「PEST分析」で企業の外部環境を知ろう【事業計画書の作り方③】
おはようございます。現役信用金庫マン 兼 中小企業診断士事務所代表の山西です。当noteでは、経営力強化につながる情報を経営者や支援機関に向けて発信しています。
皆さまご存じの通り、企業の経営環境は日々変化しています。今年の情勢が来年にはがらっと変わっていることも珍しくありません。
企業が自らコントロールできない外部環境は適切に把握しておかなければ、その変化に対応していくことができません。
そこで今回は、企業の外部環境分析として有用な「PEST分析」の方法を紹介します。今回の記事を見て実践して頂くことで、経営環境の変化に合った経営戦略を選択する一助になると思います。
PEST分析とは
PEST分析とは、政治、経済、社会、技術の切り口で外部環境を分析するフレームワークです。
PESTとは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字です。
マクロ環境分析の手法として使われます。マクロ環境とは、市場の外側も含む企業の外部環境を示します。
今後の記事で取り上げるミクロ環境と違って、市場外も含む全体的な外部環境を分析するものなので、どの業界でも同様の分析結果となります。そのため、1回PEST分析しておけばどの業界でも適用できて非常に便利です。
また、事前に立てておいた戦略の仮説を証明するためにPEST分析をするという意識を持つことで、無闇矢鱈に情報収集してしまうことを防げます。
PEST分析①:Politics(政治)
まずは、政治的要因について調べます。具体的には以下のような項目を調べると良いでしょう。
1.政策・政権
現政権の政策について調査します。政治の情報に触れる機会は情報番組や新聞等で多いと思いますが、正式な政策情報に触れることは意外と少ないものです。
2024年1月現在の内閣総理大臣である岸田首相の正式な政策をご存じでしょうか。岸田首相の基本方針は5つの柱から成っています。
1. 新型コロナウイルス対策
2. 新しい資本主義の実現
3. 国民を守り抜く、外交・安全保障
4. 危機管理の徹底
5. 東日本大震災からの復興、国土強靱化
上記内容については、2021年に掲げられたものであり、最近では「骨太の方針」を掲げ、政策の見直しや拡充を図っています。詳細については内閣府HP等に掲載されています。
基本的な事項ではありますが、わざわざ国のHPまで調べている人はごく少数かと思います。ぜひ押さえておいてください。
また、政権交代についても注意を払っておく必要があります。現在の内閣の交代時期だけでなく、アメリカ大統領選(2024年11月実施予定)等も日本のビジネスに与える影響が大きいです。政権交代がいつありそうか、交代するなら何党の誰に変わりそうか、どんな政策になるかについては当たりをつけておきましょう。
2.法改正・施行
法律の改正についても重要です。2024年にも様々な法改正・施行が予定されています。
2024年問題に係る働き方改革関連法の改正については有名なのでご存じの方も多いと思いますが、他にも法改正等は盛りだくさんです。要点だけでも押さえておけば、対策を早めに打てたり、法律を味方に付けたりすることができるでしょう。
3.税制変更
税制変更も毎年のようにあります。知らなかったでは済まされないものも多く、また、有利になるものもあるのでしっかり押さえておきましょう。
4.補助制度
毎年、様々な補助制度があります。2024年分については令和5年度の補正予算案を見れば、ある程度内容が分かります。
詳細な資料は、経済産業省HPに掲載されています。特に、毎年ある中小企業生産性革命推進事業の予算にも注目する良いでしょう。集客のための取組や、設備導入による経営革新等に活用できます。
補助制度は補助金を始め、活用すれば経営にプラスになることが多いので、きちんと調べておくと良いでしょう。
PEST分析②:Economy(経済)
経済について調べていきます。主に「景気動向」「消費動向」「物価」「為替」「株価」が経済を客観的に知る上で参考になるでしょう。
1.景気動向
景気動向とは、取引の活発さのことです。
日本銀行が四半期ごとに公表している「日銀短観」を見ることが把握できます。参考になる指標は主に3つ。
・経済成長率
市場規模がどれだけ大きくなったかを示します。日本全体として経済が成長しているのか縮小しているのか、またどれだけ成長・縮小しているのかを確認できます。
・CI
コンポジットインデックス。主として景気変動の大きさやテンポ(量感)を測定することを目的としています。一般的に、上昇している時は景気の拡張局面、低下している時は後退局面であり、CI一致指数の動きと景気の転換点は概ね一致する。
・DI
ディフュージョンインデックス。景気拡張の動きの各経済部門への波及度合いを測定することを主な目的としています。景気が良いと答えた人の割合から、景気が悪いと答えた人の割合を差し引いた数値です。そのため、良いと答えた人と悪いと答えた人が半数ずつであれば、DIは0となります。
2.消費動向
消費動向は、国民の消費額の動きを示します。総務省が発表している消費動向指数が参考になるでしょう。
