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『エヴァ:Q』の取材地は海を越え、標高4205mのツンドラ気候へ。作品に込められた<宇宙愛>を探る。

1 寒くて息苦しいハワイ

 映画のエンドロールを眺めるのは面白い。その作品のこだわりがよく分かるからだ。

 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)の場合、「取材協力:すばる望遠鏡(国立天文台ハワイ観測所)」と書かれていた。確かにすばる望遠鏡の画像を探すと、庵野秀明(総監督)と貞本義行(キャラクターデザイン)のサインが残されている。

 1999年、日本の国立天文台は「すばる望遠鏡」をハワイ島マウナケア山に建設した。標高4205mの山頂付近は世界屈指の観測地。天体を観測するうえで欠かせない条件が揃っている。

 マウナケア山頂はほとんど雨が降らず、大気の揺らぎが少ない。空気が澄みわたり、街明かりが無い。
 裏を返せば、植物が育たないくらい乾燥している。気圧が平地の60%程度で息苦しい。おまけに凍えるような風が吹き、観測施設以外何も無い。天文関係者でなければ寄り付かない場所なのだ。

 エヴァの制作スタッフは、なぜこんな過酷な環境へ行ったのだろうか? ここでは、マウナケア山とエヴァ:Qの関係性を考察してみる。

2 AAAヴンダーの重要設備

 制作スタッフの山下いくと(メカニックデザイン)は、次のように言っている。

 ここでいうパラボラとは、すばる望遠鏡のすぐ隣にある「サブミリ波干渉計」のことだろう。8台のお椀型の小型アンテナ(口径6m)が並んでいる。干渉計(かんしょうけい)とは、宇宙空間にあるガスやチリが発する電波を受信するものだ。

 確かに、作中に登場する巨大戦艦「AAAヴンダー」は、小ぶりのパラボラアンテナを3つ搭載している。
 大型アンテナであれば、遠方からの微弱な電波をとらえられる。しかし、ヴンダーの激しい空中戦を考えれば、大きなものは邪魔だ。干渉計のように小型アンテナを複数並べれば、口径数十m級の大型アンテナと同等の性能を得られる。だから、ヴンダーに設置されているものは理にかなっている。

 残念ながら、エヴァ:Qではパラボラアンテナが活躍するシーンは無かった。一方、最新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』では驚きの使い道が……! ぜひ劇場で観て確かめてほしい。

3 セカンドインパクト後の星空

 次に着目したのは、物語の中盤、シンジがカヲルと一緒に星を眺めるシーン。オリオン座が日本で見るよりもずっと高い位置にある。つまり、二人は緯度が低い地点(赤道に近い地点)にいる。マウナケア山のある北緯19度あたりだろうか。

 テレビアニメ版には、セカンドインパクトの衝撃によって、地球の自転軸がずれたという説明がある。つまり、北極点と南極点にあたる場所が移動し、その中間地点である赤道(緯度0度地点)の位置が日本付近へ動いた。

 他にも注目すべき点がある。星空のシーンをよく見ると、画面を横切る冬の天の川がかなり濃く描かれている。街明かりの全くない場所に違いない。もしかしたら、制作スタッフがマウナケア山で見た星空を描いたのかもしれない、という想像が膨らむ。

 更に、大気の揺らぎに伴う恒星のまたたきが再現されている。画面のあちこちで星が不規則に点滅する。信号機のように「チカチカ」光るのではなく、鼓動のような「じわっ、じわっ」という感じ。それが実にリアルなのだ。

4 制作の原動力は?

 この星空のシーンは、じっくりと星を眺めたことがある人でないと表現できないと思う。過去のインタビュー記事によると、庵野秀明の宇宙へのこだわりは、子ども時代に原点があったようだ。

「父の足が不自由だったため、家族連れで外に遊びに行くことはめったになく、学校から帰ると秀明は白黒テレビにかじりつき、『ウルトラセブン』やアニメに心を躍らせていた。それでも星を見るのが好きな息子のために、父は不自由な足で自転車をこぎ、市内の高台へ通う」(『AERA』1998年8月31日号/朝日新聞社)

 そんな元天文少年だったから、制作のためにはるばるマウナケア山へ向かったのだろう。また、本作のエンドロールには、宇宙考証に協力した研究者の名前もあった。冒頭の宇宙作戦シーンの描写についてアドバイスして、リアリティを追求したそうだ。(『週刊アスキー』2013年1/8-1/15合併号/アスキー・メディアワークス)。

 2021年は、『シン・ウルトラマン』(企画・脚本/庵野秀明)の公開も控える。今度はどのように宇宙を描くのだろうか。

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