国際政治・国際関係を学びたい人へ
ウクライナにおいて、ロシアの武力侵攻が発生し、春から大学生になる人の中には、国際政治を学びたいと思う人も多いと思います。
そうした人に向けて、手軽に手に入れることが出来る国際政治学・国際関係論のテキストを紹介する記事です。
ですがその前に、国際政治学と国際関係論という言葉の違いについて、軽く説明しておきます。
国際政治学とはその名の通り、国際社会における政治についてを学ぶ学問です。ここで重要なのは、国際社会の政治の主体(アクター)が国家であることから、国家間の動向を重視することになります。
一方の国際関係論とは、国際社会における様々なアクターの関係性を学ぶ学問です。国際社会におけるアクターは、歴史的に見れば国家であり、現在も国家が重要であることは変わりません。しかし、現代では国連などの国際機関や、アムネスティ・インターナショナルのようなNGO、GAFMAのような超国家の大企業など、国際社会に影響を及ぼすアクターは様々であり、そういったアクターを踏まえた関係性というものを捉えようとする立場にある、と言えます。
もちろん、国際政治学も他のアクターを無視するわけではなく、国家とそれ以外のアクターとの関係性という形で捉える向きもありますし、国際政治経済学という形でそれらを包括的に捉えようとする動きもあります。
従来では国際政治学と国際関係論の差異は小さかったですが、徐々に重視する事象の違いによって、立場が変わっているということは、頭の片隅に入れておくといいかもしれません。
1. 『国際紛争 理論と歴史』
著者:Joseph Nye Jr., (David A. Welch)
国際政治を学ぶ多くの人が一度は聞いたことがあるのではないかという、リベラリズムの研究者として名前の挙がるジョセフ・ナイの名著ですね。第八版からはディビッド・ウェルチも著者として名前を連ねています。持っておくだけでも価値のある著書だと私は思います。
2. 『国際政治学をつかむ 新版』
著者:村田 晃嗣, 君塚 直隆, 石川 卓, 栗栖 薫子, 秋山 信将
この本はとにかく、初めて国際政治をしっかり勉強しよう、という人にとってはお勧めしたい良書です。ナイの『国際紛争』に比べ、教科書チックで体系化されており、細かな章立てと、章ごとの参考文献・文献案内があり、興味を持った分野の学習が進めやすいです。読むなら、まずこれは圧倒的お勧めです。
3. 『国際政治学 (New Liberal Arts Selection)』
著者:中西 寛 , 石田 淳 , 田所 昌幸
『国際政治学をつかむ』と同様、有斐閣から出ている国際政治学のテキストですが、こちらは少し専門的なので自分は既に少し知識があって、がっつりと勉強したいんだ、という人にお勧めしたい本です。社会科学を勉強する人はまず有斐閣出版の本を全般としてお勧めしたいですね。
4. 『国際関係理論 第2版』
編集:吉川 直人, 野口 和彦
この本は個人的にかなり有用だなと思い、よく参照している本です。国際関係の理論の面を深堀にしている教科書で、文献案内もあり、読みやすいという良書です。理論を深堀している本は中々ないので、こちらも手元にあると非常に重宝するので、お勧めです。
5. 『国際政治史 主権国家体系のあゆみ』
著者:小川 浩之, 板橋 拓己, 青野 利彦
こちらは国際政治学を理解する上で学んでおきたい国際政治史をわかりやすく、要点をまとめたテキストです。受験で世界史をとっていた人でも、国際政治の流れとして歴史を見ることで、視点を変えて学ぶこともできますし、日本史や政治・経済を選択した人にとっては、どういった経緯で国際政治が動いてきたのかを理解するのに役立つので、お勧めです。
6. 『国際政治経済学・入門』
著者:野林 健, 大芝 亮, 納家 政嗣, 山田 敦, 長尾 悟
冒頭で述べた、国際政治経済学のテキストとして、お勧めするのがこの本となります。すっきりとまとめられており、学習をする上では初学者の方には優しく作られていますが、きちんと必要なことは書かれているので、ここから学習をスタートする、という基準になります。『国際政治学をつかむ』と甲乙つけがたいテキストです。
7、8、9は追加するか、迷いましたが、新書であり手軽なことと、知っておいて欲しい書籍なので、書いておきます。
7. 『国際政治 恐怖と希望』
著書:高坂正堯
日本の国際政治学の第一人者として、またリアリズムの国際政治学者として、日本の国際政治学に大きな影響を与えた高坂正堯先生の名著です。リアリズムの立場から書かれた国際政治とはどのようなものなのか、理解する上で最適な本だと言えます。新書のため手軽に買えるため、ぜひ読んで欲しい一冊です。
8. 『国際政治とは何か 地球社会における人間と秩序』
著者:中西寛
高坂正堯の『国際政治 恐怖と希望』と併せて紹介したいのが、高坂正堯先生の門下生である中西寛先生のこの本です。グローバル社会という言葉が日本では良く語られますがある一面を強調している感が否めません。この本は国際社会というものは三つの位相「主権国家体制」「国際共同体」「世界市民主義」で捉え、複雑な国際社会の解像度を上げてくれる名著です。
9. 『戦争とは何か 国際政治学の挑戦』
著者:多胡淳
この本を紹介する理由は少し特殊で、私自身は本棚の肥やしにしている節はありますが、手軽に国際政治の計量分析を理解できる新書としてはかなり有用なので、紹介します。上記のほとんどの本は、理論的に国際政治を明らかにするところに重点が置かれていますが、別のアプローチとして統計による計量分析もまた有用である場合があります。そうした計量分析を手軽に学べるという点で、この新書は魅力があります。
10. 『国際秩序 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ』
著者:細谷雄一
この本は国際政治の流れをウィーン体制から語るものであり、その中でも国際秩序にフォーカスを充てたものとなっています。先に紹介した5.『国際政治史 主権国家体系のあゆみ』の副読本としてオススメしたい本になります。全体を通して国際秩序がどのように形成され、なぜ重要なのかが分かる良書ではありますが、少し読みにくい文章で書かれており、国際秩序にフォーカスを充てた結果、財政・経済面の語りが弱いという印象があるので、必要に応じて活用して欲しい本です。
最後に
もし、本当の初歩の初歩から勉強したい、という人が何を読めばいいのか迷った場合に読んで欲しい本を一冊紹介します。
山川出版の『詳説 政治・経済研究』です。
高校の政治・経済の教科書の副読本として有用な本書ですが、内容がしっかりとしていて、大学で学ぶ下地として最低限の政治・経済を理解することができます。もし、本当に何も知らないけど、国際政治や国際経済に興味があって、勉強したい!と思う方がいた場合、まずこれを手に取ってみてください。
上記で紹介した本は、それから読んでも遅くはないです。
以上で、紹介を終わります。
本当は、日本のリベラリズムの先駆者である坂本義和先生の著書や、モーゲンソー、ミアシャイマー、安全保障関連、平和構築関連の本も紹介しようかとも思ったのですが、手軽では無かったり、主軸の国際政治から離れるところもあり、今回は乗せませんでした。
今後、それらも紹介しようかとも思います。
[2022/02/28]
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