また、近い概念としてエンゲル係数も参考になります。エンゲル係数は、家庭の消費支出に占める食費の割合です。国民の生活の余裕度の指標となります。消費動向指数やエンゲル係数を知ることで、戦略策定の材料となります。
3.物価
物価は、様々な商品やサービスの価格を、ある一定の方法で総合した平均値のことです。
物価を表す指数として、主に2つの指標があります。
・企業物価指数
企業物価指数とは、企業間で取引される財の価格変動を測定するもので、その目的は、景気動向や金融政策を判断するためです。要は、BtoBでの物価のことです。
日本銀行HPより、企業物価指数の推移を見ることができます。
2021年より物価が急騰していることが分かります。物価自体の推移とその要因を探ることで、今後の動向を予測して経営戦略策定に活かします。
・消費者物価指数
消費者物価指数とは、全国の世帯が購入する財・サービスの価格を総合した物価変動を測定するものです。
一般的に、消費者物価指数は企業物価指数よりも遅れて動きます。つまりBtoBの価格転嫁は早い一方で、BtoCの価格転嫁は後手に回りがちということです。この性質を知っていれば、消費者物価指数の先行指数として企業物価指数を活用することができます。
企業物価指数と同じく、2021年より急騰しています。こちらも物価自体の推移とその要因を探ることで、今後の動向を予測して経営戦略策定に活かすことができます。
4.外国為替相場
為替とは、現金以外で決済する方法のことです。特に外国為替相場とは、外国の通貨と日本の通貨の交換比率のことを指します。
円-ドルの為替相場は注目すべき項目です。この為替相場の上がり下がりにより、貿易の有利不利が大きく変動するためです。円が強くなれば輸入が強くなり、円が弱くなれば輸出が強くなります。
2024年1月現在は円安のため、自給自足の仕組みが弱い日本にとっては輸入負担が大きくなり、物価高騰の一因となっています。
5.株価
株価の推移を見ることも景気の先行きを知る手がかりとなります。主な株価指標は以下の通り。
・日経平均株価
日経平均株価は東京証券取引所プライム市場に上場する225銘柄を選定し、その株価を使って算出する株価平均型の指数です。
・東証株価指数(TOPIX)
TOPIX(東証株価指数)は、昭和43年(1968年)1月4日の時価総額を100として、その後の時価総額を指数化したものです。日本の株式市場を広範に網羅するマーケット・ベンチマークで、日本経済の動向を示す代表的な指数です。
日経平均株価とTOPIXの違いは、算出の対象企業の範囲と算出方法です。
前者は225銘柄のみを対象としていますが、後者は東証プライム上場企業すべてを対象としています。計算方法については、前者は株価の単純平均なのに対し、後者は時価総額の加重平均で行っています。そのため、前者は株価の高い企業の影響を受けやすく、後者は時価総額が大きい企業の影響を受けやすくなっています。
・ダウ平均株価
ダウ平均株価とは、アメリカの代表的な業種の銘柄の株価を元にアメリカのダウ・ジョーンズ社が算出している平均株価です。ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場している主要30銘柄の平均株価を指数化したものです。
対象企業を絞っている意味で日本の日経平均株価と近い性質を持っています。
PEST分析③:Society(社会)
1.人口動態
人口動態とは、ある一定の期間における人口変動のことです。人口動態は厚生労働省が行っている「人口動態調査」に基づき毎月公表されています。
経営戦略を立てる上で、「狙っている市場は魅力的な市場なのか?」は必ず答える必要がある問いです。
人口動態を知ることで、市場規模のサイズやその構成を知ることが出来るので、市場に魅力度を知るための手がかりとなります。年齢構成や性別、現在の人口や今後の推移に注目してみると有益です。
2.価値観
価値観の推移も大切です。消費者の考え方の根本となる部分なので、その変化をしっかり押さえる必要があります。
価値観の変化についてはネットで少し調べるだけでも調査結果が豊富にみられますが、よく言われている価値観の例を列挙してみます。
・ジェンダーレス
・コンプライアンスの厳格化
・他人への無関心
・長時間労働を嫌う
・SDGs
・リスクを嫌う
・人間関係のライト化
こういった価値観の変化を踏まえた上で経営戦略を立てる必要がありまs。
3.世論
世論も消費者の考え方を知るうえで把握しておく必要があります。内閣府が実施している世論調査の結果はHPにて公開されています。
調査は3種類あります。
・国民生活に関する世論調査
・社会意識に関する世論調査
・外交に関する世論調査
ビジネスの上で特に参考になるのは、国民生活に関する世論調査でしょう。
国民生活に関する調査では、生活の向上感や貯蓄~自由時間にしたいこと等、幅広く知ることができます。
4.流行
流行り廃りも重要な外部環境の要素です。流行を知る手段は以下のようなものでしょう。
・Instagram
・X
言わずもがな、多くの人が利用しているSNSです。具体的なキーワードを入れて検索したり、流行を紹介するアカウントをフォローしてタイムラインをチェックしたりすることで流行を確認できます。また、トレンド入りしている項目をチェックすることで、ホットワードを知ることもできるので、リアルタイムで流行を追うことができます。
