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日本はオワコン?ー日本株への投資は愚かな行為か

日本人は日本株が好きではない

最近では投資をするなら海外(米国、中国、インドあたりがトレンド)ということになっている。表現の違いはあれど、このような趣旨の主張はさまざまな媒体で見聞きする機会が多い。特に米国株の人気は特出しており、インフルエンサーを中心に、日本はもう成長していないから米国に投資せよっと熱心に勧めている。その影響か不明だが、eMaxis Slimシリーズ(三菱UFJ投信)のインデックスファンドのラインナップでも、米国S&P500に連動する商品が最も買われているようだ。
理屈としては、米国は成長が見込める経済大国で、S&P500に採用されるような米国の大企業は世界中でビジネスをしているのだから、S&P500に投資することは実質的に全世界に投資するのと同じであるっという理屈だ。

一方で、日本は「少子高齢化」「労働生産性の低迷」「古い企業体質」「賃金の伸び悩み」「国内市場の飽和」など、ネガティブな記事や報道が目につく。そのような記事が相対的に「注目される」ので、マスコミの報道が偏向する側面もありそうだが、内容そのものは嘘ではないだろう。程度の差はあれ事実のはずだ。

確かに日本は「投資するには魅力のない成長性に乏しい国」に見えるかもしれない。結果として、「日本ではなく海外(主として米国)に投資して自己防衛しよう」といった主張が増えているのだろう。
しかし、今の日本のネガティブな状況が事実だとしても、それが直ちに「日本に投資する魅力がないこと」になるのだろうか。これは一考の余地がある。なぜなら、少なくても下記のようなことは理解した上で判断しないといけないからだ。

・「今の日本の状況」は市場参加者の周知の事実である
・日本を除外することで損なう「分散性」を挽回するだけの明確な理由がない

加えてこのような側面も考えられる。

・日本は投資後進国なので株価上昇余地を大いに残している(かもしれない)


「今の日本の状況」は市場参加者の周知の事実である

日本は成長性が低く、少子高齢化社会で、賃金が長きにわたって伸びていないことは筆者も知っている。おそらく本稿を読んでいる読者も、そんなことは知っているだろう。もちろん株式市場に参加している人(実際に日本株を売買している人)も例外ではない。市場参加者はそんなことは承知の上で、日本の株式市場に参加している。その結果として形成されているのが今の株価だ。

上場株式は極めてオープンな市場で取引されていて、日本人でも外国人でも個人でも企業でも差別なく公平に今の株価で売買できる。大口顧客が優遇されたり、立場の弱い人が吹っかけられるなど、そんなことは一切ない。今この瞬間の取引価格は世界中に公開されており、どこの誰であってもその価格で取引するしかない。上場している株式の取引とはそれほど「公平」なのだ。当たり前だが重要なことで、上場株式の大きなメリットだ。

繰り返すが、市場参加者が日本の現状を「承知の上で」付いた値が今の株価である。低成長なら低成長なりの株価になっているはずで、もしかすると日本株は企業の本来の実力に対して、相当に割安の値が付いているかもしれないのだ。
では、本題に戻って改めて考えてみる。

「日本は低成長だから日本株に投資する魅力はないのか?」

ここまで読んだ方であれば、これについて「どちらとも言えない(よくわからない)」ということが理解できる。なぜなら今の株価で買っている人は、日本が低成長だとしても、この株価なら買う価値があると思って買っているからだ。そのような市場の意思の集合体が現在の株価に集約されている。
「市場参加者全員の考え方が間違っていて、自分個人の考え方こそが正しいのだ」と明確な根拠と自信を持って言える場合のみ、日本株が不利だ(もしくは有利だ)と言える。

現在売り買いされている株価が「日本の状況など織り込み済みの結果」であることが、日本株に投資価値がないと言い切れない理由の一つだ。


日本を除外することで損なう「分散性」を挽回するだけの明確な理由がない

投資の大原則は「長期、分散、低コスト」であることは何度も述べてきた。先述の通り、株価は世界中に公開されていて、良い情報も悪い情報も織り込んだ結果として今の価格に落ち着いている。
すなわち、A銘柄とB銘柄を比較した際、どちらがいいか明確に言い切ることは難しい。AとB、どちらがいいかわからない以上、どちらも買っておくのが投資の原則になる。

