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"プログラミングを用いた舞台演出"のシステム構成アーカイブ3 : ARAKI PARTY #2 (2022/03/26, 04/03)

はじめに

この記事連載の狙いは、こちらのnoteをご覧ください。

概要

さて、第3回目はARAKIさんのFCイベントである「ARAKI PARTY #2」で使用した照明システムです。今回紹介するシステムは別の舞台作品(ダンス)で使用したシステムを応用したものになります。

大きな特徴は1000mm ~ 2000mmのLEDバーを28本使用しピクセルマッピングを行っている点で、ピクセルマッピングの部分はTouchDesigner (以下、TD)を使用していますが、それを他の照明機材と同じように照明卓(grandMA3)から制御しています。

使用機材について

ちょうど、CRYSTALINOが照明機材を新木場studio coastさんから閉館に伴い買い取ったタイミングだったこともあり、それらの機材を実践投入したい、と考えていました。
また、個人的に所有していたLEDバーも会社倉庫に置かせていただいていたことと個人的にLEDバーでピクセルマッピングをやってみたいと考えていたこともあり、何かの案件で一緒に使ってみようという話をしていました。
そんな時、ちょうど今回のお話しをいただいた次第です。
結果、具体的には

・LEDバー(1000 ~ 2000mm (18px ~ 36px)) * 28本
・ROBE 600 WASH * 4
・ROBE 100BEAM * 10
・BEAM 230 * 6

を会場に持ち込み、ほとんどのシーンを持ち込み機材のみで完結させました。
( TOP, SS, CLなどは会場さんのPARライトを使用しました。)

持ち込み機材を多く入れるメリットはいくつかありますが、一番のメリットは再現性だと考えています。
倉庫で保管している機材の場合、打ち込みの際に実際の機材をつないで確認することができるので、色味や動き、スピードなどを事前に実機で確認でき、当日会場入り後の修正が少なくて済みます。(1台でも接続して確認することが基本です。)
また、倉庫と現場での再現性だけでなく、ツアーとして様々な会場に乗り込む場合の差異も減らすことができます。
各会場に常設設置される機材の種類は様々です。それに助けられることもありますが、基本的には機材を持ち込んで、持ち込み機材でシーンを完結させることにより各会場の環境に左右されない安定した演出を行うことができると考えられます。


また、これらの機材を使用することで必然的に制限されるのが、調光卓の選定です。
LEDやムービングなどの機材を使う際に、DMX1チャンネルに対してフェーダーが1本ずつ一対一で用意されているタイプの卓を使うと制御に限界があることと、卓によって制御可能なチャンネル数が異なり、使用チャンネル数をカバーできる制御システムが必要なことが理由です。
今回は2公演が行われましたが、どちらも会場の常設卓がMAではなかったため、grandMA3のCommand Wingと同on PC 2Port Nodeを持ち込むことにしました。

MAのCommand Wingは専用のコントローラをPCにUSBで接続して使用するものです。Command Wingのコントローラ自体がライセンスとなっており、PCにはMAのon PCソフトをインストールする必要があります(ソフトは無料)。
こちらはPCでMAを使用することができますが、Command Wingのみを接続した場合は4096chしか出力することはできません(soft内でのpatchや打ち込みについてはその限りではありません)。
別売のFader Wingやon PCの専用Nodeを接続しても同じようなパラメータ数が使用可能です。(が、それらを複数接続してもon PCソフトウェアで扱うことができるのは最大でも4096chまでです。)

ちなみに、Nodeを接続した理由は卓のバックアップも兼ねています。
Command WingはUSBでPCと接続されるため、接触不良の可能性が拭いきれません。(もちろん、そうならないように気をつけますが…。)
LANケーブルの接続は、ケーブルの端子部分に爪がついているためUSBに比べて抜けたり接触不良になりにくい印象なので、LANで接続するNodeもシステムに入れました。

ということで、制御できるチャンネル数は最大でも4096ch(8ユニバース)まででしたので、"LEDバーは非常に多くのチャンネル数を使用すること"と、"バー内のピクセルはユニバーサルをまたいでの入力が当然できない"ので、MAのみで制御するのは非常に困難でした。
また、さらに残念なことにMA3は未だピクセルマッピングに対応していません。(MA2はしていたのですが...。)
よって、LEDバーにさまざまな映像素材をマッピングさせるには、別のシステムも必要でした。

そこで用いたのが、TouchDesignerをメディアサーバーのように使用しLEDバーを制御する方法です。
TDはDMXチャンネルの出力に制限がないため、nodeなどのハードウェアさえあれば大量のDMXチャンネルを制御できます。
具体的なTDでのプログラムについては、いつか別の機会(Qiitaなど)にまとめたいと思いますが、基本的に特別なことはしておらず、いろんな方が紹介しているようなプログラムをDMXで制御できるようにしているだけです。

