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『映像研には手を出すな!』レビュー 作品を完成させるのに必要なのは「責任」と「締切」だ

凄腕プロデューサー・金森がキーパーソン

創作活動のヤル気を爆上げしてくれるアニメ『映像研には手を出すな!』を是非観てほしい。『バクマン』や『映画大好きポンポさん』のような「ものづくり系」作品が好きな人には間違いなく刺さるはず。

原作は大童澄瞳の同名マンガ (ビッグコミックス)。NHK総合で2020年に放送されたアニメ全12話がAmazonプライムビデオなどで配信中。

主人公・浅草みどりは幼少の頃からアニメ制作に憧れ、ひとりでスケッチブックに設定画を描いて楽しんでいた。芝浦高校に入学した彼女は、同じくアニメーター志望の同級生・水崎ツバメと出会う。浅草は水崎とタッグを組み、「映像研究同好会」を立ち上げてアニメ制作をはじめることになる。

このふたりを引き合わせる重要な役割を演じた「仕掛人」がいた。浅草の旧友で、カネ儲けに目がない金森さやか。金森は浅草・水崎の情熱と才能を見出し、一緒にアニメを制作すればカネになると考えた。

(サムネイルの左から金森、浅草、水崎)

趣味ではなく「仕事」としてアニメを作るというのが『映像研には手を出すな!』のキモだ。彼女たちは、同じ高校の部活・ロボ研や、地域の商工会といったクライアントの依頼でアニメを制作する。

金森「少なくともカネはもらいます」
浅草「カネの亡者め!」
金森「仕事に責任を持つためにカネを受け取るんだ! カネは依頼した仕事の出来を保証させるためにあるんです。カネをもらう以上、われわれには仕事の出来を保証する義務が生じます。カネをもらって責任を持つのと、カネをもらわず責任取らないのとどっちが健全か言ってみろ」
『映像研には手を出すな!』第5話より

浅草(監督・脚本担当)と水崎(作画担当)はカネ儲けに興味が無く、自分たちが好きなように作れればいいというのが本音だ。しかし金森(プロデューサー担当)はそれを許さない。好奇心旺盛な浅草と水崎は、つい作業を脱線したり、異常に細かい作業にこだわり過ぎてしまいがち。自由気ままに作っていては挫折する。だから何が何でも完成させなければならない状況を、金森が意図的に作り出している。

浅草はストーリーのオチが思いつかずに苦しむことがある。どうしようかとひたすら悩む。限界まで考えに考えた先に、やっとアイデアが浮かぶ。この限界というのが、クライアントへの納期によって(強制的に)与えられる。

映像研の彼女たちが経験しているのは、プロのクリエイターあるあるそのものだ。高校生にしてこんなことをやっているのは凄い。というか金森は、高校生だからこそやるべきだと主張する。

そして第10話、高校生ビジネスの是非について、映像研は学校側と真正面から衝突する。

大人ではなく高校生であるがゆえに

教頭「あなたたちは学生よ。今しかできない部活のやり方があるんじゃない? 先生はね、今を大事にしてほしいの。そんなに急ぐ必要はないわ。大人になれば嫌でも……」
『映像研には手を出すな!』第10話より

教頭の言葉は生徒のことを案じているようにも聞こえる。しかし、今後もし映像研が金銭トラブルを起こしてしまったら、学校へ飛び火してくるのではないか……? そんな責任を負いたくないという、教師の自己保身が透けて見える。

大人になるまで待つなんてこと、金森には到底できない。第9話で、彼女は「私はその昔、一軒の酒屋が消滅する現場を見た!」と熱く語っていた。かつて金森の親戚が経営していたという酒蔵は、客のニーズを汲み取らず、独りよがりなこだわりに走った。また、せっかく商品を揃えても積極的な宣伝をしてこなかったため売上は低迷。金森が幼少の頃に倒産してしまった。

自分が大好きだった酒屋の末路を目の当たりにして、当時の金森は大変な衝撃を受けた。そして、この一件を他人事として考えなかった。酒屋を反面教師にしつつ、実際に自分でビジネスをはじめてみようとする。今すぐに。

彼女は、ビジネスの経験を積むのは親に養ってもらっている学生時代が最適だと考える。仮に利益が上がらなかったとしても、飢えて死ぬことはない。

そうやって金森は学生であることを利用しようとしたが、教師との対立を招き、逆に足枷になってしまう。彼女たちの苦闘を観ていると、もどかしくなる。

映像研がそこまでしてアニメ制作をやるのはなぜなのか?

映像研が作ったアニメをお客さんが買って、役立ててくれている。ロボ研のプロモーションビデオなら新入部員の獲得に、商工会のご当地アニメなら観光客の呼び込みに。もし作品が良いものであれば売上は上がっていくし、その逆も然り。仕事だから結果が全て数字になって跳ね返ってくる。次はもっといい作品にしてやると、また熱中して作りはじめる。これほど面白いものはない。

映像研の彼女たちを応援する身としては、いつかアニメ制作で食べていってほしいと思う。できれば、宮崎駿や庵野秀明みたいなビッグなクリエイターになってくれるといい。『映像研には手を出すな!』の原作マンガの連載は続いているから、今後の展開も要チェックだ。


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