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民衆を導いた国宝級の女神に迫る!

日めくりルーヴル 2020年7月28日(火)
 『民衆を導く自由の女神』(1830年)ウジェーヌ・ドラクロワ

7月28日の日めくりルーヴルは、『民衆を導く自由の女神』。
ロマン主義を代表する画家ドラクロワが 、190年前のフランス七月革命を描いた作品です。

昨年10月に訪れたルーヴル美術館の大回廊。多くの人が立ち止まって、259×325cmという巨大な作品をじっと見上げていました。
私は、というと極度の興奮状態に陥っており、落ち着いて鑑賞することができなかったのです、情けない。

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今回は美術的視点ではなく、その周辺情報から作品に迫ってみようと思います。

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◆ フランスの国宝、来日!
今から20年以上前、日本・フランス両国で “国宝級“ の美術品が交換されました。
日本から渡仏したのは、法隆寺の百済観音像。
飛鳥時代、7世紀前半〜中期に作られた正真正銘の “国宝“ です。
1997年にルーヴル美術館で百済観音の特別展示が行われたそうです!

一方、1999年にエアバス社ベルーガに乗って来日したのが、フランス “国宝級“ の『民衆を導く自由の女神』。こちらは19世紀の作品。
“国宝“ の考え方…。それぞれの歴史や文化、お国柄が出て面白いですね。

さて、1999年2月26日−3月28日に東京国立博物館で特別展示された『民衆を導く自由の女神』。副題は、
  〜強く。そして美しく。ロマン主義の名作、初公開〜。
うーん、ベタですね(笑)。

上野に足を運んだ約38万人は、420円の常設展料金でフランスの国宝を見ることができました。さらに会場では、郵便局の出張カウンターで記念切手を買うこともできたそうです。
美術展というイベントに全く興味がなかった私は、何ひとつ知りませんでした💦
行きたかったなぁ。

再び来日することはない!でしょう。
私はルーヴル美術館で再会を果たし、今度こそじっくり味わうことにします。

◆ 来館者が落書き⁈
2013年2月7日18時頃、28歳女性が黒のフェルトペンを持って作品に近づきました。そしてカンバス右下部分に縦6cm×横30cmの大きさで落書きをしたのです。
ぎゃーっ!想像するだけで恐ろしい。
駆けつけた警備員に取り押さえられた女性は、刑事責任能力がないと判断されるほど精神的に不安定だったようで、犯行動機は不明です。
数多く並ぶ名作の中で、彼女が『民衆を導く自由の女神』を選んだというよりも、作品が彼女を犯行へと駆り立てたのでは…と勝手に想像。
幸いにもフェルトペンのインクは作品の絵具層にまで至らず、完全に消すことができたそうです。
ふぅーっ。本当によかったです。

◆ 祖国と運命を共にする作品!
シャルル10世の悪政に市民が立ち向かい、市民王ルイ・フィリップの政府が成立した1830年7月。
それまで政治と距離を置いていたドラクロワですが、同年10月 実兄に手紙を書きました。
「祖国のために敵を打ち負かすことはできなかったとしても、少なくとも祖国のために絵を描くことはできるだろう」
32歳の画家が銃の代わりに手にしたのが筆。そして描いたのが『民衆を導く自由の女神』なのですね。

作品は、激動の19世紀フランス国政に振り回されて転々とします。
▶︎ 1831年サロンに出品
→ 国家が買い上げ、リュクサンブール宮の美術館に陳列
→ 新政府が保守化。革命の旗印である作品は、治安上の懸念から倉庫にお蔵入り
→ ドラクロワ自身が作品を引き取って保管
この時ドラクロワは「見る目を持たない者に渡さない」と国王からの買上げ注文を断ったそうです。
▶︎ 1848年二月革命の時に再び注目を浴びる
▶︎ 1855年の万国博覧会に陳列されてやっと日の目を見る
→ その後リュクサンブール美術館に戻される
▶︎ 1874年、第三共和制の時代にようやくルーヴル美術館入り
おめでとうございます! 落ち着けてよかったですね。

同じく祖国のために筆をとったのがピカソ、作品は『ゲルニカ』。
こちらも政治体制や戦争に翻弄され「スペインが民主国家になるまでは…」とのピカソの信念に基づき、長くニューヨーク近代美術館に委託されていました。祖国スペインに落ち着いたのは、ピカソの死後 1981年だそうです。

ドラクロワ、ピカソの手を離れた今もなお 作品自体が、画家たちの強いメッセージを伝え続けているように思えます。

◆ 音楽♪
イギリスの人気バンド コールドプレイは、アルバム「美しき生命(Viva la Vida or Death and All His Friends)」(2008年)のジャケットに『民衆を導く自由の女神』を使用しています。
アルバム収録曲「Viva la Vida」をプレイリストに入れて何度も聴いていました。
そういえばCDを、有機物CDとして購入することがなくなってから、ジャケットを見る機会が激減しているのですね。すっかり忘れていました。💦
「美しき生命」に『民衆を導く自由の女神』ですか。

「Viva la Vida」のプロモーションビデオ(PV)は、確かに革命をイメージさせるのですが、楽曲自体が革命のように激しいというわけではありません。
目を閉じると、身体と精神が壮大な宇宙空間に解き放たれて、
“小さい世界に留まっていないで、広い視野を持とうぜぃ!“ 
とクリス・マーティンの声が聴こえてくるように感じるのは私だけでしょうか。
久し振りに見たPVとジャケットの画像。うんうん、しっくり来ました。

◆ 自由の女神はソフィー・マルソー
画面中央で、トリコロールを掲げ 民衆を導いている半裸の女神は誰か?
答えは、フランス共和国を象徴する女性像「マリアンヌ」だそうです。
不勉強のため、フランス共和国の象徴と言われても全くピンときません。
しかし、
___その時代を象徴する女性として、これまで「マリアンヌ」役に選出された有名人には、ブリジット・バルドー、カトリーヌ・ドヌーヴ、そしてソフィー・マルソーなどがいる___
と聞いて、大いに納得です!
彼女たちは美しいだけではありません。スクリーンで別人を演じているときでも、彼女たち自身が持つ 強い意志が伝わってくるのです。

また、本作の自由の女神は、サモトラケのニケを思い起こさせます。
ルーヴル美術館を訪れてニケに魅了されない人はいないはず、私もその神々しさに息をのみました。

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ルーヴルという船に降り立った勝利の女神ニケは、頭部と両腕こそ失っていますが、大胆にして繊細、美しくそして力強いのです。
失われた部分を再現したニケの全体予想図を見ると、彼女も右手を高く掲げていました。
トリコロールを掲げるマリアンヌと有翼の勝利の女神ニケ。
うゎーっ、どちらにもソフィー・マルソーが見えました(笑)

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私は、平和な時代を のほほーんっと生きてきた生粋の日本人なので、市民革命とか ‘国のために闘う‘ とか言われてもピンときません。
しかし、いろいろな角度から作品について思いをめぐらせてから再び『民衆を導く自由の女神』を見ると、
自分の意志を持って前に進め!強く、美しく、ロマンを持って!」と言われている気がします。

おーっ!そう考えると、21年前の東京国立博物館の特別展示の副題、
  〜強く。そして美しく。ロマン主義の名作、初公開〜。
的を射てますね、素晴らしい。

   <終わり>

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