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紙の神さまと和紙職人の仕事場が息づく「越前和紙の里」福井県今立地区

「ラテンアメリカと日本をクリエイティブでつなぐ」というミッションのもと活動している私たち。日本に在る素敵な文化を作品として海外に向けて発信していくことも私たちの大きなテーマです。 むすひむすび展では日本古来の物語・古事記に出てくる神々をインスピレーションに和装と今のファッションをミックスし現代にむすぶ、という挑戦をしましたが、そんな私たちが今注目している素材が「和紙」です。

藤井風さんの「燃えよ」MVでの衣装でもタッグを組んだ、飯嶋久美子とAMIGOであるグラフィックデザイナー牧かほりさん、そしてセットデザイナー南志保さんとのコラボレーションにて、和紙を使って衣装を制作するアートプロジェクトを企画しています。

2021年11月3日の「死者の日」イベントで展示したプロトタイプ

このプロジェクトを推進すべく、リサーチに向かったのは1500年前から紙漉きが行われているという「越前和紙の里」福井県越前市の今立地区です。


「越前和紙は”保存される遺産”ではなく、今まさに進化し続けている産業」

福井県越前市の今立地区は、街全体が和紙の里。

日本で唯一、紙の神様・川上御前をお祀りする「岡太神社・大瀧神社」を中心に、現在もなんと60以上の製紙所が稼働しています。


画家たちが愛する素材・越前和紙

まずお伺いしたのは「卯立の工芸館」

こちらでは伝統工芸士が在廊し、和紙の制作の工程を実際に見ることができます。

入口に展示されていたのは和紙の原料である楮(こうぞ)や、雁皮(がんぴ)。和紙はこれら樹木を皮をはぎ、柔らかく煮こみ、ちりなどを取り除き、叩いて繊維を分解し…という気の遠くなるような作業を経てようやく紙漉きの作業に入るのだとか。

横山大観など多くの画家が愛用する越前和紙。一説には、ピカソも越前和紙を使っていたという話もあります。

画家と職人のコミュニケーションの中で、こうした原料とつなぎ(トロロアオイ)の分量や厚みなどをオーダーメイドで調整し、画家の求める風合いに近づけるのだそうです。


服飾から紙漉きの道に入った伝統工芸士・村田菜穂さんとの出会い

そしてここで驚きの出会いもありました。

その日、卯立の工芸館に在廊し私たちにお仕事の様子を見せてくださった伝統工芸士の村田菜穂さんは、京都ご出身。なんと元々は服飾を勉強しており、洋服にできる強い紙素材を探し求める中で越前和紙に辿り着き、紙漉きの魅力に惹かれ今立に移住し伝統工芸士になったというキャリアの持ち主。

「紙服」を作ろうという私たちに降って湧いたかのような偶然の出会い。彼女が話す越前和紙の魅力や作り手としての楽しさに引き込まれるとともに、伝統工芸でありながら今この時に彼女のような担い手がいて、熱量を注いでいる「越前和紙」という産業の厚みを感じました。

1月下旬の冬真っ只中、手作業で紙を漉く村田菜穂さん


植物の生命力と職人のクリエイティビティの交錯点

そして次にお伺いしたのは長田製紙所さん。和紙の厚みで大胆な模様を浮き上がらせる「飛龍」という技術を持ち、インテリア等を強みとする製紙所さんです。

事前のリサーチで、娘さんが制作されていらっしゃるというHPを拝見し、掲載された作品たちに一目ぼれ。オープン工房もあるということで絶対にお伺いしよう!と決めていました。

ですがこれも偶然の導きで、ちょうど私たちが卯立の工芸館にいる間に現社長の長田和也さんがお立ち寄りになられ、その場でご挨拶させていただき、その後工房にお邪魔させていただくことができました。

奥様の千葉さんと共にお出迎えいただき、ご紹介いただいた作品たち。
命が息づいているような繊細さと、大胆さ。
自然の生命力と職人の爆発するクリエイティビティの交錯点だと感じました。

