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LO$ER=LO♡ERはなぜ日本語版にならなかったのか 〜祝Fight or Escape2周年〜

去る7月にTOMORROW X TOGETEHRの日本2ndアルバム「SWEET」が発売され、五人の爽やかさと我々の熱気がいい感じに拮抗したわけであるが、発売前の私の関心は「LO$ER=LO♡ERの日本語版が出るのかどうか」というところにあった。

結果:出なかった。

むしろこのタイミングでリリースする理由の方が少ないかもしれない。まずはメンバーたちの多忙。コンサートの合間に練習して、レコーディングして……ともなると、他の新曲の準備もある状況では相当負荷になるだろう。アルバムの曲数も既に十分である。そして何より、この曲の和訳はかなり高難度な気がする。♪灰色の車に乗って~、をどう攻略するのだろう。やはり狂ったように笑うのだろうか。聴いてみたくもあるが、2023年8月17日現在ではその気配が感じられない。でもタイトル曲はすべて日本語曲になるのだと勝手に思っていた。これまでの流れを打ち破る理由があるとすればこれしかない。


君じゃない誰かの愛し方」のコード進行に似ているから!!!


以前Twitterで「ルザラバのコード進行はRingと同じ」という真実とはやや異なる情報を流したので、本日はそれについて弁明させていただく。

同じではなく、似ている。それも、非常に効果的に、似ている。ベース音だけ取り出して楽譜にするとこうなる。

前半の2つが一致している。続いて和音にしてみる。

ルザラバは2つ目の和音で上に向かうものの、3つ目で下がり、そのまま上がることはない。Ringは5つの和音が使われており、5つ目で一番高くなる(サビで2回繰り返されるベース音の1つ目は下がり、2つ目は上がっている。芸が細かい)。私が言いたかったのはこの2曲の調性が同じト長調であること、2つ目の和音まで進行が同じであること……だったのだが、厳密にいうと2つ目の和音も両者で異なっている。Ringの面白いところは、この2つ目の和音で#レを使っているところだ。これは元々のト長調の音階にはない音なので、異質な感じを与える。おっ何かあったな、という雰囲気の変化が表れる(ような気がする)。さらに面白いのが、Ringは#レと♮レを使い分けている点である。イントロの前半、ギターが奏でる旋律には#レがなく、イントロ後半のドラムが入るところではエレキギター(?)が#レを追加している。そして「そっと指でつくった」ではまた#レが消え、「小さな隙間の向こう」からまた登場する。聴く箇所によって印象が違う。さらに素晴らしいのは、最後のサビのバックボーカルである。ブリッジのあとに静寂が訪れ、「教えてよ」で音楽が再開し、「あ~~~~」と右側で歌われるあの高音。「♮レ→#レ→ミ」と一音ずつ上がる半音階進行になっている。はぁ……………なんて美しいのだろう。TXTの楽曲ではなかなか見つけることの難しい半音階進行がこんなところに登場するなんて(私は半音階進行だいすきオバケ)。

であれば、もしかしてコード進行あまり似ていないのでは……?

そう思いかけたある日、Weverse magazineで面白い記述を見つけた。

2011年に発売され、当時大人気だったジェシー・Jの「Price Tag」や2NE1の「Lonely」がこの曲と似たようなコード進行を見せていた。ただし、前述の2曲はi-iii-vi-ivの4つのコードが回っていく構造である一方、「LO$ER=LO♡ER」は「i-iii-vi」の3つのコードが回っていき、メジャーのようでマイナーのような妙なニュアンスを出す。もちろん、このようなコードが2010年代に限られたものではないが、最近のK-POPにはコンテンポラリー・R&Bのようなクリシェのコード進行を積極的に使った曲が多かったため、この曲の野暮ったさや単純さがより目立つ。

ランディー・ソ氏(大衆音楽解説者)の論考より

ローマ数字は以下のように音階に対応している。

Price Tagを聴いてみると、「i-iii-vi」で終わるのではなくviからivに移ることによって、聴く者の気分は大いに前向きになる(気がする)。「i-iii-vi-iv」が前向きな循環ならば、「i-iii-vi」は行き止まりである。「가질 수 없다면 I f**kin’ keep it low」のあたりなど、ベースのvi(ミ)の音は進む道がない現実をこれでもかと突きつけるかのように重い。

この曲に漂うどこにも行けなさは何に由来するのだろうかと疑問だったのだが、「野暮ったさ・単純さ」という記述で腑に落ちた。ゼロバイに行き止まり感がないのは、「ii-v-i-iv」後半の「ファ(i)→♭シ(iv)」が終わりに向けて上がっていくからかもしれない。
だがルザラバもただ沈んでばかりではない。「I’m a LO$ER  I’m a LO$ER」ではギターが8連符で「i-iii-vi」を刻むのだが、これまでとは違ってviがiiiよりも高い音になっている。「ソ(i)→シ(iii)→ミ(iv)」と徐々に高くなる音型が、飛行機が長い滑走路で助走するかのように、どこかへ飛び立つ前触れのように感じられる。