この考え方は銘柄数が増えても同じことが言えるし、対象が「国」でも変わらない。A国とB国、どちらがいいかわからないのだから、両方の国に投資しておく方が賢い。

日本が低成長だからといって、高成長な国と比べて良いとも悪いとも言えないことは先ほど述べたとおりだ。であれば、日本株にも投資しておく方がより分散の効いた「賢いポートフォリオ」になる公算が大きい。

日本株を選択的に除外した場合、投資で重要な分散の一部を損ねることになるが、そのデメリット覆すだけのメリットを説明することは困難である。低成長だからといって日本株を見限るべきではない。


日本は投資後進国なので株価上昇余地を大いに残している(かもしれない)

さて、ここまでの話で日本株と外国株のどちらが良いかは、はっきりとはわからないことがお分かりいただけただろう。ここからは少し余談である。

日本では、預貯金の残高が世界の主要先進国と比較して相当に多く、日本人は「投資嫌いの貯金好き」である。銀行や保険会社などの金融機関に対する警戒心も相対的に緩く(証券会社はそこそこ警戒されているかもしれないが)、投資に対する関心も低い「投資後進国」と言っていいだろう。日本政府が「新しい資本主義の実現」といった中身もよく検討されていないような政策を勢いでぶち上げるのは、この点に問題意識があるからだろう。「新しい資本主義」の中身が意味不明だとしても、時の政権に日本の投資意識に対する問題認識があるはこと自体は歓迎できよう。過去最高額と言われる企業の内部保留が叫ばれるように、株価を維持、上昇させる努力は企業側でさえ積極的に行なっていない。

ここ数年、非常に調子の良かった米国株は、その背景に積極的な自社株買いを行なってきた経緯がある。しかし、株式は無限ではないので、自社株を必死に買い集めれば、徐々に自社株買いの余地は少なくなる。
※詳細は割愛するが、企業の自社株買いは基本的に株価を上昇させる。

一方で、日本ではそもそも自社株買い自体、一般にあまり理解されていない。この記事に辿り着くような物好きな読者はご存知かもしれないが、「自社株買い」と聞いても、なんのことかよくわからない人の方が多数派だろう。すなわち、日本企業には「自社株買いによる株価上昇の余地が大いに残っている」可能性がある。
加えて、個人の預貯金が主要先進国の中で相対的に大きいと言うことは、裏を返すと今後の投資潜在力について、日本は大きい余力を持っているかもしれないのだ。

当然、これらの内容も株価は織り込み済みのはずなので、だから日本株が良いということにはならないのだが、日本もそこまで捨てたものではない。


総括

ネガティブなニュースが多い国(や銘柄)でも、それが直ちに投資を控える理由にはならない。日本人は今時点でどのような運用をしていたとしても、どうせ最後は「円」に戻して使わないといけないのだから、為替リスクなしで円建てベースで投資できる日本株への投資は軽視すべきではない。

特に最近は米国株が流行っていて、S&P500連動のインデックスが人気を博している。インフルエンサーと呼ばれる人物の影響も大きく、このような状況を作り出している側面もあるだろう。

しかし、投資において「分散」は長期、低コストと並んで最重要事項だ。米国の500銘柄に投資するくらいなら、米国すべての企業に投資した方が負けにくくなるし、それよりも全世界に投資した方がさらにしぶといポートフォリオが作れる。

株価は市場参加者のコンセンサスと言われる。バブルを見れば明らかなように市場も値付けを誤ることはあろう。しかし、一個人の予測や見立てよりは市場で形成されている株価の方こそが現実だ。自分ならうまく市場を出し抜くことができるとは考えないほうがいい。

特定の書籍や雑誌、インフルエンサーなどの発信情報を盲信することなく、また、特定の国や地域に傾倒することなく、フラットな視点で幅広い分散ができるように心がけたい。その対象は世界一の経済力を持つ米国でも低成長な日本でも例外ではない。

ちなみに、マスコミの報道と同じで、この記事も鵜呑みにしてはいけない。最終的に情報を咀嚼して判断するのは自分なのだ。

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