・日経トレンディ
また、日経トレンディはその名の通り、世間のトレンドを紹介する雑誌です。流行ったもの、流行っているもの、これから流行であろうものを紹介します。非常に簡単に流行を把握できるのでオススメです。
・Googleトレンド
Googleトレンドは、検索キーワードの需要の推移を知ることができるGoogleのサービスです。
検索エンジンに自信を持つGoogleの強みを活かして、毎日の検索トレンドやリアルタイムの検索トレンドを調査できます。例えば、記事執筆時点の1月20日(土)では、「月面着陸」「原神」がホットな話題だと分かります。
さらにトレンドの活用事例まで紹介されているので、ただ情報を集めるだけでなく、どのように活用するかまで知ることが出来ます。
・similarweb
similarwebは、デジタル行動に関するデータとそのインサイトを提供するサイトです。要は、ユーザーがネット上で何を検索し、そこからどんな気づきがあるのかを教えてくれるサイトです。
similarwebでは、どれくらいの割合でどんな年齢層、性別の人がそのサイトを利用しているか調査できますし、各サイトのトップカテゴリーやトップトピックスまで知ることができるため、非常に有用です。
PEST分析④:Technology(技術)
IT・DX等、科学技術に関する動向を把握します。情報を入手する方法は様々なですが、主な方法を以下の通りです。
1.情報番組
・モーニングサテライト
・WBS 等
情報番組は色々ありますが、上記2番組はテレビ東京系列のニュース番組で、ハード目な内容でしっかりとニュースを知りたい人にオススメです。テレ東のオンデマンド契約をすれば、いつでもスマホ等で視聴可能になります(月額550円 2024年1月時点)。
2.ニュースアプリ
・NewsPics
・SmartNews
上記2アプリは、特に広く利用されているニュースアプリです。有料、無料とありますが、無料会員の範囲でも問題なく利用できます。リアルタイムの情報を、手軽にスマホで見られるので非常に便利です。
3.情報サイト
・@IT
@ITは、IT技術者・管理者のためのコンテンツとコミュニティ満載の問題解決サイトです。
最新(記事執筆時点)の記事のタイトルを見てみると、
・Stability AI、動画生成AI「Stable Video Diffusion」のAPIを公開
・OpenFeatureがCNCFの支援プロジェクトにフィーチャーフラグのための標準APIを提供
となっている通り、一般的な情報サイトと比較して、より専門的な内容が書かれています。そのため、より専門的なIT情報を知りたい人にオススメです。
・GIZMODE(ギズモード)
ギズモードは、デジタルデバイス情報や最新のガジェット情報を提供するサイトです。
技術そのものの情報というよりは、技術を活かした製品情報に強みを持っています。
YouTubeのチャンネルも持っており、リチャードさんのキャラクターにも人気が集まっています。
@ITで技術情報を知り、ギズモードで技術活用について知る流れがスムーズだと思います。
・日経xTECH
日経クロステックはIT、自動車、電子・機械、建築・土木など、さまざまな産業分野の技術者とビジネスリーダーに向けた技術系デジタルメディアです。
日経が運営していることもあり、非常にしっかりとした内容のIT情報を知ることが出来ます。また、ビジネスにつながる観点もあるため、経営者や支援者が見るサイトとしてバランスが取れており、非常にオススメです。
・BRIDGE
BRIDGEは、起業家と投資家を繋ぐIT情報サイトです。そのコンセプトの通り、ビジネス寄りの内容となっています。
ITをビジネスに活かしたい、IT企業に投資したい人にオススメのサイトです。
4.書籍
・DX白書
DX白書は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が毎年発行しているIT・DXに関する資料です。
1年に1回の発行なので、リアルタイムでのIT情報の把握には向いていませんが、その分、しっかりとした調査に基づいている資料なので、質の高い情報を知ることができます。
IT情報をリアルタイムで把握するのは難しいけれど、ITのトレンドくらいは押さえておきたいという人にオススメです。
PEST分析を踏まえて
以上、PEST分析で押さえるべき項目とその調査方法についてお伝えしました。調べていると、いつの間にか情報の海に溺れて何をしているのか分からなくなってしまいかねないので、あくまで予め立てた戦略の仮説を証明するために調査するという視点を忘れないようにするのが吉です。
PEST分析の時点で戦略の仮説が間違っているようであれば、再度戦略の仮説を立て直してみると良いでしょう。
次回予告
今回はPEST分析で外部環境を知る方法について説明しました。次回は市場分析の方法について投稿します。2月3日(土)投稿予定ですので、ぜひご覧下さい。
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