マガジンのカバー画像

Design&Art

66
知れば知るほど奥深いフィンランドのデザインとアート。
運営しているクリエイター

記事一覧

Design&Art|Colors in Finland 〈06.フィンランドの色〉

「我々はスウェーデン人には戻れない。ロシア人にもなれない。そうだフィンランド人でいこう」 かつて、隣国からの支配と自国の独立の狭間にいたフィンランド。この言葉は当時のフィンランド人に民族意識を与え、結束、そして建国への後押しとなったといいます。 100年ちょっとの北の国。この地に生きる人びとは、自分たちの特色を、自分たちが誇れる景色を、すなわちフィンランドの「色」をずっと探し続けてきました。 “フィンランドデザインからは、自然を身近に感じていたいという人々の純粋な欲求と

Design&Art|Colors in Finland 〈05.レッド〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回はクランベリーパウダーの赤色を出発点に、人やモノ、都市から自然まで、様々な風景をお届けします。 赤から連想されるもの。たとえば森のベリーや野花、街中の信号やポスト。紅葉や提灯、鳥居など。空の青や木々の緑と違って、赤は「面」というより「点」として存在していることが多く、他の色よりも目立つ存在・特別な状態なものとして感じられます。 「赤」とは、他の色とはすこしだけ距離のある、わず

Design&Art|Colors in Finland 〈04. ブラウン〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回は、秋の乾いた風に漂う落ち葉のブラウンを出発点に、様々な風景をお届けします。 春の新緑にはじまり、時の経過と共にその色を変えてゆく木々の葉たち。最後は、新たな生命のための養分として地に還るという一連の巡りは、人生そのものに例えられたり、人という生命の儚さと重ねて語られることがよくあります。 夏の終わりの切なさや、秋の風がもたらす感傷は、そこに自分自身の残像が含まれているという

Design&Art|Colors in Finland 〈03.イエロー〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回は、道端で見つけた野花の黄色を出発点に、様々な風景をお届けします。 自然界には数多の色がありますが、その中でも黄色のもつ明るさ、ポップな印象は唯一無二です。花びらの黄色は、時に希望の象徴としての意味を持つものです。 ヘルシンキの街には緑色のトラムと青色のバス、そしてオレンジ色のメトロが走っていますが、古都トゥルクでは黄色のバスが街の風景を彩ります。 バスのなか。手すりの色が

Design&Art|Colors in Finland 〈02.グリーン〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回は、サーモンスープなどでお馴染みのハーブ、「ディル」の緑を出発点に、様々な風景をお届けします。 フィンランドではじめてサーモンスープを食べた時、「なんだか森の香りがする」と思ったことを今でも鮮明に覚えています。パクチーほどの刺激はなく、ネギのように馴染み深い香りでもなく、不思議な、けれどフィンランドの森の空気をほのかに感じるさわやかな香りでした。 フィンランドといえば国旗に見

Design&Art|Colors in Finland 〈01.ブルー〉

世界は光に、そして色にあふれています。 色は時に人の感情を大きく揺さぶり、また過去の記憶を、遠い風景を思い起こさせてくれるものです。ゆえに、芸術において「色」はつねに重要な役割を担いつづけ、それは絵画でも、映画でも、舞台でも、そしてデザインでも同じことでしょう。 新たに始まるコラムシリーズ「Colors in Finland」では、フィンランドの「色」に焦点を当てて、色が織りなす風景・物語をご紹介していこうと思います。 今回は、フィンランドの夏の風物詩「ブルーベリー」の

Design&Art|デザインを探して 〈06.人とモノの物語〉

なにかをつくること。 私たちの生活にはたくさんのモノが溢れていて、その背後には、いつも人との物語がひそんでいます。子供の頃の思い出とか、ありふれた日常の風景とか。 デザイン(Design)の語源は、計画を印として描くこと・残すことだと聞いたことがあります。では、“フィンランドデザイン”が現代に残したものとはいったいなんなのでしょう。 先史時代よりつづく、人とモノの物語。 今回は、タンペレとヘルシンキの街を歩きながら、モノへの思考を巡らせます。 大きな街を歩いていると、

