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生成AIと感情労働・コールセンター就業のススメ

 いま時代は空前の生成AIブームです。Open AIによるChat GPTを知らない人はいないでしょう。ウェビナーを検索すれば結果一覧に羅列される生成AIの文字。コールセンター業界も生成AIをどのように活用できるかで話題は持ちきりです。しかし、ハルシネーションと呼ばれる"もっともらしい嘘"を生成されてしまう問題を解決しない限り、少なくともコールセンター業界では顧客対応に活用されることは無いでしょう。せいぜい要約止まりの活用しか今のところはなさそうです。

 すべてをAIが解決してくれる日がくるかもしれませんが、その頃には誰も働いていない時代になっているのかもしれません。非現実的な理想を望むより、そういった議論をきっかけに人とテクノロジーの関係について考えることの方が有益ではないでしょうか。

 たとえば、テクノロジーは人にとって便利なものです。生成AIの活用方法に関していえば文章の要約機能は、コールセンターにおいても人気の機能です。なぜならば、要約する能力を人に育もうとした場合、かなり難儀な育成となるからです。少し研修したところで要約する能力は身につきません。そこで注目されるのがテクノロジーです。テクノロジーは人には無い能力を補完してくれます。かんたんに言えば便利なのです。ただし便利なことには代償を払わなければなりません。それは人を弱くするという代償です。

 先ほどの生成AIによる要約機能は確かに早くて便利なのですが、間違いなく人を弱くします。ギリシャ哲学で述べられる「才能」「教育」「訓練」の三つの概念から考えれば、訓練が才能を凌ぐ可能性はある、しかし教育が才能と訓練を凌ぐことは無いとのことなので、才能の無い人にとって、訓練するという機会を奪うものこそ生成AIでありテクノロジーなのです。

 人ならではのものとは何か。それは感情です。感情は対象や状況に関する主体者独自の態度のことであると定義しますが、感情をうまく使う能力のことをEQ、すなわち感情的知性と言うことができます。その感情をうまく制御しながら仕事をすることを「感情労働」とします。これはかなり肯定的かつポジティブな表現をしています。一般的に感情労働とは客室乗務員やコールセンター従事者など、サービス業で働く人々全般を指して表現され、ネガティブな定義として用いられることが多い言葉です。

 コールセンター従事者は、感情労働の最たるものと言えますが、AI時代には感情こそが人に人で対応する強みが生まれます。つまり、人の感情を受け止められるのは人だけだからです。AIに人の感情を受け止めることはできません。最終的に人の感情を受け止められるのは人だけなのです。なかには人であっても相手の感情を受け止められない場合があります。その場合、コールセンターにあっては上司を出せと要望されるだけです。結局は人で対応することになります。

 先に述べた感情的知性を駆使して、新たなビジネスチャンスを得られる仕事、それがコールセンターと言えます。月に何万件という問い合わせを受ける場所なので、特に感情的な人を人で対応し、ピンチをチャンスに換えることなんてザラなのです。マイナスからのスタートは良い対応でファンづくりへと繋がります。

 そして、いわゆるクレームに対処することで感情的知性を発揮し、自己鍛錬できる場がコールセンターなのです。身体を鍛えることと違って、その鍛えた成果を目視することが困難な内面、数ヶ月、数年と自己鍛錬することで明確な違い、良い違いを実感でき、強い自分を手にいられるのがコールセンターなのです。

 空調のきいた、雨風から身を守ってくれる快適な場所で、座りながらにして「訓練」という最高の報酬を得られるのです。生成AIなどに代表されるテクノロジーを使うことはよいのですが、何が人を弱くして強くするのかを理解することは有益です。感情労働によって強い自分を手に入れる。コールセンターでの仕事の醍醐味はここにあります。

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