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『屍人荘の殺人』|読書”を超えた”感想文を書きたくなった話。


何気ない会話の、何気ない一言。
小さなキッカケから始まった『屍人荘の殺人』の読書体験。
それが私にもたらしたものは、嘘みたいな世界の広がりだった。



ミステリーは、実は筆者にとって馴染みがないジャンル。
本格ミステリーを謳う本作の他に比肩した読書体験といえば、綾辻行人著の『十角館の殺人』ほどしかないミーハーもミーハーだ。

なので、私の書評はマトはずれなものに映るかもしれない。だからこそ「ミステリーに馴染みがない人間」視点からの新たな景色を全力でお届けしたい。

ただ本作は、厳重な情報規制と読書家たちの圧倒的なモラルをもって「ネタバレ」という未曾有の災害から入念に保護されている。
よって私も例にならってネタバレなしで紹介するが、どうしても具体性にかける解説や曖昧な表現になってしまう部分がでてくるだろう。
なので、抽象度の高い表現が頻出することを事前に「ごめんなさい」しておきます。

1️⃣『使い古し』と『衰退』

古来から数多くの物語に触れてきた人類の歴史は、多くのテンプレートと文章構造によって語られてきた。僧侶や祈祷師達が受け取った天の声も、同じように「書き綴られてきた」。

わたしたちが『伝聞』と表現するものは、実際には口伝のみでなく誰の目にも平等にふれる媒体、つまり壁画からはじまり、石碑、木材パルプ、羊皮紙、巻物、活版印刷、そしてデジタルな領域に。
常にわたしたちは書くために飽くなきデバイスの開発を繰り返してきた。

媒体の驚異的な進化にくらべて、物語はいつの時代にも色褪せることなく、言語の変化はあれど同じく私達の心を掴んできた。

ミステリーのジャンルの確立は18世紀中期から盛んに伸びてきた。物語のなかでは比較的新しいジャンルであるにもかかわらず、数多くの人を今も魅了している。しかし、今作内でも言及があるのだが「トリックは使い古されている」のだ。

誰もが物語を望みつつ、時代の変化に対応した構造や洗練とされたトリックを渇望している。ミステリーがまだ世に出たての頃ならば、一つの完成されたトリックがあれば読者を大いに驚愕させたかもしれないが「目の肥えた」ストーリーテラーたちは次世代の傑作を追い求める。

もっと度肝を抜くようなトリックを。
ホームズでも戸惑うような鮮烈なトリックを。

だが、実際には純粋なトリックはマイニングしつくされている。
きっと数を読めば読むほど、既視感を頭から振りほどくことが困難になっていくのだろう。

畑は違うが、私も生粋のゲーマーとしてゲームは散々やり尽くした。並みのゲームではもう満足ができなくなっている自分に、どこか衰退した気配を感じる。
物語やゲームを悪く言っているわけでない。あくまで自分の中でそのジャンルがしゅるるっとしぼんでしまうような感覚。
外連味も斬新さも、私の想像を甚だ越えることがない。

2️⃣『組み合わせ』の妙

前提として、私はミステリー初心者だ。
だから作中のトリックを並べてみただけでも感心がたえなかった。

作者の今村さんも子どものころから生粋のミステリー好きだったと述べている。(子供の頃は”ミステリー”ってジャンルを認識しないまま読んでいたらしい)


一つのジャンルを読めば読み込むほどに、目が肥えて辛辣になる必然は理解できるが、きっと初級者の私は教科書の後ろに載っている「答え合わせ」でエクスタシーを覚えることのできる浅学な人間だ。

これが中級者あたりになってくると物語を読み進めつつ「推理」も並列思考で処理できるのだろう。
読み手を超えて一人のホームズ(もしくはワトソン)として参加ができるようになる。増えていく手持ちのカード、事件を見透かすほどの処理能力が培われていくさまはさぞかし楽しい体験だと想像にかたくない。
読みながら自分も成長できるのは、他ジャンルに見られない推理小説ならではの奇異な体験だ。

だが、上級者までいくと、きっとどこか虚しさが陰をさすかもしれない。分かりきった手の内。使い古されてもはや朽ち果てたトリック。無理筋を攻めて奇抜だが破綻したトリック。

それこそ東京創元社の鮎川哲也賞選考を務められたミステリー超上級者とも呼べる方々が、全員合致でイチオシした本作『屍人荘の殺人』。
一体、どんなトリックを使ったのかと疑問に思ってしまいそうなものだ。それこそ最大のミステリー。

しかし、作中で太っ腹にもその種明かしをしている。
「トリックは、いかに組み合わせるか」
ミステリーの答えにしては単純明快で、それでいて世界にミステリーが増え続ける本質をピタリとついていた。

では、今村先生は一体「何を組み合わせた」のか。
その答えは、ぜひとも本作を手にとって確かめてほしい。

3️⃣広がり続ける『可能性』


生粋のミステリー畑とはいえないが、筆者は『マーダーミステリー』という推理体験型のボードゲームが大好きだ。
推理小説の世界に入り込み、そこで巻き起こる殺人事件の関係者として物語を解き明かすロールプレイゲーム。

