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盆と正月が一度に来たような秋半ば、FREEFALL感想

妙なタイトルなのはyouthとFREEFALLが同じ日に届いたという極めて個人的な理由に拠るものです。同じ日に届いたのでまずはyouthの箱をボール紙の裏まで眺め回して洗濯して干して目玉焼きを焼いて食べてUCCのドリップ珈琲を淹れてからようやくCDをCDラジカセに投入しました。カムバの儀式みたいなもので、新作の初回は配信ではなくCDで聴くことに決めています(タイトル曲を除く)。ヘッドホンを装着して没入感をプラスすると、そこからの三十分はTXTの音楽だけに包まれる。 

椅子の上で体育座りをしながら聴き終えて、ひとつひとつの曲というよりもアルバム全体として愛したいと思いました。好きなアイドルの歌を聴いているという感覚はほとんど始めから消えていました。これは「十代の頃に好きだったアルバム」だ。 私は中学一年生の頃、GEOで椎名林檎の絶頂集を借り、それまで触れたことのなかった音世界に猛烈に憧れました。それが目に留まったのは本当にたまたまで、紙箱が擦れてボロボロになっていたから気になったのですが、MDに録音して何度も聴き返しました。自分でもカバーしたくなり、高校生になってバンドを始めました。大学で知り合った友人に誘われてメタルのコンサートに行ったり、夜遅くにスタジオで練習したり、そういったいわば青春の記憶を淡く呼び起こしてくれる曲たちがFREEFALLに収められていました。 

ひときわそれを想起さたのが물수제비でした。この曲のギターの音づくりに由来するのだと思います。ともすれば音程が外れたように歪む乾いた音。晴天の空に低く立ち込める雨雲、でも雨が降る気配は全くしないような。わずかなアンニュイさを纏いながら確実に前を向いているメロディ。それをゆったりと歌い上げるメンバーたちの声にとても力づけられました。ドラムのカウントが刻まれた後、歌の一音目からもう不協和音で私好みです。HANRORO(한로로)さんのことを初めて存じたのですが、胸に迫る声をお持ちですね。

ひとつ気づいたことがあります。물수제비の歌詞はすべてハングルで書かれています。それがどうしたとお思いでしょうが、70曲近く存在するTXT楽曲の中で歌詞にラテン文字を含まない初めての曲になります。紙に印字されたハングルの行列を眺めていると謎のときめきを覚えます。 

FREEZEでは比較的明るい曲調から暗くなっていく曲順が混沌を深めていくようでしたが、FREEFALLはその裏返しのようで、自由落下とともに自らを縛っていた何かを手放せた、あるいは愛すことができたのかもしれないと感じました。 いつも歌を聴くときにはほとんど歌詞を意識しないのですが、今回は珍しく歌詞を眺めながら聴きました。韓国語に触れ始めて二年が経ち、少しずつわかる単語が増えてきたのでもう歌詞を無視するわけにはいかないだろうという心境の変化があったからです。文字を追いながらChasing That Feelingの始まりを聴いて、涙が滲みました。かつて天国に行けないと諦めた少年の心境が「천국을 등진 난 Fall from the sky」と、ボムギュの声によって表現されたことに。私はゼロバイを聴いても悲しくなりませんが、むしろChasing That Feelingではなるかもしれないと笑いました。 

そして天国に背を向けた少年が辿り着いたのが、Blue Springではないでしょうか。私はこの曲の「Flowers, flowers」と歌う箇所が本当に好きです。音の雰囲気と相まって、花畑にいるというよりは空から花が降ってくるように感じます。もちろん現実にそんな場所は存在しません。でも目を閉じれば浮かびます。地上で過ごす私たちにも、天国みたいな情景が寄り添ってくれます。音楽は逃げない。ある日CDから足が生えない限りはずっとそばにいてくれる。それはひょっとするととてつもない救いなのではと信じています。

タイトルのプロデュースがSlow Rabbitさんではないことも、今作の大きな転換点だと思います。それもあって曲を聴くより前にRecording Engineersのクレジットを確認したのですが、Back for MoreとDo It Like Thatでは各エンジニアの所属する会社の所在地が記載されていたことが興味深かったです。いま私がキーボードを叩いている間にも、地球のあらゆる場所でTXTの音楽が聴かれていることに気づかされます。自らがSlow RabbitさんのつくるTXT楽曲に拘っていたことにも気づかされましたし、毎回カムバのたびにInstagramに寄せてくださるメッセージが今回もあったことで癒されました(単純)。

「偏見を減らす」というのが私の人生目標のひとつではありますが、それに近づける手段が「音楽を聴くこと」ではないかと思っています。ジャンルに対するイメージだとか、そういうことを一旦忘れて聴いてみる。結果それを好きにならなかったとしても、触れることが貴重な試みだと考えます。私は普段同じ曲ばかりを聴くし、毎日同じ服を着ても構わないくらい変化を楽しむマインドに乏しいニンゲンです。もちろん悪いことばかりではなく反復が新たな発見を生むこともあるのですが、もっと発展したいと願うときがあります。TOMORROW X TOGETHERが新しい風を運んでくれること、それをきっかけに他のK-POPも聴いてみようと思えるようになったことに、常々感謝しています。Blue Orangeadeで「I can stay young(0) cuz of you」と歌われた意味をときどき考えます。若いとは、いつまでもBlow my mindしてくれるような何かに出会えることかもしれない。新しい春が来るごとにニンゲンは年を重ねますが、その分新しい出会いを見つけていきたいです。 

声フェチの観点からお話すると、Growing Painの0:45あたりからのボムギュが本当に病みつきになります。ボムギュ→テヒョンの切り替えも素晴らしく、語尾を降下させる歌い方にFALLを感じます。ヨンジュンがライブでSay!と言ってくれるのが楽しみですね。Dreamerはスビンの歌い回しにセンスが光っています。テヒョンの低音もたまらない。ヒュニンカイ、今作を代表する「声」かもしれません。TEMPTATIONに引き続いて1曲目の最初を務めていますし、물수제비での厚みのある歌声が私の心を捉えて離しません。ああもっと語りたい..!

改めてFREEFALLの発表をお祝いしつつ、感想文を締めくくらせていただきます。久々に敬体で書きましたが借りてきた猫みたいに落ち着かないので元に戻そうと思います。ところでいまの季節は?

A: FALL