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俺はバンドをやってる

 俺はバンドをやってる。自爆ってバンドだ。始めて半年くらい。それにしては割と健闘してる方だろう。当たり前だ。天賦の声を持ったボーカル、メタル上がりのテクニカルなドラマー、戦略家のギタリストという鉄壁のメンバーがそろっている。そんな中俺はベースをちびちび弾いている。俺の強みは膨大な知識量だ。20世紀の日本、イギリス、アメリカのロックの知識にかけては同年代でもずば抜けている自信がある。持っているCDの量は数千枚だ。そのうえ音楽にまつわる文化、例えば映画やファッション、漫画などの知識もたけている自信がある。もっているデータベースが同年代のバンドマンのそれとは全く異質で、かつ膨大だ。その面に関しては誰にも負ける自信がない。そのことはロックンローラーとして強みだ。曲を作るうえでも膨大な量の曲を参照して作ることが出来るし、また様々なジャンルに対応することもできる。ベースラインを考案するときもシンプルにかっこいいロックンロールのフレーズから、様々なベースラインの引用を積み重ねた複雑なフレーズまで幅広く対応できる。ベーシストとしてのキャリアはまだ半年で、テクニックは未熟だが、しかしテクニックがなんだというのだ。俺はパンクロッカーだ。テクニックなんてクソ食らえ。溢れ出るロックンロールへの情熱さえあれば、小手先のテクニックなんてまったく意味がない。

 俺はバンドをやってる。バンドをやってると面倒な人間関係が付いて回る。俺は人間関係が嫌いだ。人間なんて大嫌いだ。あいつらは自分の建前を必死で守ろうとして、そのくせ自分自身という存在について考えもしない。クズどもだ。俺は特に生半可なバンドマンが大っ嫌いだ。邦ロックをやってる連中が嫌いだ。あいつらの胸の奥から流れ出るビートは本当に邦ロックなのか? 流行っているから邦ロックをやっている連中には、音楽をやる資格なんてない。音楽はアートの一種だ。アートに携わる人間として奴らは恥ずかしい。アーティスト面するな。邦ロックをやっていなくても、自分の心からやりたい音楽をやろうとしないバンドマンは同罪だ。あいつらは自分自身に嘘をつくという禁忌を犯している。あいつらと同じようには、俺は見られたくない。俺は俺に正直に生きたいだけなんだ。俺は音楽がやりたいし、やるからにはかっこいいロックンロールがやりたい。

 俺はバンドをやってる。バンドマンはモテると思われがちだ。付き合ってはいけない3Bのなかにも入っている。その中でもベーシストは最もモテて、最もクズだと思われている。さて俺はどうなのだろうか。これが驚くほどにモテない。俺は学生時代からこれでもかというほどモテなかった。ここまでの文章を読んでくれればわかる通り、音楽や映画のオタクだったし、人間関係も嫌いだったのだから当たり前だ。別に今だってモテたいわけじゃない。つまらない人間から好かれたってなんの価値もない。嫌いな人間に囲まれて生きるくらいなら俺は死を選ぶ。でも俺だって自分が好きだと思った人とは一緒にいたい。俺は人間関係が嫌いな割には人間に希望を見出しているし、人間が好きだ。でも俺は自分が好きだと思った人には嫌われる運命にあるようだ。連絡がつかなくなったり、ものすごく冷たく接されたり、そんなことばかりだ。最近もちょうどそんなことがあった。俺はもうこんな惨めな生活は飽きた。なんならそのためにバンドを始めたくらいのところがあるのだが、バンドを始めてもその傾向は一切変わらない。人からなめられて生きる人生なのだ。俺の周りの人が俺をなめることで人生が豊かになるのならばそれでもいいが、しかし俺だって幸せになりたい。いつの日か幸せになれるだろうか。そんな日が来ることを願い続けているが、一向にその気配は見えない。

 俺はバンドをやってる。これは俺の日記だ。胸にあったモヤモヤを言葉にしたかったからこんな文章を書いた。ここまで読んでくれてありがとう。

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