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味噌ラーメンの呪い

わたしはおそらく、人よりも食に関する好き嫌いが多い方なのだが、今日はそれについての話をしようと思う。

味噌ラーメン、は、幼少のころより、わたしの人生の呪縛のような料理だった。
まだほんの小さな子どものころは好きだった記憶がある。たしか、わたしがまだ小学校に通う前のことだ。祖父が好きで、父も好きで、だから頻繁に食べていた。わたしも好きだった。
それが、ある日を境に、わたしは味噌ラーメンをぱたりとたべなくなった。
それも未就学児の頃だ。わたしはある日突然、味噌ラーメンを食べてはいけない呪縛にかかり、大人になった今でもその呪縛に囚われて、その日以降わたしは一度も味噌ラーメンを口にしていない。

場所は近所のショッピングセンターだった。覚えている。祖母はわたしに、「味噌ラーメンばっかり食べてたら、おじいちゃんみたいにハゲるよ」といったのだ。
わたしは味噌ラーメンが好きだったから、ショックを受けた。そこに母が参入してきて、挙げ句の果てに「味噌ラーメンは体に悪いから、もう食べないって約束できる?」といった。わたしは急に怖くなった。
どういう過程があったのかまでは覚えていないのだが、それでわたしは、もう味噌ラーメンを食べない、と母に誓った。誓いの動画を撮った覚えがある。
母からしてみれば、わたしをからかっているだけのお遊びで、まさかわたしが本気にしているとは思っていないので、数年前に母を問い詰めたとき、「覚えてない」「なにそれ」と笑われた。
だが、わたしはたしかにおぼえていて、たしかにその日から味噌ラーメンを食べるのをやめた。
もっといえば、わたしはラーメンすらほとんど食べなくなった。

それからわたしが食べるラーメンは、カップヌードルのプレーンか、サッポロ一番の塩ラーメンだけ。ラーメン屋さんでラーメンを食べるなんて言語道断。ハゲてしまう。わたしはそんな呪いにかかってしまった。

もちろん、中学生にもなればそんなことは冗談だとわかっているのだが、それでもわたしはなんとなくラーメンを食べることができないまま成長して、17歳になった。そこで、十数年ぶりにインスタント以外のラーメンを食べた。

一風堂だった。わたしはその味噌ラーメンの呪いの話を友人にすると、盛大に笑われた。それから、一風堂に連れて行ってくれた。ここなら美味しいからと。
衝撃だった。わたしは、うまれてこのかたはじめてとんこつラーメンなるものを食べたのだ。
とはいえわたしの味噌ラーメンへの呪いは完全に解かれたわけではなく、それからもわたしはラーメンを避け続けていた。

大学生になると、わたしはあるひとつの問題に直面することになる。
大学の最寄り駅にある飲食店は、8割がラーメン屋、残りの2割が居酒屋でしめられていて、大学一年生、19歳のわたしはラーメン屋にいくしかなかったのだ。授業後、友人とご飯を食べにいくためには、ラーメン屋は避けては通れない場所だった。そうして19歳の夏、わたしはふたたびラーメンを食べることに成功する。おいしかった。わたしは基本的にはラーメンが好きなのだ。
それから2年、わたしは毎日のようにラーメン屋に通っている。10年以上のあいだあれだけ避けていたラーメンを、こんなにも食べる日がくるとは思わなかった。

それでも、わたしの味噌ラーメンの呪いはまだ、解けていない。あの日から、少しずつ弱くなってきた呪いだけれど、わたしはまだ味噌ラーメンをたべるところまで踏み出せない。母と祖母のなにげない冗談が、わたしを15年以上ものあいだずっと、呪いにかけて縛りつけてしまっている。
きっとまた、きっかけが、食べざるを得ない状況があれば、わたしはこの呪いを解くことは簡単にできるのだろう。
それでもまだ、この友人に変だと笑われる呪いに、あと1年か、10年か、もしかしたら一生かもしれないが、わたしはずっとかかりつづけて生きていく。

味噌ラーメンの呪いは、根深い。解けてほしい、とは思うけれど、わたしは、このずっと大切にしてきた呪いに、まだもう少し、かかっていたいと思っているのだ。

文字が好きで多趣味な現役女子大生が好きなものや感じたことについて書き綴ります。あと主に少女を題材に短編小説も書きます。