K.Y.
原稿用紙換算 272枚
原稿用紙換算 395枚
原稿用紙換算 175枚
私が愛してやまないヴィジュアル系バンドについて紹介しています。
小説家を志しています。 おそらく、ここに信用するに足らない自己PRを書き記すより、もしあなたの貴重な時間の合間に一時間程度お暇な時間がおありでしたら、小説を一編読んでいただけたほうが、なんら偽りのない私という人間を(ほとんど顔写真付きで)理解できると思います。私はそう、『小説は文字数の多い履歴書である』と解しています(本格推理やホラーを含めても)。SNSやブログ、もっと言うと履歴書そのものよりも、その人物が信頼に足る人間か論理的思考の持ち主かを物語っていると思うからです(私が
〈16065文字〉
私は長年、小説を書いてきました。 しかし、これは何の自慢にもなりません。 成功にいたらなかったのは、センスがないのに書き続けたことにほかならないからです。 私の書く物語は、どうも商業出版向きではないようです……。 そういう審査結果が何度も下されましたから。 異常な世界観というのが、どうしても書けないからかもしれません。 私は、突飛な設定や常軌を逸した人物に、まったく興味が持てないのです。 よく、連続殺人など凶悪事件の犯人に対し『動機を知りたい』とインタビューに答える人が
〈2279文字〉 事務棟内の会議室へ通ずる道――。 八木山は階段を上がる男の腕を追い抜きざまに掴んで、その男を会議室とは逆の通路へと連れ込んだ。 「な、なんだ! おい、八木山、何をする?」 「篠栗」 「だから、なんだってんだ! いくら女に見向きされなくとも、おれはごめんこうむるぞ」 「どうして横領なんかした?」 「……ば、ばかやろぅ。何を言うんだよ、いきなり……」 八木山は先週の飲み会で、篠栗が八木山に渡した紙幣が、自分が会社の金庫に入れたものであったことを明かした。
〈6533文字〉 寮の多くの男たちが誘い合って、飲み屋へと繰り出した時間、六畳一間の一室で、ぼそぼそとした独り言がこだましていた。 「てめぇはおれの女だ。毎回うれしそうに注文を聞いて、世間話も交わしたじゃねぇか。おれの作業着姿が、火花の飛び散るせいでひでぇなりなのを恥ずかしがると、『きれいな事務服よりよっぽどかっこいいです』なんて言ってくれてよ。研削加工にまで興味を持ってくれたじゃねぇか。男がいないってのは、答えちゃくれなかったが、表情見ればすぐにわかった。あれ以降、人払
〈2550文字〉 数日後――。 「最近、帰ってくるのが、少し遅いわね。しばらく残業はないって話だった気がしたけど」 「あ、うん。ちょっと……」 「急な仕事でも入ったの?」 「うん。ちょっとした、急な、仕事がね……」 「そうなんだ。ところで、あなた、毎回、息を切らして帰ってくるけど、わたし、あなたのこと待っちゃいないし、この時間より前に現れることもないから、急いだりせず、仕事に専念することをお勧めするわ。急いては事をし損じるって言うでしょう」 「そうだね、きみの言う通りだ。
〈6205文字〉 以前勤めていた仕立ての工房が買収され、突然の解雇を言い渡されて困っていたとき、近所に住む知り合いのおばさんに『運動会の弁当作りを手伝ってくれない?』と頼まれ、いつしかそれ以降も勤めるようになって、飛び抜けて年下だった生子が、おのずと弁当屋の接客を担当するようになった。最初は嫌だった。接客業はこれまで携わったことのない畑違いの仕事で、女学校出身の彼女は、異性とほとんど接してこなかった人生が、いきなり数知れぬ男たちと応対せねばならなくなったのだ。最初は怖さが
〈4611文字〉 工場では、作業時間内は機械を動かし続けねばならないため、昼食は代わる代わるとらねばならず、八木山は仕事の流れを把握しておくためにも、最後に昼食に行くことにしていた。新しい仕事なら、最初の工程が何より肝心であり、普段も一番遅く出ることで、その日の――つまりは午後の――仕事量の目処が立つからであった。また、腹は減るがオマケとして、昼食の時間帯をずらしたほうが、色々とせわしなくならなくて済むというのもあった。混雑を避けられるだけでなく、たとえば今日のような、雨
