見出し画像

国際問題プレゼンテーション・コンテストに応募した感想

はじめまして。黒田といいます。よかったら以後お見知りおきを。

さて、外務省では毎年、「国際問題プレゼンテーション・コンテスト(https://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/dpr/page22_003804.html)」というものを開催しています。

昨年は、気づいた時には締め切り間際で応募できなかったため、今年こそは!と思い応募しました。

プレゼンコンテストの結果

結果は上記の通り、ファイナリストには選ばれませんでした。(余談ですが、ちゃんと選考結果をメールで送付して下さったのは私個人の感想としては丁寧だな、と感心しました。事務局の方々に感謝します。)

時間が足りなかったことや当時、メンタルがやられていたこともあり、なかなか内容を詰めることが出来なかったので、当然と言えば当然ですが、悔しいですね。

今回のテーマは「私の提言 我が国の経済安全保障に資する外交政策の在り方について」というかなり難しいテーマでした。

簡単に経済安全保障とは何なのかを述べるのであれば、不確実性が増す現代において現在及び将来にわたって安定した経済基盤を確保する手段とその状態であると言えます。

経済安全保障は「経済」と「安全保障」という二つの概念の組み合わせであり、多義的な言葉です。それ故、人によっても語り方が異なるものであります。さらに「安全保障」という言葉自体も明確な定義が難しい言葉です。「安全保障」の定義について、様々な論者と矛盾しないように定義するのであれば「何らかの脅威から、何かを守る手段ないし守っている状態」とするくらいでしょう。

今回のテーマの難しい点は、更にそんな多義的な「経済安全保障」に資する我が国の外交政策の在り方を問われている点です。

国家の外交政策というのは、簡単に考えられるものではありません。何かの問題に注力した外交政策というのは、他の問題に対処する力を弱めることになりかねない。日本には様々な問題が累積しており、今回はその中でも経済安全保障に資する外交政策を考えねばならないという難題です。

私自身、まだまだ不学の身であり、日々精進している身ではありますが、並の人よりは国際問題に関する知識に自信を持っていました。しかし、今回のテーマで小論文を書くということに苦戦したことで、その自負は砕かれてしまいました

私が書いた小論文の内容を全て載せるのは落選した今となっては恥ずかしいので控えますが、少し私が考えたことについて綴りたいと思います。

経済安全保障という文言を最初に見たとき、私の頭に思い浮かんだのは経済相互依存による国際秩序の安定化でした。国際政治学(IP)や国際関係論(IR)の教科書ならまず最初にリベラリズムの思想として紹介される基本事項です。

経済相互依存の概念はリカード(D. Ricardo, 1772-1823)が提唱して以来の比較優位がもたらす絶対的利得による人々の協調を前提としています。経済安全保障において国民の生活水準を守る上で、利益の獲得は不可欠だと言えるため、経済相互依存は前提条件だと主張せざるを得ないと私は考えました。

また、ナイ(J. S. Nye Jr., 1937-)とコヘイン(R. O. Keohane, 1941-)によって提唱された複合的相互依存という概念は、経済相互依存の延長にあるものであると言えます。ナイとコヘインは複合的相互依存の世界においては「敏感性(sensitivity)」と「脆弱性(vulnerability)」に注目する必要性を説きました。「敏感性」「脆弱性」は依存関係において依存先の行動によって受ける依存側の影響について指摘したものであり、この二つをしっかりと見極め代替チャンネルを事前に持っておくことで解決されます。

ナイとコヘインの名前を出したのは、経済安全保障の役割として注目を浴びているエコノミック・ステイトクラフト(Economic Statecraft)への耐性とは、この「敏感性」「脆弱性」への対応と大きく重なるものだからです。

エコノミック・ステイトクラフトとは、国家が軍事力ではなく経済的手段を行使して他国に影響を及ぼそうとする政治的方策のことです。特に日本にとって大きな脅威だと最近認知されたのは、中国への半導体、医薬品、マスクなどの圧倒的依存が中国の行動により、日本国内経済が大きく影響を受けたことです。

2021年2月、バイデン(J. R. Biden Jr., 1942-)大統領は、アメリカも日本と同様に中国頼みであった産業分野が多かったことを受け、半導体バッテリーレアアース医薬品四分野のサプライチェーンと強化することを決めました。これにより、中国への依存を減らすためにアメリカは友好国と共に半導体の生産増とそのための投資を行い、公正な配分を目指すという協調主義的なアプローチを目指すと主張しました。

一方で、日本政府が経済安全保障を掲げる他方で、日本政府からのサプライチェーンの脱中国化についての具体的なメッセージは発信されていないのが、現状です。もちろん、アメリカのやり方が適切か、ということについては議論の余地がありますが、日本政府が具体的なメッセージを出していないことで、大局的な動き

なので、日本が目指す経済安全保障としては、中国を念頭に明確なメッセージを持つ、エコノミック・ステイトクラフトに耐性を持つサプライチェーンの確立を経済相互依存と両立する、ということが言えます。

日本にはTPPやRCEPといった利用可能な現状の経済圏があり、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は更にそれを補完するものとして、存在します。FOIPの理念は日本の経済安全保障において、他国と強調してサプライチェーンを構築するのにふさわしいものであると言えます。

FOIPの三本柱は①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着②経済的繁栄の追求③平和と安定の確保、であり、日本を含めた各国の経済安全保障の原則と重なるものであることは明白です。

このFOIPの概念を用いて、一国に依存せず自由貿易の原則を共有し、アメリカとの協調を目指すことを視野に入れた東アジア全域でのサプライチェーンの確立を目指すというのが、今回の小論文の趣旨でした。

内容としては、如何にして投資を誘導して各国と提携していくか、のところまでは触れましたが、今振り返ってみると、内容が不鮮明だったところもあり、その辺が評価を落とした原因だったのかと思います。

来年、機会があれば、今度はもう少し範囲を狭めて、具体的な内容に触れられるようにするというのが、今回の私の反省です。

また、これは小論文を完成させた後に報道されて、完全にしてやられたと思ったことですが、閣僚級の防衛2+2会談は90年代から存在したにもかかわらず、経済の2+2会談を作ろうという発想にならなかったのは、悔しいですね。(まぁ、仮に思いついたとしても、プレゼンテーションコンテストのときには報道がされて、話すことが無くなってしまったでしょうが……。)

今後、経済安全保障にこの経済2+2会談が有効に機能するといいですが、経済安全保障の具体的な方針が日本の中で設定されていないと、難しいのではないかという思いもあり、今後に期待したいところです。

全体として、他者に提示できるような明確な成果こそ無かったものの、色んな意味で勉強になりました。これからもこういった学外での活動も積極的に挑戦していこうと思います。

[2022/02/24]

#やってみた #学問への愛を語ろう

この記事が参加している募集

学問への愛を語ろう

やってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?