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【アートのミカタ13】フセイン チャラヤン HusseinChalayan

【人物】動く服?光る服?腐る服?

斬新で先進的な服を追い求めるファッションデザイナー。
どれもコンセプチュアルな作品ばかりで、衣食住を満たすものという以前にアートであることを強く感じさせられます。
しかし同時に、その服にこめられた思いは自己表現の一端ではなく、社会や環境を投影し訴えかけるようなデザイン思考から形成されているのではないでしょうか。

ブランド「Hussein Chalayan」現在のChalayanを立ち上げ、今もエッジの効いた服を発表し続けています。

これまでファッションデザイナーを取り上げたことはなかったですが、今年最後の記事ということで、私の好きなかたを書いていこうと思います。

なぜ美的センスを磨くのか。科学の発展に伴い、心を作る芸術的思考もより広く知ってもらいたい。
このブログは、歴史上の偉大な画家たちをテーマに、少しでも多くの人にアート思考を築くきっかけにならないかと書いています。
まずはそれぞれの画家の特徴を左脳で理解し苦手意識を払拭するのがこのブログの目標です。その後展示等でその画家に触れる前の下準備として御活用下さい。私たちの味方となり、見方を変える彼らの創造性を共有します。

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目次
【人物】動く服?光る服?腐る服?
【背景】アイデアが生まれる場所
【核心】服で論文を描く

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【背景】アイデアが生まれる場所

1994年のデビュー以来、フセイン チャラヤンはファッション業界の垣根を越え、デザインやアートの領域まで影響を与えてきました。

生まれはキプロスのニコシア。1970年にトルコ系キプロス人の両親の元で誕生します。リーミントン・スパにある大学の基礎コースに進学したさい「肉の切身をプリントした布」を思いつきデザイン学校に入学したそうです。

アイデアの誕生は日常に転がっていることを体感したのかもしれません。
のちのインタビューでは「ある事柄が別のことに派生する。全ては繋がっているのです。」との発言もあるように。

また女性に育てられたことも大きな要素だったと話していました。(*1)父親とは疎遠で母親との関わりが強かった子供時代を過ごし、女性の強さや個性的な姿を目の当たりにしていました。
しかし男性からどのように扱われていたかも同時に見てきたのだそうです。今でこそ男女差別は問題視されていますが、強い女性を男性は見下すようなところを感じていたのだとか。

生まれ育った土地も彼の人生に影響を与えたのだと言います。
分断された島では、30年もの間、反対側に行くことが許されていなかったそうです。
同じ人間であっても、反対側にいるのは「敵」とみなす感覚があったのだとか。彼のエッジの効いた問題提示のようなコレクションは、育った環境からも育んだのかもしれません。

【核心】服で論文を描く

『私にとって服を作ることは、“わからないこと”を理解しようとする試みだ。身体というフィルターを通して得た概念を服に昇華することで、“人生”を創造しようとしているのかもしれない』Hussein Chalayan

現代の文明史を俯瞰して物語を展開していくチャラヤンのコレクション。
服に対しインスタレーションや工学的要素を取り入れた先駆者でもあるため、これまでの服の概念を勢いよく飛び越えているコレクションばかりです。

そのエッジの効いたスタイルは卒業制作時点から既に発揮されていました。
1993年ロンドンのセントラル・セント・マーティンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで発表された卒業制作は、埋葬され掘り起こされたシルクのドレスだったのです。

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6週間庭に埋めた絹は、見るも無残に酸化し、変色しています。
ファッションの寿命はどれほどに短く、儚いものなのかを疑問視したコレクションです。日本でも2000年代からファストファッションと呼ばれる短サイクル大量生産の洋服が目立ってきました。
そんな時代の負の部分を投影するようなコレクションを、今まさに未来に羽ばたかんとする服飾の卵が発表したかと目を疑いたくなります。

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1998AWのコレクションは「パノラマ」PANORAMIC
『語りえぬものについては沈黙せねばならない』という哲学者の言葉から着想を得たそうです。
パノラマのコンセプトは「カモフラージュ」。個人が完全に環境に溶け込むと個性が失われる様を表現したそうです。個性を失ったモデルたちが身についてけいるのは、まさに沈黙のごとく主張しません。キャットウォークで登場し、幾つも設置された鏡で増幅させ歪ませています。

ファッションには「時代の色」を強く残す感覚が私にはあります。
それは、大勢が似たような系統にまとまって移行するために起こりうる現象であり、時系列の特徴はあっても個人の特徴は薄れていくのかもしれません。


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そして私がチャラヤンを最も印象付けた作品が、2007AWの「エアボーン」AIRBORNEでした。
世界の多様な気候を隠喩したこの作品は、服にLEDとクリスタルを組み合わせたLEDドレスが象徴的でした。気候のように生物の生き死には常に流動的であることを光や動きで表現したようです。
服が光り、服が動く衝撃は私たちの創造性に大きなエネルギーを与えてくれます。


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最近のコレクションは2016SS「娯楽」PASATIEMPOです。
コレクション中、ずっと中心で立っている2人のモデルが、雨により服の印象がガラリと変わるのが特徴のコレクションです。
中にはスワロフスキーと黒の刺繍で飾られたドレスが出現しています。
コレクション全体は、キューバの歴史的背景から着想を得たと言います。今でこそリゾート地として知られるカリブ海の島ですが、先住民のルーツやスペインの植民地として奴隷貿易を経験するなど、キューバの「娯楽」は歴史的にも大きな基盤の上に成り立っています。
華やかなモデルのメイクに似つかない、どこか落ち着いた表情をした服からは、そんな「娯楽」の裏にある下積みを思わせます。雨で服が変貌する様も、ようやく解き放った娯楽を感じさせました。

パリコレを代表とするファッションコレクションは、一見すると「よくわからない」「ヘンテコな服ばっかり」と思われている方もいるかもしれません。
しかし、コレクションとは論文のような役割も時に含んでいるのではないかと、私は感じています。科学的明確な証明が成せない、言葉や理屈ではとても追いつかない現代の投影を、コレクションは担っている。
チャラヤンのコレクションは、特にわかりやすく投影していると感じたため、今回取り上げてみました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。
画家一人一人に焦点を当てると、環境や時代の中で見つけた生き方や姿勢を知ることができます。現代の私たちにヒントを与えてくれる画家も多くいます。

また次回、頑張って書くのでお楽しみに。


いつもたくさんのご支援・ご声援、ありがとうございます。