〈10547文字〉 「ただいま」 「ただいま帰りました」 「今日は早く片付いてね。ただいま」 「ああ疲れた。今日からこの時間が続きそうだよ。ただいま」 「……どういうつもり?」 「アッ、やっぱり部屋にいてくれたんだ!」 「あんたね、だれが幽霊相手に『ただいま』なんて挨拶するのよ。はぁ、これまでの男どもはみんな、恐る恐る帰って来たというのに」 「じゃあ、顔を見たんでもう一度、ただいま、おひいさん」 「『おひいさん』? 何よ、それ?」 「ぼくだけのきみの呼び名さ。ヒデコさ
〈9381文字〉 『篠栗が死んだ……』その重たい印象を頭に抱えたまま、八木山はつんのめるような前がかりの歩行姿勢で家路についた。不思議とそういう状態にあっても、人は習慣にのっとって無意識に曲がるべき角を曲がり、必要な場合はきちんと交通機関の乗り換えまでもこなして、家にたどり着くものである。 工場街にある会社へは、ほとんどの従業員が公共交通機関を利用しての(重役たちにかぎり自家用車での)通勤をおこなうなか、彼は珍しくも徒歩通勤だった。それができたのも、ほんの一月半前、会社
〈8595文字〉 篠栗には、よく人前であざけられたが、それさえ八木山には面映ゆくも喜ばしい、かけがえのない思い出だった。そうでもなければ、自分なんかが同僚たちの口の端に上ることなどないだろうと彼は思っていたから。 彼らの会社では、八月下旬になると暑気払いとして、よく晴れた日の仕事終わり、従業員全員参加で中庭と屋根のある工場の一角を活用して、酒盛りとバーベキューをおこなうのが、恒例行事となっていた。あくまで社内でおこなわれる催し物であるため、忘年会のような無礼講とはいか
〈4246文字〉 朝八時――。 事務職員ほか、作業員も事務棟のタイムレコーダーで出勤時間を打刻し、各仕事場のロッカールームに向かわねばならなかった。受付を通り抜ける際、挨拶と声かけはこの会社の社是でもあり、そこにいる誰かしらと必ず挨拶を交わすのが習わしとなっていた。 「おーす」 「おはよー」 「うーす」 「あら、寝ぼすけさん、今日はお早いこと」 「図面のやり直しがあったの、忘れててさ」 「あら頑張って。ほら、ミカンあげる。朝の果物は金よ」 「おいっす、おは
〈6500文字〉 「今日来てもらったのはほかでもない。わが社で、とある問題が出来してね。いや、相すまぬ。定例でもないのに、職長たちを集めて何事かと思われているものもいるようだ。伝えるべきものには伝えてあるのだが、ともかくここからは、進行役を篠栗君に任せるとしたい」 事務棟の二階にある会議室には、社長のほかに十名の主任役が席に着いていた。今朝九時、各部署に打診する形で伝えられ、正午前に招集された会議である。この場には『何用か?』と困惑しているものが、確かに半数ほどいた。遅く
『おまたせ、わたしを殺した人。さよなら、わたしの愛した人』 ※この物語は、昭和中期の設定です。
〈1354文字〉 一ヶ月後――。 曙光が、レースのカーテン越しに、部屋に差し込み、ベッドの上に這い上がろうとしていた。 彼は、仰向けの状態で、肘を曲げた自分の片腕を枕にして、十五分も前に目を覚ましていた。 その隣で、掛け布団がもぞつき、男の残る片腕に自分の手を添えて横向きに眠っていた女が目を覚ました。 「起きてたの?」 「うん」 「寒くなかった?」 「全然」 「小さな布団なのに?」 「きみがいたから」 女は顔を赤く火照らせた。 「ありがとう、健君」 「それ、塾のこ
〈4566文字〉 車を地域警察署の敷地に乗り入れ、正面玄関前に停車させると、ぼくは運転手の横手にクラクションを鳴らしてもらい、玄関警備の警察官を呼び寄せ、後部ドアを開けてもらってから、前席のシートベルトに挟みこんでいた自分のベルトを外した。ここまで来て、二人を信用してないわけではなかったが、無駄な期待を抱かせないようにするのも、彼らへの思いやりであった。それになにより、ぼくはこのシゴトをきっちり仕上げたかった。前にいる二人は『ここには停めちゃいかん』と何度も怒られたが、完