設備資金借入の審査ポイント【まとめ】
おはようございます。資金繰りが専門の現役信金マン 兼 中小企業診断士事務所代表の山西です。当noteでは、毎週土曜日に、経営者や経営支援者に向けて経営力強化に繋がる投稿をしています。
直近3週間に亘って、設備資金借入の審査ポイントを投稿してきました。非常に長い内容だったため3回の記事に分割しましたが、今回は要点を絞ってその3回分をまとめていますので、設備投資の考え方や設備資金借入の審査ポイントの考え方のご参考にしてみてください。
詳細については、各記事をご参照ください。
審査ポイント①:償還能力
償還能力(1):収益償還能力が十分か
債務償還能力≒債務償還年数が十分かどうかを審査します。債務償還年数は、見込みの営業キャッシュフローをベースに算出します。
償還能力(2):損益分岐点売上高を確保できるか
損益分岐点売上高を確保できるかを見ます。要は、投資事業の損益分岐点比率が100%を下回っているかどうかを見ます。
損益分岐点売上高とは、利益がゼロになる時の売上高のことで、以下の式で算出されます。
この損益分岐点売上高を確保できそうかを審査します。また、売上高の見立てを基に、その売上高を確保できる根拠も見ていきます。
(参考)償還能力の検証方法
4C分析で、償還能力を検証していきます。
検証ポイント(1):顧客(市場ニーズ)
(1)-1:市場規模が十分か
市場規模が十分かどうかを検証します。少なくとも損益分岐点売上高を確保できるだけの市場規模が必要です。あまりにもニッチな分野に多額の設備投資をする場合は、市場規模の検証および市場の見直しが必要でしょう。
(1)-2:具体的な販売先が確保できているか
販売先を確保できているか、その販売先と長期的な関係を築けるか、について確認します。そして、販売先を確保するためには、適切なプロモーションを行う必要もあるので、プロモーション→販売先の確保→長期的関係の構築についての計画性を見ていきます。
検証ポイント(2):競合他社
検証ポイント(2)-1:競合状態に懸念はないか
現在から将来にかけて、競合状態に懸念はないか検証します。具体的には「現在の競合他社」と「新規参入の脅威」についてです。
「新規参入の脅威」については、新たな競合他社が参入してくるリスクを指します。当該脅威を認識するためには、業界特性や法律・法改正を理解しておく必要がります。業界特性や法律上、新規参入のハードルが高い場合は、業界内は比較的安定しやすいと言えるでしょう。
検証ポイント(2)-2:代替品の脅威の懸念はないか
競合他社だけでなく、代替品にも目を配る必要があります。代替品とは、あるプロダクトと同様の便益を施す別のプロダクトのことです。
一見、違うプロダクトに見えるものでも、本質的な価値が同じものであれば、別のプロダクトに取って替わられる可能性をはらんでいます。
代替品の脅威に気づくためには、そのプロダクトの本質的な価値を明確にした上で、その本質的な価値を比較していく必要があります。
検証ポイント(3):協力者
仕入先等、どんな人が協力者なのか、また協力者との関係性は良好なのか、協力者の業況に懸念はないのか等を検証します。
協力関係の条件にも目を配ります。仕入先であれば、「どんな頻度で」「どんなもの」「どれくらい」「いくらで」仕入れるのか検証します。協力者と仲が良かったとしても、条件次第で業況悪化を招きかねないからです。
検証ポイント(4):自社
(4)-1:強みを活かせるか
どんな強みがあるのか、この強みは本当に強みと言えるのか、この強みで市場機会を捉えるシナリオが描けているかを検証します。強みの検証には、一般的にVRIO分析を使います。
(4)-2:リソースは揃っているか(人・物・金など)
リソースである「人・物・金など」が揃っているかどうかはよく見ます。従業員数、従業員のスキル、既存の製造設備、商品、手元現預金、既存借入額等です。また、目に見えるもの以外にも、その企業の文化や企業理念も調査します。
(4)-3:業務プロセスは整っているか
業務プロセスに問題ないかを検証します。「企画→製造→販売」という業務プロセスに沿って、商品開発力はあるか、製造力はあるか、販売力はあるか、販売情報のフィードバックが商品開発や製造、販売に活かせているか等をチェックします。どこかが欠けている場合、素晴らしいリソースがあったとしても業務が回らなくなるため、改善が必要となります。
