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露伴の初恋の決着を目撃せよッ! 映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』レビュー

誰にでも、少し背伸びした恋の思い出はあるだろう。いつも偉そうで俺様キャラな岸辺露伴も例外ではない。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、これまで明かされなかった彼の青春時代の心情を描くストーリーだ。過去作『ジョジョの奇妙な冒険』第4部や、彼を主人公にした一連のスピンオフマンガ『岸辺露伴は動かない』のファンからすれば、従来の露伴イメージがガラッと変わること間違いなし。5/26から公開中の実写版映画を原作マンガ版(作:荒木飛呂彦)と比較しながらレビューする。

露伴も経験した「思春期の男子あるある」

人気マンガ家である露伴(高橋一生)は、ネタ集めのために国内・海外問わずに取材へ行く。いつも遭遇するのは、妖怪やら祟りやら怪現象ばかり。彼は、相手を本にして記憶や思考を読む能力「ヘブンズ・ドアー」を持っていて、それを駆使してピンチを切り抜ける。今作はタイトルのとおりパリのルーヴル美術館へ赴き、呪いの「黒い絵」の謎を追う。

『ルーヴルへ行く』の前半、青年時代の露伴(17歳)が登場する。当時、マンガ家として作品が売れたことはまだ一度もない。それに、他人に堂々と原稿を見せる勇気もない。下宿先で知り合ったヒロイン・奈々瀬(木村文乃)にマンガを読ませてと言われても、彼はなかなか応じない。

露伴は奈々瀬に恋をしていた。彼女は年上の綺麗なお姉さん。ミステリアスな大人の女性に惹かれるのは、まさしく思春期の男子あるあるだ。露伴はつい彼女を目で追ってしまうが、奈々瀬のカンは鋭く、彼女は視線を向けられていることに気づく。バレた露伴は冷や汗が止まらず、吃(ども)ってばかり。当時の露伴はウブで、この恥ずかしい感じが実写だと余計に生々しい。観ていると、露伴よ、お前の青春もそうだったのかと感慨深くなる。

残念ながら彼の恋心は成就せず、奈々瀬との別れのときが突然やってくる。露伴は彼女をモデルにしてマンガを描いていた。しかし、奈々瀬は露伴のマンガを読んで激怒。原稿をズタズタに引き裂き、下宿先から姿を消す。彼女はなぜそんなことをしたのか? 露伴はただ呆然とするばかりだった。

奈々瀬の失踪から長い年月が経ち、露伴は彼女から聞いた呪いの「黒い絵」の話を思い出す。どうやらルーヴル美術館に所蔵されているらしい。マンガ版にはこんなセリフがある。

「フム……好奇心か? それとも青春の慕情なのか。行ってみるか。どんな絵なのか見ておく必要がある」

注目すべきは、絵を見に行って初恋の決着をつけようという発想が、大人になるまで露伴の頭に浮かばなかったことだ。映画では具体的な説明がないが、マンガ版によると、奈々瀬との別れから10年以上かかっている。普段フットワークの軽い露伴にしては珍しい。あまりに奈々瀬の失踪がショックで、青春の苦い記憶をずっと心の中で封印していたのだろう。そんな露伴の繊細な一面が描かれるのは、シリーズ史上『ルーヴルへ行く』が初めてだ。

17歳の露伴が無力であった理由

映画の前半部で、マンガ版と異なる箇所がある。奈々瀬が抱えていた離婚問題の話がカットされていて、筆者としてはそこがちょっと惜しいなと思うのだ。

マンガ版によれば、奈々瀬は夫と別居状態で、露伴と同じ下宿先で一人暮らししている。それでも彼女はだいぶ未練があるらしく、夜中にかかってきた夫からの電話でポロポロ泣き、「ね…どこから電話してるの?」「お願い来て……」と言って部屋から大急ぎで駆け出していく。映画では、この失踪までのくだりが省略されている。

奈々瀬が露伴の手の届かない存在であるのは、単に奈々瀬が高嶺の花だからというわけでない。露伴の前には、離婚という、10代の青年が首をつっこむ余地の全くない複雑な問題が立ちはだかっていた。露伴がいくら「あなたの力になりたい」と奈々瀬に言ったとしても、あまりに無力。そこも含めて、映像化してほしかった。

でも今回の映画では、大人になった露伴が遠い記憶をたどりながら奈々瀬の横顔を描くシーンがある。ここは凄くいい! 同じくマンガ家が主人公のマンガ『バクマン。』(作:大場つぐみ、小畑健)では、「マンガ家って結構 自分の理想の女の子をヒロインとして描く」というセリフがある(第3巻)。きっと露伴がマンガを描くときも、無意識のうちにずっとそうしてきたんじゃないかと想像が膨らむ。

最後に、映画の他の見どころもいくつか挙げておこう。露伴はルーヴル美術館で「黒い絵」を発見し、ある「敵」と遭遇する。絶対絶命のピンチに陥るも、ヘブンズ・ドアーを巧みに使って状況を逆転させる。彼はいつも数手先まで考えて行動していて、実にスマートなヒーローとして活躍する。

そして後半部、物語は「黒い絵」が描かれた250年前の江戸時代に突入する。絵の作者・山村仁左右衛門役のまさかのキャスティングに驚くし、筆者としては、マンガ版を補完するオリジナルの展開にグイグイ引き込まれた。

人気マンガの実写化作品として数少ない成功例のひとつとして挙げられる『岸辺露伴』シリーズ。今後も映画やドラマが続いていくのか、注目だ。

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