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Netflixアニメ「PLUTO」

Netflixアニメ「PLUTO」について書かせていただきます。
浦沢直樹原作の漫画「PLUTO」を、Netflixが全8話(1話1時間)でアニメ化。原作漫画がかなり良かったので、製作決定の予告が流れた時から楽しみにしていました。2023年秋からの配信開始でしたが、1時間という時間をとるのがなかなか難しくて、最近やっと観終わりました。
大元は手塚治虫先生の鉄腕アトム「地上最大のロボット」。それを浦沢直樹先生が自身のキャラクターデザインとミステリーサスペンスな脚色でリメイクしたのが「PLUTO」です。

アニメ「PLUTO」公式サイト


以下、ネタバレを含むあらすじと感想になります。ご注意ください。
個人的にはネタバレなしで観ることをオススメしますが、手塚治虫先生の「地上最大のロボット」を知ったうえで浦沢直樹先生のリメイクを楽しむのも良いかもしれません。


「地上最大のロボット」について

PLUTO(プルートゥ)は「地上最大のロボット」に登場するアトムの敵ロボットの名前。
国を負われた元国王サルタンが、アブーラ博士という科学者を雇って最強ロボットのプルートゥを造らせる。そしてアトムをはじめ世界の最も強いとされる7体のロボットを次々と破壊するようプルートゥに命令する。サルタンは世界征服の野望が叶わなかった代わりに、世界一のロボットを持つことで自身の力を誇示しようとしたのだ。
命令通りロボットたちを次々破壊するプルートゥ。だが、ただ命令に従って理由なくロボットを破壊する虚しさ、そしてアトムやウランのやさしさに接するうち、次第に考えが変わっていく。
プルートゥと初めて対戦した際に力の差を感じたアトムは、天馬博士に頼んでパワーアップさせてもらっていた(お茶の水博士は反対したけれど)。そして最終決戦場は阿蘇山。サルタンも観に来ている。そこに突如、ゴジ博士という科学者が、プルートゥよりさらに強いボラーというロボットを連れて登場する。プルートゥとアトム、勝ったほうとボラーを対決させると言うのだ。ゴジ博士の正体はじつはアブーラ博士だった。自分が造ったロボットを使って他のロボットたちを破壊し、自身の力を誇示しようというサルタンの考えが許せなかったのだと言う。
最終決戦を繰り広げるアトムとプルートゥ。しかし戦いの最中、阿蘇山の噴火活動が始まってしまう。被害が拡がらないよう戦いを中断して噴火活動を止めようとするアトム。手伝ってくれとアトムに頼まれるプルートゥは、はじめは協力しなかったが最後はアトムと力を合わせ、2人の力で噴火活動を止めることに成功する。そしてプルートゥはもうアトムを破壊したくはなくなっていた。だがボラーがプルートゥに襲いかかる。プルートゥを助けようとするアトム。アトムはボラーに致命的な一撃を与えるが、プルートゥもボラーも最終的には爆発大破してしまう。最後にゴジ(アブーラ)博士が本当の正体を現すと、サルタンの元召使いロボットだった。ロボット同士を戦わせて世界一になるなんて馬鹿げていますよとサルタンを諭す元召使いロボット。
そしてアトムは空を見上げながら、ロボット同士が戦わずに済む未来を願うのだった。

うーむ、さすが手塚治虫先生と言う他ない。愚かなのは人間。最先端の科学技術を破壊の道具に、戦争の道具に使おうとする人間。この作品が描かれたのは1964年。戦争を経て、人類に同じ過ちを繰り返してほしくないという手塚先生の思いが強く伝わってくる。だがしかし!人類は同じ過ちをいまだに繰り返している!
ロボット自身がロボット同士の戦いを憂うところも刺さります。人工知能が進歩した今ならそうした話も想像できるだろう。しかしこの作品が描かれたのは60年前です。

