究授業に2・3年生の委員が参加し、その後の協議会で教員とともに意見交流を行いました。
 いつも「見られる側」の生徒たちが、他学年の授業を「見る側」になることの意義は大きく、1・2年生は3年生が学ぶ姿を見て少なからず影響を受けていたようです。また、協議会に生徒が加わることで、「『学び』の主体者は自分たちであって、日々の『学び』は教員とともに創り出していくものだ」という意識が醸成されていくと考えています。
 この考えは、深沢先生から聞いたお話から影響を受けています。そのお話とは、次のようなものです――あるテレビ番組で漁師さんが漁のコツについて聞かれ、「魚のことは魚に聞けばいい」と話されていました。また、別の番組で綺麗な一面のお花畑を育てている人も、「花のことは花に聞けばいい」と話されていました。そのとき、先生は閃かれたそうです。そうか、教育に話を置き換えれば、「子どものことは子どもに聞けばいい」のだと。
 そんな経緯で始まった研究授業への生徒参加ですが、「『子どもが主語』の学校づくり」を本気で進めるうえでも、不可欠かつ重要な取り組みであると私は考えています。

21年度研究協議

■転機となった教員11年目の出来事

 私の教育観の土台は、子どもたちを「信用・信頼・リスペクト」することです。
 以前、上智大学の奈須正裕先生がご講演のなかで、「入学してきたばかりの1年生を『赤子』のように扱うけれど、6歳になるまでの『学び』があって、それを『リスペクト』すべきである」という趣旨のことをおっしゃっていたことがあります。奈須先生のご指摘は、私もそのとおりだと思います。 しかしながら、小学校も中学校も、1年生に対して「鉄は熱いうちに打て!」という「指導」を行うことが多く見られます。
 私はそういう「指導」という文化を学校からなくしていきたいと考えています。「指導」から「支援」へ。これは中学教師になったときから一貫して私の教育観だった……と言いたいところですが、実は若い頃は違いました。 当時は校内暴力で学校が荒れていたこともあり、私も「指導」を通じて生徒たちを力でねじ伏せるようなことをしていました。
 転機は、教師になって11年目、2校目への異動直後に起きた出来事です。私は中学3年生の担任を受け持つことになりました。修学旅行も終わった6月末のある日、自分の学級の生徒の一人がプールで亡くなってしまったのです。その日一日の光景は、今も忘れられません。自分の学級の生徒が命を落とすという想像もしなかったことが起こり、精神的につらい日々がしばらく続きました。
 当時、私の妻はお腹に新しい命を宿していました。そんな折に起きた痛ましい事故に私は言葉を失い、「『生』と『死』」に向き合わされました。この事故が契機となって、私は「この職を続ける限り、今、自分の目の前にいる子どもたちを大切にしよう」と決意しました。たとえ学力が低くても、問題行動を起こしても、「生きて存在してくれるだけでいい」と思うようになったのです。人生のターニングポイントであり、「指導」から「支援」への思いが強くなっていったのもこの時期からだと思います。

■合言葉は「知覚動考」

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この続きは、2022年3月刊行予定『校長の挑戦』に掲載予定です。お楽しみに!

執筆:教職研修編集部
制作協力:株式会社コンテクスト

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