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「部活指導は仕事じゃない」って知ってますか?

 6時間目終了のチャイムが鳴り、清掃と帰りの学活を済ませると、急いで着替えて部活動へ。顧問が早く行かないと、生徒たちはなかなか練習を始めない。体は大きくてもまだ子どもだ。飽きないようにメニューの組み立てにも工夫が必要だ。もちろん活動中も叱咤激励しなければ良い練習はできないし、しっかり見ていないとケンカやいじめの心配もある。
 練習が終わると下校指導。家に帰すまでが顧問の責任だ。夏場は6時半まで練習して、生徒を帰してから職員室に戻ると7時。さあそろそろ仕事を始めよう。まずは提出物のチェックから。そういえば管理職に提出しなきゃならない書類があった、何だか年々書類が増えてる気がする。
 仕事の区切りがついたら、不登校の生徒の家に家庭訪問してから帰ろう。授業の準備は家でやればいい。土日は練習試合だから天気が心配だな。6時には天候判断して、相手チームの先生に連絡しないと。もうすぐ大会だし、次の練習試合の相手を探さなければ…。

 中学校の教員になってから、こんな生活を10年以上続けてきました。自分が経験したことのない種目でも、手を抜くことなくやってきました。時間とお金をかけて審判資格をとったり、指導法を学んだり。肉体的には大変でしたが、生徒のためと思えば頑張れました。

 そんな私も結婚し、子どもが生まれました。共働きで、当然保育園にあずけることになりますが、そこで初めて気づきます。朝7時に家を出て、夜10時に帰ってくる。さらに土日も部活で家にいない生活は異常だということに。
 平日、なるべく早く帰ろうと思っても生徒が部活をしているのに顧問が帰る訳にはいかないので、祖父母にお迎えを頼みます。土日、保育園がやっていなくても、子どもを祖父母にあずけて部活に行きます。「この国では、じいちゃんばあちゃんがいない家庭は一体どうやって子育てをしているのだろう」という素朴な疑問が湧いてきます。

 「3歳に満たない子を養育する労働者が子を養育するために請求した場合には、事業主は所定労働時間を超えて労働させてはならない。」
 この育児・介護休業法の趣旨に則って、部活動顧問の免除を申し出ました。校長・市教委からの回答は「部活動は自発的勤務なので時間外労働には当たらない。つまりこの法律は適用されない。」というものでした。自分が「仕事だ」と思ってがんばってきたことが「仕事ではなかった」ことを、このとき初めて知りました。

 「部活は仕事ではない」のなら、担当する義務はないはずです。しかし、4月の職員会議で部活顧問は必ず割り当てられるし、大会の役員や審判も当たり前のようにやることになります。土日の役員などは弁当1つで朝7時から午後5時まで大会運営に当たることもザラです。しかし、お金が欲しくてやっているわけではないので、独身で「部活は仕事だ」と思っていたときには「辛いなぁ」ぐらいにしか思いませんでした。いやむしろ「対価を求めるなんて教育者として恥ずべきことだ」とまで思っていたかもしれません。
 しかし、「部活は仕事ではない」と言われてからは「なぜ自分の子どもに寂しい思いをさせ、高齢の祖父母に負担をかけてまで部活をやらなければならないのだろう」と悩むようになりました。

 「仕事ではない」以上、勤務時間後の部活指導はやる必要がないし、土日もすべて休みにしてしまっても法的には何の問題もないでしょう。しかし、目の前に自分を必要としている生徒たちがいるのにそんなことはできません。こうした教員の良心によって成り立っている部活動なのに「自発的にやっているのだから後のことは知りません」という姿勢に大きな矛盾と憤りを感じるのです。

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