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劇場という場所

劇場には定期的にきてくれるお客さんがいる。年間で通しのチケットを買ってくれる人たちだ。
コロナ前まで必ず定期演奏会では中央ド真前に座っている老夫婦がいた。いつのまにかアイコンタクトが始まり、偶然街中で会ってコンサートの感想を話してくれたなんて事もあった。しかし名前は知らない。子供のコンサートをやったときは孫を連れてきてくれて遠くから手を振ってくれた。
コロナの後すごく久しぶりに娘さんかなと思う人とど真前の中央に座っていたので挨拶に行った。何せコロナでたくさん死んでいたから劇場に来なくなった人には亡くなった人もいただろう。でも、もう一度きてくれて、妙な感動があった。名前も知らない人だけど、元気で良かった、と。
その後、ずいぶん長く見なかった。
最後にきてくれたときは、ご主人がいなかった。もしかしたら病気で亡くなったのかもしれない、と勝手に想像していたのだが、この間、2人揃ってまた座っていた。
なんだ、生きてたんじゃん!!!!という失礼極まりないことを思いつつ非常に嬉しかったのだ、実は。
名前も知らない人だけど、いつも見守ってくれていることをすごく感謝しているしそういう人たちが、会場にたくさんいること嬉しくおもう。
これはきっと大都会では起きえないことで、小さな町の小さなオーケストラだから、地元の人がみんな応援してくれて、劇場に知り合いいるわよ、という距離感になる。
魚屋さんだって一年に一回はきてくれる。アパートの上のおばちゃんだってカルメン見に行くよ、と声をかけてくれる。プールで会う人も、あなたこの間のコンサートよかったわよ、と素っ裸で話しかけてくる。
音楽でお腹はいっぱいにならないし、病気も治らないけど、人と人を繋ぐ幸せな場所になっているなら少し嬉しい。

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