見出し画像

Events|Taito Kauppa / フィンランドの工芸 〈Méng talks ヒンメリ〉

乾燥した麦わらを糸で繋ぎ多面体に形成した、800年以上続くフィンランドの伝統的な装飾品「ヒンメリ」。古代、太陽の復活を祝う冬至祭・ヨウルの装飾品として作られたのがはじまりと言われています。その後は幸運を願うお守りとして、様々なお祝い事で飾られるようになったヒンメリ。日本でも、クリスマスの装飾やインテリアオーナメントとして幅広く親しまれています。

「光のモビール」とも呼ばれ、光があたると真鍮のように美しい輝きを放ち、ヒンメリを通して壁や床に映る影はアートのよう。また、ゆらゆらと風に揺れる様子は、私達の心をやさしく癒してくれます。

スクリーンショット 2020-07-20 18.04.07

いつもLAPUAN KANKURIT 表参道の店内に飾っているのは、北海道在住のヒンメリアーティスト・Méng talksさんのもの。昨年のクリスマスに行った限定販売ではとてもご好評を頂き、その後は作品を変えながら、常時展示販売を行っています。

この度「Taito Kauppa / フィンランドの工芸」では、いつもより展示数をボリュームアップ、お問い合わせの多かった人気デザインに新しいデザインもご用意して頂きました。

今回は、当店のオープン時よりお世話になっているMéng talksさんにお話を伺います。

・・・・・・・・・・・・・・・

スクリーンショット 2020-07-20 18.33.33

--あらためて、ヒンメリと出会った時のことを教えてください。

「ヒンメリとの出会いは、2007年の冬、おおくぼともこさんのヒンメリ書籍出版記念企画展でした。あの時に足を運んでいなかったら、作家にはなっていなかったと思います。麦わらと糸で構成された幾何学とその輝き、そして幻想的な陰影に強く心惹かれ、何周も店内をうろうろしてしまいました。帰りの電車の中、美しいものに出会えた心満ちる充足感と、その晩はしばらく寝つけなかったことを覚えています。」

--ヒンメリと出会ってから10年以上が経ちましたね。Méng talksさんにとって、ヒンメリの一番の魅力とは何でしょうか。

「古代から今へと人の手を介してストローに糸を通して繋いできた幾何学の美と、神秘性のあるストーリーが宿っているところです。」


スクリーンショット 2020-07-20 18.30.41

-作品作りにおいてもっとも大切にしていることはどんなことでしょうか。

「麦わらであること。必要以上の華美とならない調和と、ヒンメリの自然崇拝や精神性に踏襲しながらも、前衛的な挑戦を忘れないことです。」

--現代では様々な素材でヒンメリが作られていますが、麦わらで作ることを大切にされているのは、自然崇拝という部分にありますか。歴史を守るということでしょうか。

「自然崇拝という部分だけでなく、時は絶えず流れ、世は限りなく進展してゆく中で、古から繋いできた人々と伝統に敬意を払っていきたいという思いの表れが、私にとって麦わらを選択することであり、大前提となっています。」

「『形あるものはいつかは壊れる。しかし伝えたいものがある、残したいものがある、それを伝統という、歴史という。』この言葉は、以前訪れた川村カ子トアイヌ記念館の展示物にあった言葉です。アイヌ民族は全てのあらゆるものに「魂」が宿っていると考えられ、精霊信仰であったフィンランドのアニミズムな視点において似通っている部分があります。自然への敬畏の念を持ちながら、祈りを献げ神々と互酬的な関係性を保ち、人々が日々の暮らしの中で細々と繋いできたものが、伝統となり、いずれ歴史となっていくのではないでしょうか。」


スクリーンショット 2020-07-20 18.20.17

--作品のデザインは、どこからインスピレーションを得ていますか?また、どんな時に浮かぶことが多いですか。

「ひとり時間、散歩の途中で浮かんだりするので、いつもメモとペンを持ち歩いています。草花、雪の結晶など自然の中で生まれた造形など。イサムノグチ、ルース・アサワの作品などからも創作意欲が湧きます。」

