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前触れの無く、雪。

雨を背負った雪が纏わりつく。
本当はゆっくり掻き回してやれば綿菓子みたいな素敵な雪ばかりができあがるというのに、急かされた空が未完成の雪ばかり降らせている。雨の重さで未完成の雪は、街を嫌な気持ちにさせるだけさせて冷たく消えた。
こんな日は思い出にすら残らないから、さらに嫌になる。園長の猫が死んだ日も、たしかこんな日だった。

原因は分からない。ただ車に轢かれただけかも知れないけど、保育園の裏口のドアに片腕を伸ばすように倒れるその最後の姿は、「やっとここに帰って来た」、そんな風に見えた。
その時の園長は、いつもと変わらない顔をしているようにオレからは見えた。抱きかかえた猫の亡き骸に怒りを込めずに何か語りかけてから、腕の中であやすように園内を歩いた。それから、そばにあったタオルで少し拭いてやると、また外へ出て裏庭の木のあたりに埋めてやった。声を上げるでも涙を流すでもなく、いつもの優しい顔をする園長の姿に、オレは尊敬を学んだんだ。

今思うと、余程オレの顔が悲しそうだったに違いない。こっちを振り返った園長は、「大丈夫だ。笑ってるやつが一番強いぞ」と、にっこり笑顔をつくり歯を見せた。
なにかに負けないように、オレもすぐに真似して笑ってみせた。そのあと、ふたりとも雨が纏わりついた視界をすぐに拭ったのを覚えている。
それが丁度、今日みたいな日。ぐずぐずの雪ばかり降らす空が、いい加減な時間を積み上げている。

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