陰陽師・橋本京明さん「世田谷一家殺害事件」被害者の霊と会話

■これまで幾多の霊とバトルを繰り広げてきた

橋本京明さんは世田谷一家殺害事件の霊能捜査を行っており、その様子をYouTubeで公開している。2021年1月から不定期で更新され、事件とはまったく関係ない霊とのバトルや会話が中心になっている。

■にいなちゃんと接触?

2022年12月30日にアップされた第13章(長っ)ではなんと、事件に巻き込まれた一家の長女である「にいなちゃん」の霊と家の前で霊能会話をしています。

会話は基本的に橋本京明さんの声しか聞き取れないので、彼が空中に話しかける系のスタイルです。

■霊との会話の進め方

会話の内容はこんな感じ
「やっと会えた にいなちゃん ずっと探してた お父さん お母さん 弟さんとかはいる? ここにいないの? なに探してきたの? 花? なんの花? 匂い? 甘い香り?」

どんどん霊との会話を1人で進めていくので、霊との会話を望んでいる人にとっては感動ものでしょう。ただ、この会話の内容、橋本京明さんの台本的な仕掛けがあるような思えるのです。

■霊との会話→視聴者との会話

見えてくるのはいくつかの「設定」です。
・にいなちゃんの霊は両親、弟とは別々(なんでか不明)
・甘い木の香りを探している(具体名がなかなか出てこない)

このように曖昧な部分を残しながらの会話になるので、(洗脳された)純粋なユーザーは積極的にコメントします。例えば「キンモクセイでは?」「キンモクセイのお香が」といった当たり障りのないコメントが多数寄せられる。なんら霊能捜査に役立つ書き込みでないのにも関わらず、「コメントすることで霊能捜査を手伝えたような気になれる」というのがミソである。

■霊とのお菓子トークに仕掛けあり

続いての会話はお菓子作戦。
・現代の板チョコへの霊の反応「ちっちゃい」
→案の定コメント欄には明治のチョコレートがこの22年でどのくらい小さくなったかを示すコメント。

このコメントを多く引き出すためなのか、橋本京明さんは努めて無知を貫く。先ほどのキンモクセイの名前も出てこなければ、チョコレートが小さいことを知らないという体で話を進めるので、さも霊からの意見に驚いているという流れを作れます。このあたりで「ああ、この人は霊と本当に話せるのかも」と信じる人が増えてきます。さらにはその優しくおだやかな口調にだんだんと橋本京明さんなら信じられるといった思いを抱き始めます。

■霊は多くを知らない

そこにすかさず橋本京明さんは「霊への優しさ」を発揮していきます。つまり彼は霊だけでなく視聴者も対話相手にしているのです。心理学には詳しくないのですが、何かそういった話法があるのかもしれませんね。霊への優しさパートでは
・今までよくがんばった
・どんなことがあっても守るよ
と声をかけ、
・どこが痛い? 背中?
と話を進めて、「特殊な咒(じゅ? まじない?)を唱えているため音声を消しています」のテロップと、手にもモザイクがかかる。

ここで霊との会話以外の自らの能力を発揮します。が、この「咒」(まじない)の内容がまったくわからないのに、なぜかにいなちゃんの霊が抱えていたとされる「背中が痛い」問題があっという間に解決します。私にも「咒」をやってもらいたいくらいです。

どうやら霊はコロナ禍を知らないらしく、マスク姿が不思議に見えるようだ。さらにスマートフォンを出すと不思議がるなど典型的なタイムスリップものの展開である。

■核心に迫るつもりが曖昧

そして肝心な部分は非常におぼろげ。「お父さんに会ったりは?」と質問した京明さんは「あんまり会えない? なんで?」とにいなちゃんの言葉を拾います。でもちょっと待ってください、ここが少し違和感あります。たまに会ってるってこと? お母さんとは会ったり会わなかったりらしく、ますます謎が深まる。というか、ラスト陰陽師にはここでブレてもらいたくない。

この動画は世田谷一家殺害事件の解決を目的とした霊能捜査のはずだ。亡くなった被害者の霊への配慮をするのはその世界では大切なことだと思うが、聞きにくいことであってもほかの人には会話できない相手なのだから、もっと目的意識を持って霊と向き合ってほしいものだ。ドラマじゃないんだから。エンタメなら正しい展開かもしれません。

■生前の記憶は誰の記憶?

橋本京明さんは、1年ほど前に父のみきおさんの霊も見かけたとにいなちゃんの霊に報告。そしてその際、みきおさんの霊は本を抱えていたという流れから、にいなちゃんの好きな本の話へ。

・にいなちゃんはハリー・ポッターが好き

というとても具体的なエピソードを引き出す。亡くなった2000年12月にはすでに大ヒットしていたので時代考証に間違いはないが、京明さんは敢えてその場でスタッフに調べてもらうスタイルにすることで「その事象について知らないが、霊から聞いたことが事実だったであろう」という流れを積み上げます。板チョコの流れと同じですね。

■具体的エピソードは既出だった

「甘い木の香り」「ハリー・ポッター」が今回の動画におけるにいなちゃんの霊から聞き取った具体的なエピソードです。
ですがこの2つの話、既出なんです。

2020年12月27日付 東京新聞において、にいなさんの同級生の女性が当時の思い出を語っています。
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2020年12月27日付 東京新聞の記事より
「週2回の塾の前後には、にいなさんと近くの祖師谷公園に出掛けた。「ここは2人の秘密基地ね」「水にキンモクセイを入れて『こうすい』作ろうよ」」
「小説『ハリー・ポッター』(99年12月に日本語版発売)も、にいなさんが教えてくれた」
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私には、にいなさんの霊とされるものとの会話が、この新聞記事の内容を組み込んだ「台本ありきの内容」だと感じました。つまり本件における霊能捜査の進捗率は0%で、既存の情報をトレースしたものに過ぎない内容です。本当の能力者が仮にいたとして、この時間の解決にその力を使おうとするならば、動画にはせずに黙ってやるような気もします。

わりと厄介なのが、橋本京明さんの動画シリーズを真に受けた視聴者が、テレビ局のニュース動画などにも「橋本京明さんが〜」と大真面目に書き込むことです。遺族からしたら「死人で商売をされている」と捉えられてもおかしくありません。橋本京明さんが悪いわけではなくて、ほかにも思ったままに特定の宗教や国籍を持ち出してヘイトを展開する人も多いですし、謎の説得力を持ってポロリと発信されている情報もあります。どれが真実かはもちろんわかりませんし、陰謀につなげても時間は解決しません。

遺族の方の気持ちを考えると、橋本京明さんが収益化した自身のチャンネルで「にいなさんの霊と会話した」行為は、残念に思います。

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