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極上の美術体験 8K・ルーヴル美術館

先月 <ハイドン『天地創造』>を鑑賞するために東京オペラシティに行った時、『モナ・リザ』が掲載されたチラシを見つけました。
「おっ、何だろう?」
手に取って見ると、NHKとICC(NTTインターコミュニケーション・センター)主催のイベント
<8Kだから見えてくる ルーヴル美術館 空間を超えた映像アート体験>
でした。

至宝のディテールを 8Kで間近に体感できます
ルーヴル美術館の至宝『ミロのヴィーナス』『サモトラケのニケ』
『モナ・リザ』などの名作を、3.25インチの LED 8K モニターで映し出し
極上の美術体験をお届けします。

チラシより抜粋

NHKで放送された『ルーヴル美術館 美の殿堂 500年の旅』を録画して、何度も繰り返し見ている私は、あの美しい 8K画像を大きな画面で見られるの⁈ と大興奮。
翌週、再び東京オペラシティを訪れたのでした。

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案内されたのは横 7.2メートル、高さ 4メートルの大スクリーンの前。
うわーーっ、大きい!。

上映された約 20分の LED 8K画像を鑑賞して、チラシで見たフレーズ通りの “極上の美術体験” をしてきました。

クローズアップ映像であたかも絵画の中に迷い込むように
そのディテールを目の当たりにしたり
普段見ることができないような角度の視点から彫刻を鑑賞するなど
ルーヴル美術館に足を運んでも体験できないような
新たな発見
に皆さんを誘います。

チラシより抜粋

チラシのフレーズは決して大袈裟ではありませんでした。まるで、

今日は『モナ・リザ』を貸し出します。この不朽の名作を手元に置いて、拡大鏡で好きなだけご覧ください。
明日は『ナポレオン1世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』、明後日は『宰相ロランの聖母』にしましょうか

↑ あくまで妄想のお誘い

そんな誰にも絶対に実現できない夢のような体験を、このイベントが実現してくれたのです。

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3年半前に訪れたルーヴル美術館、階段の下から見上げるだけで そのオーラに圧倒された『サモトラケのニケ』。
彼女の大きく広げた翼に 8Kカメラが近づいていくと、船先に降り立った瞬間の力強いフォルムと、風をはらんで繊細な動きを見せる羽の柔らかさとの対比が見事であることがわかります。

『サモトラケのニケ』紀元前190年頃

110個以上の大理石の破片を土の中から探し出し、復元修復されたという勝利の女神。2000年以上の時空を超えた奇跡に、涙が出そうになります。

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そして大スクリーンに映し出された途端に息を呑んだのが『ナポレオン1世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』。

ジャック=ルイ・ダヴィッド『ナポレオン1世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』1805-1808年

華やかな世紀のイベントにワクワク、そして緊張でドキドキしてきました。
ナポレオンの一挙手一投足に固唾を飲んで注目する人々の呼吸、皇妃に近づく皇帝のマントが床に擦れる音まで聞こえてきそうです。
絵画の中に迷い込む” とは、こんな感覚なのですね。写真や画像、そしてルーヴル美術館で実物を観ても、絶対に味わえません。
2023年日本、ビルの4階にあるスクリーン前のパイプ椅子に座っていながらにして、この戴冠式に立ち会い その世界観を体感できたのです。
まさに、空間を超えた映像アート体験、素晴らしい!

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素晴らしい! の連続でしたが、もっとも感動したのは やはり『モナ・リザ』でした。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』1503-1506年

3年半前、ルーヴル美術館で実物を観てきました。
しかし、一日に4万人(2019年当時)ほどの観光客が行列を作り、順番に誘導されて実現した対面時間は たった1分。
「あの『モナ・リザ』の目の前に立っている!」
という事実を受け止めるだけで精一杯でした。
“輪郭線を描かずに 陰影で立体感を表現するスフマート技法” を使った世界で一番有名な絵画、と知っていても素人しろうとにはイマイチその凄さがわからなかったのです。

しかし今回。
さすがの 8K画像、どれほど拡大しても詳細までくっきりハッキリ見えます。おそらく ダ・ヴィンチ本人よりよく見えているのでは⁈ 。

頭にかぶった薄いヴェール、柔らかそうな細いカールがかかった髪の毛。そして謎めいたモナ・リザの顔には本当に輪郭線など引かれていません。何層も何層にも微妙に塗り重ねた絵の具でその陰影を見事に描き分けているのですね。これぞスフマート技法! 温もりのある肌や吸い込まれそうな瞳…。私の拙い言葉では表現できません。
8K で映し出されたモナ・リザの魅力にノック・アウトされました。
できることなら もっとゆっくり、そして一時停止ボタンを押しながら自分のペースで見たかったです。

そして驚いたのは、作品全体に見受けられる細かいひびが予想以上であったこと。まるでモザイクを全体に敷き詰めたように広がっています。
モナ・リザの左目(向かって右側)の瞼の上にあるホクロのような小さな黒い部分は、ひび割れで絵の具が欠け落ちてしまっているのですね!

『モナ・リザ』部分

上の写真ではよくわからないのですが、 8K大画面ではハッキリと絵の具の剥離部分が見て取れました。
このままでは大変です!
これ以上の損傷を防ぎ、500年後の人々が現在と同じ状態の『モナ・リザ』を観ることができるように、今を生きる我々がなんとかしなければならない!と強く、強く思ったのです。

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13日間しか実施されなかったイベントだったので、2月26日(日)が最終日でした。私が参加できたのはまさに奇跡!この巡り合わせに感謝です。

すでに終わったイベントなのですが、美術に興味がある多くの人にこの映像を観て欲しい!。
いえいえ。
ぜひ美術の授業の一環として生徒全員に見せて欲しい!と切に願います。
この “極上の美術体験” をしたならば、絵画を盗んだり、ナイフや石、ティーカップで損傷を負わせようとする人など現れないはずですから。
そして、美術品の保存修復に携わりたい!と志す子どもたちが増えるはずですから。

どうぞよろしくお願いします。

<終わり>

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