また先ほどの記事に「メジャーのようでマイナーのような妙なニュアンス」と書かれていた。ルザラバはト長調(Gメジャー)に分類され、コードの1つ目こそGメジャーだが、3つ目は平行調であるEマイナーである。「Gメジャー(i)→Bマイナー(iii)→Eマイナー(iv)」とメジャーで始まるのにマイナーで終わるので、大雑把に言えば暗い雰囲気になる。これに対しゼロバイは、「Gマイナー(ii)→Cメジャー(v)→Fメジャー(i)→♭Bメジャー(iv)」と好転していく。
Happy Foolsはゼロバイと似て「ii-v-i-vi」というコード進行、つまり3つ目まで同じである。「Dマイナー(ii)→Gメジャー(v)→Cメジャー(i)→Aメジャー or Aマイナー(vi)」と、最後の捉え方は聴く人によって変わるように思う。というのも本来はCメジャー→Aマイナーという平行調への移動がより自然なのだが、イントロのアコースティックギターの4つ目の和音は#Cを含みAメジャー寄りである。少々聴き取りにくかったので細部は違うかもしれないが概ね次の通りである。

ギターは専門ではないので誤っていたら恐縮だが、チャッチャーッチャーーという特有のリズムに加えてテンションコードが繰り返されることによりHappy Foolsにボサノバらしさが溢れているのだと思う。
参考: 【Cm7(9)】【Cm9】コードの押さえ方を3種類解説!(ボサノバのオシャレなコード進行も紹介)

4つ目のコードの意外性がHappy Foolsの面白さである。ヨンジュンは「ボサノバ!!!」と思って作曲したわけではないだろうが名曲をありがとう。ちなみに記事を書く参考にパフォーマンス動画を見返したらみんなかわいくてびっくりした。スビンがゲーム機連打する音が入ってるのがめっちゃいい。

和音の選び方ひとつで随分と印象が変わるものだ、と確認できたところで試しにルザラバのコード進行を3パターンにしてみた(GarageBandでふわっとつくりました)。

私の中でGメジャーは、メジャーの中でも特に明るく聴こえる。「ト長調 明るい」で検索すると似たような意見の方がいらっしゃった。Fメジャー(例:ゼロバイ、Trust Fund Baby)が過ぎし日々を懐かしむような響きを持つのに対し、Gメジャー(例:ルザラバ、Our summer、Nap of a star)は勇気や希望など前向きな単語が似合う(ような気がする)。ルザラバではGメジャーを選択したことが絶妙に活きている。行き止まりでも勇気を胸に前に進んだ結果、highwayから飛び降りることになるのだ。

始まりこそ同じであるが、地上で行き止まりのルザラバと、空へ昇っていくRing。どちらもSlow Rabbit PDがメインでプロデュースされた曲である。そしてどちらも上手くいかなかったラブソングである。偶然にしろそうでないにしろ、ルザラバから約1年後にRingが章の狭間から生まれてきたことがなんかいいな、と思う8月である。


0X1=LOVESONGという等式をLO$ER=LO♡ERに対応させるなら、0X1=LO$ERである。僕は君と出会っても、やはり敗者のままだった。それでもお互いを抱き締めて海に沈むことができるなら、孤独に折れた翼は癒えると思えたのかもしれない。少年は敗者となり、世界にひとつの法則を見つけた。私はこのラップ詞がとても好きだ。

뛰어내려 from this highway
펼친 채 부러진 날개
영원을 향해 flyin’
안간힘 써봐도 추락해
너와 함께라면
추락도 아름다워
하늘의 반대편으로
기꺼이 나 가라앉아
그저 서로를 안아줬으면 해
내 어설픈 비행 끝날 때쯤엔
모두가 날 비웃어도 I don’t care
가라앉고 싶어 너의 바다에

メンバーたちにとってFight or Escapeのカムバはなんだか不思議だったようである。FREEZEの活動の延長のようだ、と。

そんな不思議な立ち位置のルザラバではあるが、いつしかライブの定番曲となり、Lollapaloozaの舞台を大いに盛り上げ、私たちの中心に存在している。「I’m a LO$ER I’m a LO$ER」とみんなで声をひとつにする瞬間は生きている実感がある。なぜか公式の掛け声にはない「パダエ!」も絶対に叫びたい。
もしもあの時LO$ER=LO♡ERを聴かなければ、MOAになることはなかった。なんて仮定の話に意味はないのだけど、私のMOA人生において特別な一曲であることは間違いない。いやでも泣いてるボムギュほんとうに美しかったよねえ………~~~~~!!!!! 衝撃でした。

混沌(の章)から生まれたMOAだけに、襟を正してお祝いをしようと思った。毎度ながら音楽理論について監修を受けたわけではない旨をご承知いただけますと幸いです。

ルザラバくん2歳の誕生日、おめでとうございます。今日は海の日2ndとして祝日にしようよ。