存在が罪。新婚旅行

 おっさんずラブ第五話。大暴れあり、イチャイチャあり、切なさあり…。もう巨大なおもちゃ箱をひっくり返したような、アレもコレもソレもの回でした。毎回毎回大満足で、あと何回…と指を折るだけで泣けてくる。
 絶対ロスになるのがわかっているので、どうしたものかと今から心配である。ファン同士て慰め合うしかないだろう。
 春田と牧の新婚旅行、何と楽しげだったことか。後半の大げんかや指輪事件は別として、「だるまさんがころんだ」だけで、幸せが雨あられと降ってくる。旅行というものは、どこに行くとかどれだけ豪華とか、そんなものは些細なことで、誰と行くかに尽きる。
 二人の新婚旅行は何一つ特別なものはなく、豪華ということもない。だけど、「幸せ」を辞書で引いたら、あの「だるまさんがころんだ」か、ろくろ回して「ゴースト」やってるシーンが出てきそうだ。
 若い人はご存知ないかもしれないが、三十年以上前に上映された大ヒット映画「ゴースト」、ものすごくよかった。デミ・ムーアの綺麗だったことと言ったら!
 相手役のパトリック・スエイジさんは十年以上前になくなっているが、本当に素敵な人で人々の記憶にずっと残るだろう。
 それはさておき、私は楽しげな二人を見ていて、大昔の自分の新婚旅行を思い出した。行き先はヨーロッパ。フランス、スペイン、イギリス、ドイツ、スペインなどを駆け足で回った。あの旅行を思い出すと、私の眉は自動的にキュッと寄ってついでに舌打ちまでしてしまう。途中で何度「一人で日本に帰ろう」と思ったか知れない。
 夫は最初飛行機に乗った瞬間から不機嫌だった。お見合いしてすぐに結婚したので知らなかったのだが、夫は高所恐怖症だったのである。「だったら、何でヨーロッパにしたのよ〜!」と吠えたくなったがあとの祭り。
 移動のために何度も飛行機に乗らなくてはならなかったので、旅行中夫はほとんどず〜っと不機嫌だった。どこに行っても何も楽しもうとしない。今でこそ世界中に日本料理店はあるが、昔はあまりなくて、夫は口をひらけば「米が食いたい。日本料理食いたい」と言い続け、「せっかくヨーロッパまできたのだから、その国の料理を楽しもうよ」と言っても、「握り飯が食いたい。がめ煮が食いたい」とただただイラつくばかり。
 プラド美術館も「興味ない」というものだから一人で回った。
J ALパックだったので、一人で参加している人もいて、その中の若い女性(美人)のことを、夫はしきりに気にしていた。そして「若い娘が一人で外国をうろうろしていたら危ないから、一緒に回ろう」と言い出し、途中ずっと三人で行動することになった。ところが、その女性が超わがままな上に「高齢出産になるからから早く子供産まなきゃね」などと地味にイラつくことを言う。お邪魔虫の黒澤部長にイラつく牧状態だった。
 新婚旅行なのに、ウキウキとかラブラブなんてま〜っっっったくなかった。
 近場のたった一泊の新婚旅行でも、春田と牧は一生忘れることができない楽しい想い出を作ることができたことを思うと、やっぱり「愛」だなあとしみじみ思う。
 そして春田という人間の素晴らしさに、感動するのだ。確かにポンコツで鈍感で無防備で、脳天気で散らかし魔だけど、春田が「機嫌が悪い」ところを、想像できない。それはものすごく大事なことで、一緒に暮らすなら、絶対あんな人がいいのだが、ツチノコ並みの希少人間だ。和泉さんが惹(ひ)かれるのもわかる。「喪(うしな)った恋」の次は「叶わぬ恋」なんて、なんという哀れ…。
 旅行から我が家にたどり着いた春田と牧が、楽しげに玄関に入っていく姿を切なそうに見ている和泉さんを、切なそうに見ている菊さまを見ている私も切なかった。
 ところで黒澤部長、やっぱり「姑」じゃなかったんですね……。
 そういえば、春田が一口食べたおにぎりをじっと見つめていたことがあったが、あの後絶対食べたと思う。間接キス的な。
「春たんの寝顔を見るのが楽しみ〜」なんて、姑は言わない。
 春田という天真爛漫なほぼ天使は、好きになったら、忘れられない厄介なヤバい人間だ。実に存在が罪なのである。


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