↓ちょっと古いですが、こちらの動画を参考にしました。
この動画以外は必要ないのでは…?というくらい分かりやすく汎用性も高いプログラムが組めます。

事前の実験など

まず、LEDバーを用いてどんなことができるのか、どんな制御方法が考えられるのか、というのを実験しました。(最後の方に音が出ます。)↓

このときは、まずピクセルマッピングが問題なくできるのか、ケーブルに対して接続可能な本数は限られるか、信号の入力に対してどの程度の遅延が生まれるのか、などを簡単に確認しました。
その後、概ね問題なく使用できることを確認したため今回のシステムに決定し、実際の仕込み方をどのようにするのか話し合いました。
バーは360°発行するタイプで、両端に金具を取り付けることができる仕様になっています。バー同士を接続するための器具もあるためオブジェクト的に配置したり、何か形を作って吊り上げる形も提案しましたが、あらきさんのイメージとは違うとのことと当日のタイムスケジュールを考慮して、シンプルな形状の縦吊りで設置する方向になりました。
縦吊りで決定した後、実際の会場図面と合わせて配置を検討し3種類ほどご提案し、無事に最終の形(2つ目)に決定しました。

提案図面1 (BARを枠状に配置)
提案図面2 (BARを縦状にランダム配置) ←こちらに決定!
提案図面3 (BARを縦状に整列配置)

仕込みが決まった後、配置を微調整してシミュレーションを作成し打ち込みを始めました。実際にMA上の3Dで打ち込みをした際の動画です。↓

ちなみに、この打ち込みのシーンは諸々修正後に本番ではこのような感じになりました。↓

各楽曲の照明内容については、事前にあらきさんと直接打ち合わせて進めました。
事前にそれぞれの楽曲についての方向性をヒアリングし、リハーサルに参加して各曲を実際に聴きながらこちらのイメージとすり合わせました。
曲によって、色味や雰囲気はもちろんのこと、曲の始まり方と終わり方はこんな感じにする予定、曲ごとにバーで出すネタはこんな感じだと嬉しい、この曲ではムービングを動かしてほしい、などなどのご希望をうけ、それらをもとに打ち込みました。


ライブの直前には社のみなさんにもご協力いただいて、倉庫で仮組みをしました。

クリスタリノ倉庫にて仮組み

演出システム

長くなりましたが、今回のシステムの簡易図です。
おまけで簡易仕込み図も載せます。

ARAKI PARTY #2 2022春ツアー 簡易システム図
ARAKI PARTY #2 2022春ツアー 簡易照明仕込み図(SUS)
ARAKI PARTY #2 2022春ツアー 簡易照明仕込み図(Floor)

ほとんど上述していますが、LEDバー以外の部分も含めて再度記述します。
基本的に照明機材は照明卓で制御していますが、それに追加してBARのトリガーと1本単位のdimmerとRGBの色管理も一緒に行っています。

ちょっとややこしいのですが、照明卓からは、BAR一本単位のdimmerやRGBの色情報を制御して、そのバーの中の細かいピクセル情報はTDからの情報になります。
例えば、LEDバーにマッピングしたい映像素材はTDで事前に作って準備しつつ、DMXのchにアサインします。これで、細かいピクセルごとの制御を行います。
が、マッピング以外の使い方をする際は、全て白でつくようにTDで出力しつつ、照明卓から色のchaseを作ったり明滅パターンを出力することで、BAR単位の照明機材としての演出もできます。
このとき、28本分のLEDバーを制御するにはRGBの3チャンネルを卓にパッチするだけでよくなるため、照明卓から出力するチャンネル数は84chになります。(MAの場合、dimmerはバーチャルdimmerが自動でアサインされます。)
ピクセル単位の制御とバー単位の制御を分けることで、照明卓から両方制御する際の使い勝手をよくしている、ということです。

↓の動画は、TDでpixel全体を白にしつつ、照明卓側でBAR単位の明滅・カラーのchaseを組んだ例です。舞台奥のLEDバーと舞台前・横のムービングライトが回るように順番に明滅しているのが分かるかと思います。
このように、BAR単位だけでも照明卓から扱えるようにすると、他の照明機材と一緒の明滅パターンの中に入れることができるようになります。

ちなみに、dimmer回線にはバックアップとしてSmartFade 1248をいれています。

大坂公演のFOHから会場中の様子

まとめ

公演終了から1年が経ちましたが、やっと記事を書くことができました。。

今回はTouchDesignerと照明卓の良いとこ取りでシステムを組むことができてよかったです。ちなみに、僕は今回行ったようにTDで映像素材などを仕込んで、DMX信号をトリガーにして映像などを出力するというメディアサーバー的な使い方をよくやります。
打ち込みは照明単体で行うよりも少し内容が増えますが、こちらで細かい光量やタイミングを調整することができるため、全体の光の管理が行いやすくなります。
メリットが多いはず。。

同じようなシステムを構築して、単純に映像をプロジェクターから出力するシステムやレーザーを照明卓から一緒に制御するシステムも組むことができます。
それらのシステムについては、また改めてまとめる予定です。


ARAKIさんのライブは普段レーザーで入らせていただくことが多く、様々な新規システムや機材を実践導入させていただいております。
照明で入った今回も、新たな試みを受け入れてくださり本当に感謝しております。
こうした新しい演出システムができるのは、ご本人のパフォーマンスが埋もれないものであることが大前提です。どんなライブでも導入できるものではありません。
また今後も面白い演出をARAKIさんのライブでやらせていただけるように、精進します。

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