「PLUTO」について

浦沢直樹先生の「PLUTO」が「地上最大のロボット」とまず異なる点は、ストーリーがドイツのロボット刑事ゲジヒトを主役に描かれているところです。プルートゥに破壊される世界最高水準の7体のロボット、そのうちの1体がゲジヒトです。「地上最大の~」でもゲジヒトはロボット刑事の設定でした。そのゲジヒトを主役に回すことで、浦沢先生得意のミステリーサスペンスな再構築が実現されている。ナイスすぎるアレンジ。さらにゲジヒトの中に心当たりのない謎のメモリー(悪夢)を入れることで、ストーリーがより深くなっている。
他の6体は、スイスのモンブラン、スコットランドのノース2号、トルコのブランド、ギリシャのヘラクレス、オーストラリアのエプシロン、そして日本のアトム。
アトム以外のロボットは「地上最大の~」ではわりとすぐにプルートゥと対決して破壊されてしまいますが、それでもそれぞれの背景と性格はよく伝わってくる。中でも戦いを嫌う心やさしいエプシロンは特別だった。
「PLUTO」では、モンブラン、ノース2号、ブランド、ヘラクレスは第39次中央アジア紛争に駆り出され、多くの敵ロボットを倒し、心に傷を負った。ゲジヒトは治安部隊として参加。エプシロンも徴兵されたが、戦いを嫌い、徴兵を拒否して戦後処理を担った。みんな争いはもうたくさんだった。ロボットひとりひとりの悲しみと苦悩、平和な暮らしへの願い。「地上最大の~」での彼らの性格を受け継ぎつつ、互いの関係性、行動の動機づけをしっかり描いてくれている。特に戦災孤児を引き取って面倒をみているエプシロンは、美形でスマートなキャラデザ含め最も魅力的な存在。
彼ら世界最高水準のロボットが何者かに次々と殺されていく。同時に、ボラー調査団のメンバーも何者かに殺されていく。ボラー調査団とは、大量破壊兵器の有無を調査するためのロボット工学者を中心とした調査団で、お茶の水博士もそのひとり。この事件が第39次中央アジア紛争と関連していることは間違いなく、殺人現場の痕跡から犯人はロボットである可能性が高かった。しかしロボット法でロボットが人間を殺すことは禁じられていたし、ロボットはそれができないように造られていた。過去に人を殺したロボットが1体だけいた。ブラウ1589。超高性能の人工知能を備えていて、調べてみても全く不具合は見つからなかった。人工知能の恐ろしい可能性を暗示するキャラ。ブラウ1589は今は地下深くに拘束されている。彼と面会しながら事件の捜査を進めていくゲジヒト、協力するアトム、首をつっこむウラン。事件の真相は謎のまま、また次の殺人(殺ロボット)が起きていく。
「PLUTO」のストーリーの肝は超高性能の人工知能。それはもはや心、感情を持っている。ロボットが感情を持つこととは…それがこの作品のテーマ。

「PLUTO」は2003年から連載が始まった。2003年はちょうどイラク戦争が始まった年でもある。作中の第39次中央アジア紛争も大量破壊兵器保持の疑いが大義であって、イラク戦争と重なる。「地上最大の~」から40年経ってもリアルに繰り返されている愚かな争いを、読者に意識させたかったのは間違いない。
戦争の道具に使われるロボット。しかし超高性能の人工知能を持つロボットは、感情を持ち、悲しみを覚え、その先には憎しみが芽生える。
アトムはここでも天馬博士によって人工知能の性能を未知の領域まで拡げられる。憎しみが芽生え、そしてさらにその先…アトムはもはや悟りの境地に達してしまった感。悲しみや憎しみを消すことはできない。しかし憎しみは何も生まない。
こちらにもロボット工学者のアブラー博士が登場する。最終的には彼もロボットであることが明かされるが、超高性能の人工知能の顛末がここでも恐ろしく描かれている。浦沢直樹先生によるアブラー博士とプルートゥのキャラ設定アレンジも見事だ。

以上、隅々まで全て書き尽くすことはできないですが、ってゆーかアニメの感想ではなく原作そのものの感想になってしまいましたが、、秀逸なオリジナル「地上最大のロボット」が、浦沢先生の手によって悲しく恐ろしい訓戒に満ちた作品にリメイクされた。そして高クオリティのアニメ作品になり、声優さんたちによってキャラクターに命が吹き込まれ、さらに深い味わいを堪能できることを歓びたい。

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