審査ポイント②:保全
保全(1):担保があるか
担保とは、将来生じ得る不利益を補う物で、返済できなくなった際に「どうやって返済するか」に焦点を当てたものです。
担保を入れることで、金融機関は「万が一のことがあっても、回収不能(貸倒れ)になるリスクは少ない」と考えて融資が出やすくなります。
また、担保を入れて貸倒れリスクが少なくなれば、その分、低金利で借入できる可能性が高くなります。金利は基本的に貸倒れリスクによって上下するためです。
担保の最たるものは不動産(土地・建物)でしょう。他にも動産担保、譲渡担保、事業成長担保等があります。
保全(2):保証
「保証」とは、賠償責任を負うことです。借入における保証のことを特に「債務保証」と呼び、保証人は、主債務者が返済できない場合に代わりに返済する(代位弁済)ことになります。
借入人が返済不能に陥った場合に、先ほどの担保のように「どうやって返済するか」ではなく、「誰が返済するか」に焦点を当てた概念です。
担保と同じく、保証があることで貸倒れリスクが低減されるため、融資が出やすくなったり、金利が低くなったりするメリットがあります。
保全(2)-1:保証人
保証人とは、融資に対して連帯保証を負う人のことです。一般的に、法人が借入する場合の保証人は、その法人の代表者になります。
法人で借入して返済不能に陥った場合、その保証人たる代表者が返済義務を負うことになります。法人の代表者による保証を「経営者保証」と呼びます。
近年では「経営者保証のガイドライン」が制定され、経営者保証をなるべく徴求しないようにする考え方が浸透し始めています。
保全(2)-2:保証協会
保証協会とは、保証債務(保証による返済責任)を負うことを業としている機関のことです。
保証協会からの保証(返済をする保証=債務保証)を受けることで、金融機関の貸倒リスクが低減されるため、一般的に低い金利で借入することができますが、その一方で保証協会に対して「保証料」を支払う必要があります。保証料は様々な要素で決まりますが、1%前後になることが多い印象です。
そのため、必ずしも保証協会が付かない融資(プロパー融資)よりも安く借入できるとは限りませんので、注意が必要です。
しかし、いずれにしても借入しやすくなったり、金利が安くなったりするメリットがあったりするので、保証協会付融資を検討してみるのも一策でしょう。
審査ポイント③:返済条件
返済条件(1):借入金額
そもそも借入金額が妥当かどうか判断します。
具体的には、減価償却費≒返済額となっているかで判断します。
減価償却費以上に返済することになれば、キャッシュを生み出すペースが間に合わないかもしれず、一方で減価償却費以下の返済になれば、償却し切った後になお借入が残るため、利子負担が大きくなってしまいます。
あくまで、減価償却費≒返済額となっていることが大切です。
返済条件(2):借入タイミング
ベストな借入タイミングは、お金が必要となる直前です。
お金が必要になるよりも大幅に前に借入すると、必要なく借入しているタイミングが発生するため、余計な利子負担がかかってしまいます。
すぐに使う用事はないけれど、心配だからお金を持っておきたい人は、当座貸越を利用すると良いでしょう。
当座貸越は、借入枠(極度枠)をあらかじめ設定することで、その枠内で比較的自由にお金の出し入れができる借入方法です。ビジネスカードローンも当座貸越の一種です。
返済条件(3):返済タイミング
返済原資獲得タイミング=返済タイミングとなっているかを審査します。
返済原資獲得タイミングが返済タイミングより早くなると、返済できるにも関わらず返済していない状況が生まれるため、余分な利子負担が生じます。
一方で、返済タイミングが返済原資獲得タイミングより早くなると、返済原資が無いにも関わらず返済しなければならない状況になるため、資金繰りに悪影響を及ぼしてしまいます。
大切なのは、可能な限り、返済原資獲得タイミングと返済タイミングが一致していることです。
返済条件(4):その他
その他、保全、金利等、総合的に返済条件が適切か判断します。以前投稿した以下の記事を参考にしてください。
次回予告
次回は、貿易に係る資金調達の方法をお伝えします。
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