(全文無料)法令から「毒」を考える 植物編

第1回 動物編はこちら

(前回と同じ前文)
週末に国立科学博物館で行われている毒展へ行きました。
とても面白かったので、法令の観点から「毒」を捉えてみよう、というリスペクト企画です。

毒展を観に行く楽しみを奪うような話はしないように気をつけます(そもそも法令がメインの展示ではないので、ここでグダグダ書いても妨げにはならないと思います)。
ただし、内容から発想を得ているので、構成や取り上げる物品に似通ったところが出て来るかもしれません。が、あくまでも一方的なリスペクトであり、博物館と筆者は一切関係ありません。

長くなるので動物編・植物編・その他編で3回に分けようと思います。今回は植物編です。
植物編は「育てる」ということについて特に力点を置いたトピックを取り上げていきます。2500字くらいなので気軽にお読みください。

大麻とケシの法令

園芸をする方でなくても、大麻を育てたらアウトというのは知っていることが多いと思います。ダイレクト麻薬ですからね。
そして園芸をする方なら、ケシ類は育てていいものとダメなものがある、ということを知っている方も多いかもしれません。
(育てていいものとダメなものの違いは、たとえばこちらが分かりやすいです)

「あへん法」では、指定されたけしについて、国の委託もしくは厚生労働大臣の許可がなければ栽培してはいけないとしています。
ここで許可された区域は公告(主に「官報」に掲載)で公表されることになっていますが、そんなことしたら泥棒が入るのではないか?
いえいえ大丈夫、公告に載せられるのは「〇〇市 〇アール」という程度ですので…(こちらで文章を見ることができますが、リンク先は個人サイトです)。

と言いつつ、東京都立薬用植物園では許可を得て栽培していますなどと堂々と書いていたりすることもあります。植えてはいけないケシが植わっているのを見られるそうですので、お近くの方はぜひ。

そして、許可を受けた人が栽培したけしから取れたあへんはその後、「あへん法」に基づき、国が買い取ります。
国はさらにその買い取ったあへんを、麻薬製造業者・麻薬研究者に売り渡します。これらの業者・研究者は「麻薬及び向精神薬取締法」に登場する資格で、免許制です。毒であっても研究はもちろん必要ですし、医療現場などで使われるために製造も行われているんですね。
それにしても、間に国が入って管理するぞ、という気概が感じられる流れです。

なお、許可を取ることについては行政書士の業務範疇に入りはするものの、この辺りの許可を一般人が取るのはほぼ不可能ですし、経験のある行政書士も少ないと思います。

雑草を植える前に

大麻やけし類のほかでは、特定外来生物に指定されている植物の栽培が禁止されています(在来の植物に対しての広い意味での「毒」ですね)。

特定外来生物として流通に特に警鐘が鳴らされているものとしては「オオキンケイギク」があるようですが、オオハンゴンソウなど野生でそこらへんに生えていることもあるそうなので、「自分や家族、子どもなどが知らずに持って帰ってきて植えてしまった」というようなことがないように気をつけましょう。

ダメな植物の一覧はこちらで見られます。特定外来生物も時々更新されるので、新しい植物を植えるときには毎回調べたほうがよいでしょう。

毒草を育てることは可能

さてここまで読んできて、あれ?と思った方も多いかも。
毒があるから育ててはいけない、とは、法令は言っていないんですね。
ということで、実はトリカブト、クワズイモ、ヒガンバナ、などの、わりと強力な毒として知られている植物も、一般家庭で普通に栽培可能です。育て方のサイトなども簡単にヒットします。

ただし、そこから毒を取り出したり、他人に毒を盛ったりするのは別問題。
たとえば取り出した毒物質が毒物及び劇物取締法の対象物質になる場合(が、現実的にあるかどうかまではちょっと化学が苦手なので、毒を扱うときはご自身でお調べください)や、他人に譲渡・販売し医薬品扱いで取り締まりの対象になる場合。
特に後者については、トリカブトやイヌサフランなどが実際にリストに含まれているので気をつけてください。

他人に盛った場合、命の問題になれば殺人罪などが適用されるのはもちろん、相手が命を失わず、かつ、殴る蹴るをしていなくても「傷害罪」になり得ます。かつて話題になった「騒音おばさん」で「暴行によらない傷害罪」判例が出ているのです。
最初から相手を害するつもりでやるのはもちろんダメですが、うっかりでも人や動物を傷つけてしまうことがないよう、育てる場合も管理はしっかりしておきましょう。たとえ罪にならなくても後味が悪いですしね…。

自宅に生えても、食べるのはちょっと待った!

栽培をしても良いということは、そこらへんにありふれている可能性があるということでもあります。元々日本に普通に見られる種でも毒があることはありますし、こぼれ種などで生えてくることも。
また、ごくふつうに売られている種や苗でも、利用を間違えば毒になる種類があるということでもあります。

消費者庁の調査では、植えたり生えたりした植物を食べたことがある人の4割程度が、一般に売られている園芸用植物に毒があるかもしれないことを知らなかったとのこと。
さらに、3割程度の方が植えたものと生えたものを区別していないことも分かっています。

その結果、実際に起きた食中毒の事例でも、山菜採りなどの特殊な状況での事故だけでなく、「自宅に生えたものを見間違えて食べた」「栽培していたものが毒だと知らず食べた」という事例がけっこう多いようです。

自宅だから安心、植えたものだから安心、ではなく、食べられるかどうかの確認はしっかり行い、勝手に生えたものはよほど知識がなければ食べないほうが安全ですね。
また、ここでは詳しくは触れませんが、ペットなど動物にとって有害な植物も多いので、家の中や庭だから放しても安心と思わず、きちんと整備していくことも大切です。

まとめ

動物・植物、そしてキノコなどの毒を「自然毒」と言います。「自然毒」の代表的なものについては厚労省がまとめてくれているので、詳しく知りたい方はリンク先から読み物としてお楽しみください。

次回は動物・植物以外の毒について触れ、法令の世界での毒について総括していきます。
今回見たように、法令は毒の全部を一般市民から隔離しようとはしていません。国は毒から国民を守ってくれないの?どういう基準で法令があるの?というような話につなげたいと思います。

第3回 その他編はこちら

(以下に文章はありません。投げ銭歓迎の意味で購入を置いております)

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