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小さなパニック

今日仕事に行ったら楽器ケースのチャックが詰まって開かない。うんともすんとも言わない。
死んだ貝みたいに開かない。
どうすんのさ、リハーサルどうすんのさぁぁ?と慌てて、駆け上がって3階の事務所にカチ込んで、ケースが開かないんだよぅ、開けてよぅ、と泣きついた。なんで、事務所に行ったら開けてもらえると思ったのかはわからないが、うちのオケのマネージャーは憎たらしいほど優秀だ。あいつなら今いるし、あいつなら冷静だし、あいつなら開けてくれる人を知っているはず、とどこかで思った。
マネージャーは半笑いで「落ち着けよ。」と言って引き出しからスイスアーミーナイフを出し、かちゃかちゃ、とやったら情けないほどすぐ開いた。
拍子抜けして、ふらふらしながら
「あ、ありがとう。仕事してきます。泣いてないです。」と言って事務所を後にした。
な、何だ、あいつ。ほんと何でもできるな。帽子から鳩って言っても出せるんじゃないか?しばらくあの人の言う事は聞こうとおもった。

オーケストラ事務所のマネージャーとは激務だ。音楽家なんてみんな好き勝手な動物みたいなのを何十匹も集めて、よく言い聞かせて仕事をさせるわけだが、みんな頭がパッパラパーだから骨が折れる。
隣町のオケのマネジャーは、転職して刑務所の看守になった。音楽家の世話より受刑者の世話の方がマシなのかしら?と思ったが、きっとそうに違いない。


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