見出し画像

ワタシの絵画鑑賞と “AIゴッホ”

仏・オルセー美術館の Instagram によると…。
フィンセント・ファン・ゴッホが自殺するまでの最後の数週間を過ごした場所、オーヴェル=シュル=オワーズ(パリ北郊)に焦点を当てた <ゴッホ展 >が、10月3日(火)に始まったそうです(会期は2024年2月まで)。

オルセー美術館のHPより

そして同展では「デジタル記念品」を発売しているのだとか。。。
「デジタル記念品」⁈

Instagram の紹介画像には、「複数」の絵の具パレットが映し出されています。何枚もある・・・ということは展示作品ごとに異なるパレットを再現しているのでしょうか。
詳細はわからないのですが、「デジタル記念品」を購入した人には、特典としてショップの割引、特別招待券、美術館の生涯入場券⁈ が5名に当たるチャンスがあるそうです。
美術館の「生涯入場券✨」って魅力的すぎます!。

同展の面白い取り組みはこれだけでなく、展示室内のモニター画面に “AIゴッホ” が登場して我々に語りかけてくれるのだそうです。
【AFPBB News】によると、“AIゴッホ”氏は怒ったような口調で、
 「あなたは間違っている」
と述べると、
 「私が切り落としたのは耳たぶのほんの一部だ」
と主張するのだそうです。
 __そうなのですね!「耳」をザックリと切り落としたのかと思っていました(汗。

1890年、37歳の時に拳銃自殺を図り その2日後に死亡したゴッホ、ならぬ “AIゴッホ”氏は、こんなことも話します。
 「私はメンタルヘルスの問題を抱えていたが、オーヴェル=シュル=オワーズに移住したのは死にたいと思っていたためではない」。
 __ふむふむ。

そして好きな色を聞いてみると、
 「黄色」
とはっきり答えるのだそうです。
 __ほーっ!。

ただ、ゴッホと生前に親交があったガシェ医師について質問したところ、“AIゴッホ”氏は “ガシェ” という名前を認識できなかったそうです。
名詞を正確に聞き取れるまでにはまだまだ改善点がある、と記事は伝えています。

***************

さて。
これからの<美術展>は、このような面白いイベントをドンドン取り入れていくのでしょうね。
日本の<美術展>でも、
◉ <メトロポリタン美術館展>(東京)では、ジョルジョ・ラ・トゥール『女占い師』の作品に自分の顔を合成したフェイス・チェンジャーのブースがあり、
◉ <岡本太郎展>では、AR(拡張現実)の技術で自分のカメラの中にTAROMANを取り込めるサービスもありました。我が家のリビングに出現したTAROMANと写真を撮ってみんなで楽しんだものです。

このような取り組みは以前からあったようで、
◉ 2017年の<アルチンボルド展>では、自分の顔がアルチンボルド風の3Dとなって現れ、それを撮影できるというアルチンボルド・メーカーを設置したスペースもあったそうです(残念ながら当時はこの展示会について知りませんでした)。

+++++

少し話は逸れますが、メディアが仕掛けるイベントではなく「美術館サイド」が “観客を楽しませる” ために何をすべきか? という課題に真剣に取り組み始めたのは、感染症の蔓延により閉館せざるを得ない事態に陥ったことに起因しているように思います。
それまで、素晴らしい芸術品を観たい人は
「どうぞ我々の美術館を訪問してください!」
と ちょっと上から目線だった「美術館サイド」は、2020年頃からインターネットやSNSを利用して工夫を凝らした情報発信や展示作品の公開などを実施して、新しい美術館のあり方を模索し始めました。
デジタル画像、ゲーム、体感型美術展、そして鑑賞者が作品グッズやSNSを通して情報発信できたり、自宅に持ち帰って楽しめるサービスなどなど。
おかげで美術館がとても身近な存在になりました。拍手👏。

+++++

しかし。今回オルセー美術館が仕掛けた “AIゴッホ” に物申します。
過去の巨匠たちを蘇らせて本人であるかのようにAIに語らせることには、ワタシ、少々抵抗があります!。

ゴッホと話ができる⁈ なんて 夢のような素晴らしいこと、のようにも思えます。
また、膨大な手紙で自身の作品解説や心情を明らかにしているゴッホの場合、“ゴッホ語録” 全てをインプットした “AIゴッホ”氏は、もしかしたら本人と同じ思考回路で、本人と同じように語ってくれるのかも知れません。
しかし、しかし。
それってどうなのでしょうか?

***************

以下は、あくまでも「古い人間」=ワタシについての話です。

絵画作品の解釈や感じ方は人それぞれ。私は自分の感性や自分だけの視点を大切にしたいので、実物(もしくは画像)の作品をしっかり観る+感じ取る という過程を経て、その上で画家や作品について事実関係や批評を資料で調べます。
もちろん美術史家の先生方の解釈、単語やフレーズなどを大いに参考にしますが、端的なキャッチフレーズを用いて強烈な印象を植え付ける本や映像には なるべく頼らないようにしています。

例えば、人気のYouTube チャンネル。
映像にまとめられた解説やビジュアルは とてもわかりやすくて面白いため、私の思考にスルスルと入り込み、忘れられないイメージを植え付けてくれます。
受験、資格試験、クイズ対策など知識として吸収したい!と思っているのであれば、これらYouTuberの解説は大変有用だと思います。
しかし、こと絵画鑑賞に関してだけは、

“自分の視点と感性を磨くことで、作品に秘められた幾重にも豊かな魅力を自分で見つけ出したい”

のです!
絵画作品と対峙したとき、誰かの言葉が真っ先に頭をよぎり、理解したつもりになってしまうことだけは避けたい!と思っているのです。
あくまでもワタシの場合です。

+++++

そして実は他にも危惧することがあります。
ワタシは本当に忘れっぽい性格たちで、note に投稿するために時間をかけて必死で調べた事もすぐに忘れてしまいます。
自分の思考過程のみならず、当時の感動すら忘れてしまい、記事を読み返してギリギリ思い出すことが多々あります。まぁ それもまた楽し、なのですが。。。

ただ、曖昧さや忘れっぽさを許容しつつも、気をつけなくてはいけないのが
「事実のすり替え」。
自分の記事を読み返していると、それが美術史家の先生の言葉だったのか、自分が考え抜いて選び出したフレーズなのかわからなくなることがあります。恐ろしや…都合がいいように記憶を変換させてしまう我が脳よ。。。大丈夫かぁ?

先ほど述べた、ワタシが絵画鑑賞で大切にしていること
“自分の視点と感性を磨くことで、作品に秘められた幾重にも豊かな魅力を自分で見つけ出したい”
というのは、高階秀爾先生の言葉をアレンジしています。
よかった。現在のところ、ワタシの脳はまだ大丈夫のようです。

***************

というわけで、もし “AIゴッホ”氏 が
「一部で噂になっているようだが、あれは自殺ではないんだよ」
と語る映像を見たら、ワタシなんぞは いつの間にかそちらが事実であると錯覚してしまう恐れがあるのです。そんなのはイヤです!
 “AIゴッホ”氏よ、どうかあまり多くを語ってくれるな・・・。

とボヤきつつ、これからの人生を楽しむために
「 “AIゴッホ” は あくまでも余興の一つ。彼は本物のゴッホじゃないからね〜!と割り切って楽しめるように、頭と心を柔らかくしてこれからの人生を送っていかなければ!」
と強く言い聞かせる、やはり古い人間=ワタシの戯言たわごとでした。

<終わり>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?