Design&Art|デザインを探して 〈05. 神秘の森のその先へ〉

フィンランドの森には妖精がいると、どこかで耳にしたことがある。それはムーミンのことかもしれないし、赤い帽子を被った小さなエルフのことかもしれない。その真相は、森の中。誰も知る由もなく。 “ なにかがわかるまでに、とても時間がかかることがあるものなのよね ” ムーミンママは、本の中でこう言います。あのムーミン谷すらも、どこにあるのかだれも知らないのだから、ひとつやふたつ、フィンランドの森に秘密があってもおかしくないでしょう。 フィンランドの森に惹かれて。 神秘の森の、その

Design&Art|デザインを探して 〈04. 車窓で旅をして〉

街の風景を窓に描く路面電車は、まるでうごく映画館みたいだ。なんて、空想にふけることがたまにある。 反復する街路樹と北欧らしい石造りの壁、どこかへ向かう人々、なにかを訴えている広告看板。空、風、雨、そして光。 なにかが関係しているようで、実際は関係もしていない小さな街の要素が、予測しない速度で、タイミングで、目の前に差し込まれてくる。まとまりのない物語が走馬灯のように、近づいては遠くに過ぎ去ってゆく。 前回のコラム〈03. 光の地下散歩〉では、ヘルシンキの地下に広がる美し

Design&Art|北欧デザインのとびら 〈15.ラプアン カンクリへのデザイン〉

「北欧デザインのとびら」は15回目を迎え、今回が最終回。2023年はラプアン カンクリ50周年ということで、最後はラプアン カンクリとの出会い、そして、デザイナーとしてラプアン カンクリで経験したことを書きたいと思います。 ラプアン カンクリと出会ったのは2012年。アアルト大学院のPattern Labというプロジェクトで、私たちが作ったパターンデザインを見てもらうために、オーナーのエスコさんとヤーナさんに初めてお会いしました。その時、二人がと

Design&Art|デザインを探して 〈03.光の地下散歩〉

ひかり溢れる北欧の夏と、沈黙の冬。 北に位置するがゆえに、ヘルシンキの街を照らす太陽の光が季節によって大きくうつり変わることは広く知られていますが、この街には、いつも変わらず光に満ち溢れている空間があります。 ヘルシンキメトロ。世界の最北端にある地下鉄です。 ヘルシンキの東西方向に走るこの地下鉄は、1982年の完成以来、着々と延長工事が続けられていて、今日に至るまでちょっとずつ西へ東へとその範囲を拡大してきました。地下深くにつくられる駅にはもちろん太陽光は入ってきません

Design&Art|デザインを探して 〈02. ヘルシンキの残像〉

「見えない」ということが、かえって何かを予感させてくれる。 そんな美しい詩みたいな時の流れが、きっと日常にはあるはずだ。 失われた時を求めて、不確かな輪郭を掴もうとして、何かをもっと見ようとする。精一杯に感受しようとする。 まるで、冬の空気に澱む春の香りを感じるように。 フィンランドに住んでいた頃、ひとつの素晴らしいカメラに出会いました。 私たちが留学していたアアルト大学では、専門的な機材を無償で学生に貸し出してくれていて、その中にはとても高価なものや価値の高いものが

Design&Art|デザインを探して 〈01.黄昏の海〉

私たちlumikkaによる「デザインを覗く」シリーズは、新たな視点で再スタートします。今回からのテーマは「デザインを探して」。長らく、遠くの場所から眺めることしかできなかったフィンランド。少しずつ、少しずつではありますが、いま、北への扉はまた開こうとしています。 旅をしませんか、デザインを探して。 このコラムでは、土地を歩いたかつての記憶を頼りに、フィンランドのデザインやデザインの種となる美しい風景を探す旅に出かけます。おだやかな波のような、言葉と写真がゆらぎ混ざりあう記

Design&Art|北欧デザインのとびら 〈14.手漕ぎボートで感じる自然と景色〉

第1回目のコラムや、「Matka / 旅とリネン」のインスタライブでもご紹介しましたが、ヘルシンキ南部にあるハラッカ島に私のスタジオがあります。この島は、海外観光客にも人気のCafe Ursula(カフェ・ウルスラ)がある本島の海岸から海を渡ってすぐの場所にあります。 海が荒れている時、海が凍っている時以外はいつも、懸命に手漕ぎボートを漕いでスタジオに通っています。スタジオがあるアーティストハウスには、30名程のアーティストがいますが、ほとんどの