2023年10月頃からプレイさせて頂く機会が増えつつあり、推理パートも板についてきた。まさに経験値が溜まっていて、上級者には及ばぬまでも中級者くらいは自負できるようになった。GM(ゲームマスター)もよく担当していて、物語への没入度を高めるための演出もこだわったりと、友人を巻き込んだりしながらそこそこに沼っている。

驚くべきことに『屍人荘の殺人』の作者である今村昌弘さんは、マーダーミステリーにも本腰を入れ始めているのだ。

マーダーミステリーセッション用通話アプリである「UZU」


こちらにて公式×今村昌弘が手を組んだビックタイトル
『歪んだ実験室の殺人』が絶賛配信中なのだ。

配信は「ウズプロダクション」となっているが、何を隠そう【UZU公式】である株式会社Sallyによるレーベルプロダクトだ。

しかも、『屍人荘の殺人』ハードカバーのイラストを手掛けた遠田志帆さんが続投でイラストを担当している。
この表紙にピンときた人は私だけではなかったはずだろう。最強タッグによる体感型アトラクションがこの世にあるのだ。あってしまうのだ。


note上では秀逸なマダミスレビューを続けるやまねこ🐱マダミス広報部さんが、先行体験をネタバレなしでレビューしている。
マダミス好き、ミステリー好き、今村先生ファン、どれかに少しでも当てはまるなら必見の記事となっています!
⇩⇩

もはや小説の垣根を超えて『ミステリー自体』が一つのトリックとして、組み合わせの世界を泳ぎ始めたのだ。

この広がりはどんなキッカケになるのか。もはや想像の及ばない世界にリンクしていくことだろう。

4️⃣『映画版』にてまさかの『組み合わせ』?!

本作は一時のミステリー業界のシーンのみならずマルチメディア媒体全土に衝撃をもたらしている。
言わずとしれた俳優育ち『神木隆之介』×名だたる2.5次主演級女優『元浜辺美波』の豪華キャストで『映画化』も果たしている。

書籍を読了した後、すぐにこちらも視聴した。
経験に裏打ちされた自然派な演技の神木隆之介と、少々オーバーだが圧倒的なインパクト魅せた元浜辺美波の演技が上質なエンターテイメント作品であった。

ミステリー不慣れな私にとって、理解の及んでいなかった視覚情報が全て補完され、よりトリックの妙を体感できたことが何よりも嬉しい。

だが、わたしが注目したのはキャスティングやトリックの妙だけではない。お茶の間ミステリーシリーズ『TRICK』を担当された木村ひさし監督のお名前がそこにあったのだ。


正直なお話をさせてもらうと、これははたして屍人荘の殺人なのかと、疑ってしまうシーンが多かった。
どこか作品の中にコメディ的な雰囲気が漂っているからだ。

書籍『屍人荘の殺人』にほとんどコメディ要素はなかった。だから、原作の雰囲気が保全されていない、という意見があるなら頷かざるを得ない。

しかし、今村監督の手により、映画版『屍人荘の殺人』は令和世代のTRICK再来を感じさせるほどの鮮烈さがあった。

効果音や演出、演技、視聴者も一緒になってツッコミたくなる自然な不自然さ。
仲間由紀恵と阿部寛の織りなした独特の世界観が、ところどころに散りばめられていた。
今にも、TRICKを象徴付けるように乱用されていた「コォーン」やら「ポォーン」みたいな独特の効果音が鳴り響きそうで、ひやひやすらした。

そうか!これも今村先生のいう「組み合わせ」の世界の一つなんだ。
と勝手に納得していたし、個性の色がこれほどまでに濃く現れる監督も、また唯一無二の存在だと気づけた。

「らしくない」と思っていたのは、その実、反対の世界観をもった誰かの「らしさ」だったのだ。



ミステリーでは思考ロックこそあってはならないこと。
視点を切り替えて眼の前の事実を何度でも反証する。
すると見えてくるものがある。

謎は解かれるから美しい。

ミステリー初心者ではある私にすばらしい体験を与えてくれた本作に感謝と、それから今後加速していくだろうミステリー欲を増大させてくれちゃった点に、ちょっとした恨み言を遺したいと思う。


こんなのはまるに決まってるじゃない!



・・・

余談ですが、この作品を読むキッカケを与えてくれた友人について…。

実は、この書籍を勧められた「最初の一言」でいきなりネタバレされた。
なので、もう読む前からタネは割れていたのだが、じゃあその説明がなかったら読んでいたかといわれると…よくわからないから恨むに恨めないネタバレだった(笑)

インパクトによる惹きつけも悪くはないが、せっかくなので私は初見の大切さを重視するべく本記事はネタバレなしで扱うことにする。

ちなみにネタバレありで書くならここから10000文字は加筆できるくらい最高の作品だったのでぜひ読んでね!


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