見出し画像

【芸能法務】アーティストの芸名権利の所在


愛内里菜さんというと、名探偵コナンの主題歌含め、なじみに深いアーティストさんだったが、こういった訴訟になっていたとは。。。

芸名関係でいうと、一昨年、ヴィジュアル系バンドのグループ名について、パブリシティ権に由来して権限を有するという高裁決定を得ましたが、個人のアーティストさんについて初めて判断がなされたかと思いますので、上記のニュースソースのみの状態ですが、検討してみたいと思います。

1 パブリシティ権の検討(芸名の法的性質)

 判決はまず、名前などが客を引きつける力を持つ著名人らが、その価値を商業的に独占利用できる「パブリシティー権」について検討した。

朝日新聞デジタル

パブリシティ権について検討がされたということですが、東京高裁令和2年7月10日決定でも、「本件グループ名には人格的権利に由来するパブリシティ権が認められ、本件グループの構成員である原告らは本件グループ名の使用権を有する」と判断されています。

大阪地裁もこの論理を用いたのかなと思うのですが、パブリシティ権は、人格権に由来する権利として認められています(最高裁平成24年2月2日判決)。アーティストの芸名についても同様にパブリシティ権から法的性質を判断したのだと思われます。

そして、パブリシティ権を人格権に由来する権利と考える場合、その性質はその人個人がパブリシティ権を有するとして、相続性・譲渡性は否定される方向となります。なので、譲渡などの方法により権利が「帰属する」とすることは困難となります。

パブリシティー権は愛内さんに帰属するとした。

朝日新聞デジタル

そういう意味で権利帰属の検討としては妥当な判断かなと思います。

2 パブリシティ権の検討(権利行使の制限)

その上で権利行使について制約を加えることができるのか考えることになります。著作者人格権なども不行使特約を締結したりしますし、絶対無制約でもありません。

で、考えてみると、「契約期間中はもとより契約終了後も、芸名を事務所の承諾なしに使ってはいけない」という内容だったようです。

この条項ですが、タレント・アーティストさんに限らず、YouTuber・ライバーなどでも定められる競業避止義務に近しいものではないかと個人的には考えます。競業避止=活動禁止期間のように考えられますが、その期間は活動ができない、仕事ができないというのは大きな制約です。芸名もその期間中使用ができないとすれば、それまで積み上げてきた実績などを使えないというもので制約としては大きいものと考えられます。

特にパブリシティ権は、「顧客誘引力を排他的に利用する権利」なのであり、これを契約終了後も使用できないとするのは、根本的に権利行使を否定するものですし、権利の本質に照らしてみても制約の程度が著しいと考えられます。

大阪地裁が、「社会的相当性を欠く」「公序良俗に反し無効」と判断したのもこの辺りが影響しているのではないかと推測します。

ちなみに、事務所側は「名前にパブリシティ権が認められるくらい、命名には価値がある。名前に価値が与えられたのは事務所側の有形無形の貢献によるところもあるので、芸名というものに加えられた価値は、事務所側がコントロールできるべきものである。ブランド価値が既存されるようなこともあるため、事務所が管理しているタレントに対して芸名を使わせることで、名前からブランド価値の維持を達成するためにこのような条項を入れている」(原文ママ)と記者会見で話したようです。

弁護士ドットコムニュース

事務所側の貢献がゼロだということはありませんが、パブリシティ権の法的性質からすれば、人物識別情報自体に権利が生じるといえるのですから、事務所の貢献などの営業上の努力については、別の条項によって保護されるべきです(上記高裁決定も事務所側の貢献については、同様の判断をしています)。

事務所側のお話も聞き、いろいろと考えさせられることもありますが、とはいえ、権利を事務所が総取りするような形が是認されるというのは違和感がありますし、それに裁判所も歩調を合わせてきているのかなとも感じました。

3 最後に

事務所側が記者会見してもいますし、そこでも控訴するとの話が出たようなので、今後上級審での判断が待っています。大阪高裁がどういう判断をするのはか注目したいところです。
控訴棄却であっても認容いずれであっても実務上も重要な判断になるのは間違いないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?