前期高齢者作家が語るおっさんずラブ愛。第二話の勝手な考察。「黒澤部長の愛の形 嫁姑問題」

「黒澤部長の愛の形 嫁姑問題」
 ネタバレ注意!
 二話のテーマは嫁姑問題だった。武蔵のイライラ、ザワザワは婚約者を奪われた悔しさだけじゃないし、牧の腹立ちも元婚約者への嫉妬だけじゃない。地層を下へ下へと掘り崩してみると、表面に現れた事象の下に複雑な想いや過去があったりする。
私も四十年の結婚生活で経験済みだが、結婚は二人だけのものではなく、いろんな人が関わってくるから第三者がらみの問題が起きることも少なくない。「嫁姑問題」は中でも最たるものだろう。
二話を観て、黒澤部長は本当に春田を愛してるんだなあとしみじみ思った。その愛の形は時間をかけて少しずつ変化していったのだろう。黒澤にとって春田が恋する王子様だった頃、黒澤は牧と丁々発止と戦っていた。嫉妬し、張り合い、「このやろ〜!」と何かにつけてギリギリしていた。与える愛だけでなく奪う愛でもあった。同一線上に並んで、ヨーイドンで一着を狙ったのだ。
しかし、もう黒澤と牧は同一線上にはいない。しかし「ザワザワ」「イライラ」はするのだ。黒澤本人でも気づかなかった「ザワザワ、イライラ」の正体を、蝶子が秒で突き止めたのはさすがである。正直私は黒澤の想いを誤解していた。まだ春田に未練タラタラなんだなあって。かわいそうだなあって。忘れられないんだなあって。わかるよ。春田を好きになっちゃったら、新しい恋をするのは難しい。春田は実に罪作りな人なのだ。
牧もそう。だから武川さんは可哀想にあんなことに……(号泣)。
だけど、黒澤はそっちにはいかず、ペンギンや星やクリケットに行って、そして春田への恋心を母性愛に昇華させていった。
きっと恋心爆発時代は「いつも一緒にいたい。他の男を寄せ付けたくない。抱きしめたい。おそろの枕で腕枕して寝たい、できればお風呂も一緒に」などと思っていただろう。だけど、恋が母性に変われば、「一緒にお風呂」はなくなって「背中を流してあげたい」くらいになる(ような気がする)。
抱きしめたいは、そのままだろうが、ママが赤子を抱きしめたい気持ちに似ているのじゃないだろうか。
ストーカーした末に相手を殺してしまうという凄惨な事件がたまに起こるが、テレビや雑誌で「愛の末に」だの「愛し過ぎて」だのと表現しているのを目にするたびに、「あれを愛と呼ぶな〜!!!!!」と、私はいつも吠えまくる。あれは愛なんかじゃない。愛の対極にあるものだ。部長の心にあるものこそが正真正銘の「愛」である。
 このドラマは「地層」である。質の高い物語に共通しているのは、海岸や河岸など見られる地層の断面のように、いろんなものが何層にも積み重なっているところだと思う。均一な地面のように見えて、縦に切ってみると、スポンジケーキみたいに単純ではないのだ。
一人一人の複雑な想いや葛藤をちゃんと掘り下げて、地層の深いところに隠れている恐竜やアンモナイトや三葉虫を見せてくれるところが、このドラマの秀逸さの一つと言えるだろう。
 私も一応物書きのはしくれなので、いい地層を作ることに日々エネルギーを使っているのだが、これはほんっとに!難しい。
 それにしても春田のお母ちゃん、凄すぎない? 最高の「姑」であるとともに、最高の母ちゃんでもある。普通は「俺たち結婚する」といったら、多分、「え〜っ!!!なに?なに?どういうこと?」から始まって、多分泣く。「孫が欲しかった。春田家の血筋が絶えてしまう」「世間体が」となるかもしれない。それが「ふうん」である。驚愕の反応だ。さすが春田のお母ちゃんである。そして注目すべきはこの女優さんの演技の素晴らしさ。おっさんずラブがこれほどまでに大人気になった理由の一つに俳優さんたち全員の度外(どはず)れた演技力があると思う。ものすごく自然なのだ。
ていうかアタル君、だれ!? 春田より年下のイケメン? エリートっぽい「どS」の熟年? メタボだけど超優しいおっさん? それとも介護認定で一番軽い「要支援1」くらいのおじいちゃん? どんな人なの〜!!!

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