自然の力によって生まれる和紙、和紙にしか出せない風合い

その後も長田社長に工房の中をご紹介いただき、様々な和紙の技術をご紹介いただきました。

雲のように光を反射する「雲肌」 角度によって光の反射の仕方が違う 暗い中でも薄い光を反射してきらめく
その一瞬の模様を定着させる「墨流し」
絞りによる文様


越前和紙はその白さが特徴で「越前奉書」は高級品として公用書などに扱われてきましたが、薬品などは使用せず、自然の原料のみでそれを実現しています。

長田製紙所さんでも、白さを生み出すため、灰や日光(紫外線)の力を借りて今も毎年試行錯誤を続けているそうです。

「現在も進化し続けてるんですね」と言った私たちに、「昔のやり方に戻っているような感覚です」とおっしゃられた奥様の言葉が印象的でした。


作品たちが集う「記憶の家」

また長田製紙所さんは、工房のすぐ近くに「記憶の家」というギャラリーも構えています。

ここは宿泊施設にもなっていて、泊まれるのですが、長田社長や、そのお母様の伝統工芸士の長田榮子さん、更に人間国宝・岩野市兵衛さんの制作された作品が展示されていました。

「くるみ割り人形」や「トイ・ストーリー」のおとぎ話を思い出してしまうくらい、私たちに話しかけてきているような気がする、命が宿っている作品たちに囲まれた空間でした。


街を見守る川上御前「岡太神社・大瀧神社」

越前和紙の様々な表情や職人さんたちの取組に圧倒された私たち。

最後に訪れたのはこの街の中心「岡太神社・大瀧神社」でした。

越前和紙の歴史の興りは1500年前、岡本川の上流に美しい姫が現れ、「この村は清らかな谷川と緑豊かな山々に恵まれているので、紙漉きを生業とすれば生活が潤うだろう」と村人に紙漉きの技を教えたことが始まり、といわれています。

それが「紙祖神・川上御前」の伝説。

そして岡太神社・大瀧神社はその「紙の神さま」を祀る神社なのです。

お伺いした際は祭殿は囲われていましたが、雪景色の中でとても静謐な空気に囲まれていました。毎年5月には大きな祭事も行われるとのこと。卯立の工芸館にもこの神社の写真が飾られており、街の人たちにとって大事な場所であることを感じられました。

今も60か所以上の製紙所で多くの職人さんたちがものづくりに励む街は、神さまに見守られ、今もなお紙漉きを進化させて未来に向けて紡いでいるのだなと感じました。


オープンファクトリ―イベント「RENEW」について

実はもうひとつとても興味深い取組があります。

今回私たちがリサーチした「卯立の工芸館」や「長田製紙所」さん含め、多くの製紙所さんや作り手さんが毎年「RENEW」というオープンファクトリーイベントに参加しており、この時期一斉に工房を開放しているそうです。

実は越前和紙だけではなく眼鏡や漆器等のものづくりの盛んな福井。RENEW実行委員会の呼び掛けで多くの工房が参加し、2015年に始まって以来、来場者を伸ばし続け、2020年には3.2万もの人たちが集まる一大イベントになっているそうです。

「RENEW2021」はコロナによる影響で延期となり、今年2022年3月11日~3月13日に開催されます。ご興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。


おわりに

今回のリサーチを通して、私の中での「越前和紙」は、頭の中で想像していた「伝統工芸」のイメージから完全に逸脱し「進化している産業・アート」に書き換えられました。

後継者問題や、産業の縮小化といった暗いニュースが目につきがちな昨今。少なくとも私たちがお話しさせていただいた職人の方たちからは、未来への暗い展望よりも、今・そこで未来に向けて和紙の産業を紡ぎ続けている人達の息遣いを感じました。

この素晴らしい和紙の新たな側面を発信していくべく、紙服プロジェクトの今後の過程を、これからもレポートしたいと思います。


参考リンク


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