--イサムノグチ、ルース・アサワのどのような点に惹かれますか。

「日系アメリカ人としての彼らの生い立ちやアイデンティティの葛藤は、喜びや愉しみといった側面だけではない、悲しみや苦しみといった負の側面も全て、生きるパワーに変えていくような力強さも作品から感じるところでしょうか。(個人的な主観です) また、遊具や公共物として人々に愛される作品を数多く残していることも惹かれる理由です。老若男女問わず、開かれた場所で、見た人の心を動かすものを生み出していきたいですね。」

最近では自宅にライ麦畑を作り、栽培の様子をインスタグラムにて「時々麦わら通信」として発信されているのを拝見しました。

「ご縁があり、古い家屋をこの春に購入しました。暫く野放しだった敷地内の8畳程の空きスペースに、土壌改善も兼ねてライ太郎(以下太郎ちゃん)という緑肥用ライ麦を育てています。雑草とり、土起こし、種まき全て黙々とやりましたが、その苦労に応えてくれるように、太郎ちゃんもグングンと成育しています。日々の中でその変化を知り、より存在を近くに感じ、癒しになっています。」

スクリーンショット 2020-07-20 18.26.39

育てることでさらに麦わらへの愛情が強くなりそうですね。

--実際にライ麦を種から栽培してみて、苦労することはありますか。

「雑草蔓延る荒れた状態から、種まきが出来る状態の畑にするまで、一心不乱になって肉体労働に勤しんだことでしょうか。手のひらにはマメができ、全身が筋肉痛になりました。無事育って欲しいという強い願いと手間隙をかけた分、愛情も一入、太郎ちゃんと呼んでしまう所以でもあります。」

「古の人々同様に、自然を敬い、全てのものに魂や神々が宿り、祈りを献げるという思想および行為に至ることは、ある意味自然なことの様に思えます。またその擬似体験を、太郎ちゃんを通してとても小規模ですが体験している気もします。(私は"ちゃん"付けで、相当馴れ馴れしいのですが。笑)」

スクリーンショット 2020-07-20 18.21.40

作品製作の他、ワークショップなど、さまざまな形でヒンメリの魅力を伝えているMéng talksさん。

--これから新たにやってみたいことはありますか。

「ワークショップではなかなか伝えきれないお話や、制作の過程が沢山あるので、一年を通した播種から収穫、そして下準備も含めた作品を制作していく過程を、体験であったり、情報発信であったり。何か共有できないかな、と考えているところです。」

--最後に、Méng talksさんのヒンメリをお持ちのみなさま、これからご覧になるみなさまに、メッセージがありましたらお願いします。

「マイペースな活動のため、限られた場所・機会にありながら、関心をお寄せいただき、また作品を選んで下さった皆さまへこの場を借りて、ありがとうございます。私の手許を離れ、どんな方が選び、どんな場所で作品が揺れているのかと思い馳せます。日々の生活の中でヒンメリの揺らぎが、ひと息つく心のゆとりや癒しになれたらと北の空から想っています。」

色々なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。

・・・・・・・・・・・・・・・

「Taito Kauppa / フィンランドの工芸」では、新しいデザインをみなさまにご覧いただけるとあって今からワクワクしています。ぜひ楽しみにしていてくださいね。

Méng talks
北海道上川郡東川町在住。独学でヒンメリ製作を始める。自然崇拝への想いを込めた緻密で繊細な作品が特徴的なヒンメリアーティスト。東川町複合交流施設せんとぴゅあⅡ 展示、リトアニア「The magic of straw」に参加するなど、幅広く活動されている。活動の一端が関わるもの全てが方々へと循環することを目的として、収益の一部を国際協力機関へ寄付しています。