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日本語の基層音節を探る

本記事では、日本語の基層に存在すると思われる語(主に単音節)を抽出し、現在の日本語とどのように関連しているのかに注目する。

縄文時代に存在したと想定する単音節は、以下のような音節が想定可能だと考える。
pas,wak,wat,wad,nup,…

なお、上記の音節は、ほとんどが4万年前~3万年前のユーラシア大陸の広い範囲で、ある程度共有されたイメージと紐づくと想定している。

今回はその中でも日本語を形成する過程で重要な素材として働いたと思われる*nup/nop(ヌプ または ノプ) と*wak(ワック)について記載する。

*nup/nop

*nup または *nop  という音節は縄文時代に「野原・野山」のような意味を帯びていたと想定できる。

以下に、*nup または *nop から派生したと考えられる語を記した関連図を示す。

(※)初期表示では文字が小さくて見にくいと思われるので、下の画像をクリックして画像拡大してご覧ください。

fig01 派生図 *nup/nop #01
fig02 派生図 *nup/nop #02

全体として重要な点を以下に簡略してまとめる。
✔ *nup/nop は アイヌ語の nupuri という語を作った。
✔   日本語 の 「のぼり」・「のぼる」を作った。
✔   日本語 の 「のび」・「のべ」・「のばす」を作った。
✔  napa(なぱ) から派生した多くの語を生んだ。
     縄、なば(= キノコ)、那覇、なま(生)、舐め、鍋、など
✔ 影響範囲が北海道から琉球に及ぶ。


「ヌプ」 or 「ノプ」の表記や発音は日本語っぽく見えない・聞こえないかもしれないが、多方面に幅広く拡散していると思われる。

(memo) 
OJP.napa ➔ MJP.nawa なわ(縄) の由来について
南島語由来の可能性あり。
PAN *náva(= 霊 呼吸) ➔ napa/nawa なわ(縄) 

上記 *náva は オーストロネシア語の研究者 Otto Dempwolff が 『オーストロネシア比較音声学 第3巻』(1938) で再構したとされる。

固有名詞への派生

分かりやすいのは男子の名前に「のぶ」(信)という音が頻繁に入っていることである。人名に入っている「ノブ」は、 *nop の変化形(variant) と思われる。

*nopnobu(伸ぶ/延ぶ) ➔ (述ぶ) ➔ のぶ(信) 

「ノブ」が もともと 野、山のような意味を持っていたことは古墳時代以降に徐々に忘れられて、中世以降に漢字「信」と結びついて、とても良い意味の語になったと思われる。日本人の遺伝的な記憶の中に「ノブ」という発音が力強くてポジティブなイメージと結びついていると考えられる。

また、地名については 日本各地に 「なべ」「のぶ」「のべ」「のぼり」が付く地名がとても多い。これらも *nop の変化形(variant) と思われる。代表的な地名をいくつか示す。

なべ 
  とこなべ 床鍋(富山県氷見市、高知県高岡郡四万十町)
  なべしま 鍋島(佐賀市、京都市、 富山県砺波市など)
のぶ 
  いのぶ 井延(福岡県八女市) 
  のぶ 野面/ 延/濃部/延生(北九州市八幡西区など)
  のぶと 登戸(千葉市など) 
のべ
  のべおか 延岡(宮崎県延岡市)
  ふちのべ 淵野辺(神奈川県相模原市)
のぼり
   さわのぼり 沢登(山梨県南アルプス市)
   のぼりお 登尾(京都府舞鶴市、和歌山県紀の川市)

上記のような地名は漢字の意味で解釈すると意味がよく分からない。それは、古い時代の(音節)を(漢字に当てて)反映して現代に引き継がれていると思われる。

*wak

以下に、*wak から派生したと考えられる語を記した関連図を示す。

fig03 派生図 *wak

全体として重要な点を以下に簡略してまとめる。
✔ 最古の形wak-wak が そのまま現代日本語に存在する。
✔ 「わかめ」は waka(水の)+me(芽) と合成されたと想定
✔ waka(わか)という音節は多くの語と地名を生んだ。

urawaka は ura(浦)+waka(若)という水に関連する2つの音節を合成して、「みずみずしい(瑞々しい)」を意味する形容詞になった。逆に waka(若)+ura(浦)の順で合成したのが和歌の浦という地名(後の和歌山)である。

注意点


過去に存在した音声を完全に証明することは困難であり、あくまで上記は考えられる想定である。

この記事を土台として何らかの応用がなされたときに、多くの整合性が見られた場合、この記事の想定が真実に近いと評価できる。

なお、本記事は不定期更新予定で、アップデートする際、都度、縄文由来の音節と弥生時代以降に登場した音節を区別して記載予定である。


脚注(Footnote)


改訂(Revisions)

2022 0711 初版 
2022 0719 *nup/nop 固有名詞への派生を追記
2022 0809 *nup/nop 派生図を更新

(以上)

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