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ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

3年ほど前に映画『ベイマックス』を観て、ハリウッドのアニメーション映画の底力を痛感してしばらく席から立てなかったことをよく覚えている。前年に公開されたスタジオジブリ『かぐや姫の物語』で、日本のクリエイティブにおける一時代の終焉を感じてしまったからかもしれない。

宮崎駿監督の引退は残念なことだが、細田守や新海誠など新しい才能が世に躍り出る後押しにもなったはずだ。それは海外作品の扱われ方においても同様だろう。同年公開された映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は本国公開から2年越しに日本で公開されたアニメーション映画である。アイルランド出身のトム・ムーア監督2本目の長編作品だ。彼は1977年生まれ。幼少期には既に宮崎駿監督や高畑勲監督の作品へ触れられる環境にあった世代だ。彼自身、『もののけ姫』や『となりのトトロ』に影響を受けていることを公言している。

ハリウッドアニメのようにダイナミックな動きではなく、ジブリアニメの骨格の動きからこだわったアニメーションでもない。一見するとキャラクターデザインは顔のパーツが小さく、日本人には馴染みづらい。雲の描写、山々の自然の色、海の波の動きも日本のアニメとは見た目が少し異なる。例えば、『崖の上のポニョ』で宮崎駿監督が描いたそれらは、鮮やかで濃い色合いとともに、丸みを帯びた優しいラインだった。本作は直線的なラインが多く、そのため動きもどこかカクカクしているように見える。慣れるまで少し時間がかかるが、この点には目をつぶってぜひ本作を観てほしい。物語が進むにつれ、見慣れない画面全体がどんどん温かみを帯びてくるからだ。

主人公は離れ小島の一軒家に住む男の子・ベン。母親は妹・シアーシャの出産とともに家族の前から姿を消す。出産のせいで母親がいなくなったと思い込んでしまったベンは、シアーシャに対して屈折した思いを抱き、優しく接することができない。ある日、家の裏手の海岸で起こった出来事をきっかけに、父親は兄妹を街に住む祖母にあずけることを決める。唯一の親友である愛犬と離れ離れになることを嫌がるベン。彼は自力で家に戻るため、家出を決意するのであった。しかし、シアーシャを狙う謎のフクロウが彼らを追いはじめ…。

少年の成長と家族のかたちを、アイルランド神話になぞらえて描く物語だ。排他的な少年、父親の心情が、母親と妹の秘密を知り始めることによって開かれていく表現は見事としか言いようがない。4人家族で男女半々。加えて、男性陣と女性陣は異なる時間軸、文化を生きている。その違いに出会い、拒絶し、発見し、理解し、認め合う。そのプロセスが、観る者を置いていくことなくゆっくりとわかりやすく描かれている。『ベイマックス』や『かぐや姫の物語』『ヒックとドラゴン2』とともにアカデミー賞長編アニメーション映画賞へ名を連ねた作品、ぜひDVDでご覧いただきたい。

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