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[論文自己紹介] オオミズナギドリのスケジュール管理

(バイオロギング会報 2012年1月号より)

Shiomi, K., Yoda, K., Katsumata N., Sato K. (2012)
Temporal tuning of homing flights in seabirds.
Animal Behaviour, 83: 355-359
オリジナル論文

私が関東での暮らしにおいて何よりも辛いと感じるのは、飲み会の後、電車で帰らなければならないことです。家からどのくらい離れた場所で飲んでいるかによって終電時刻は変わるので、それを逃すことがないよう注意する必要があります。遠ければ早めに飲み会場を去るし、近ければ遅くまで粘ります。時には飲み足りないこともありますが、それでも切り上げなければ心身もしくは財布にダメージを受けることになるので、だいたいちゃんと帰ります。

今回私たちは、繁殖地から海へ餌獲りに出かけた海鳥が、これと似たような行動調節を行っていることを発見しました。

対象種のオオミズナギドリは、育雛期は日中に繁殖地にいることはなく、日没後数時間以内に餌獲りから戻ってくることが昔から知られていました。GPSロガーから得られたデータを見ると、採餌海域から島までの距離は97〜457 kmと様々でしたが、到着時刻と距離との間に相関関係はなく、確かに日没後数時間以内に集中していました。

一方、経路データから求めた島への接近速度から「帰り始め時刻」を定義すると、その時刻と距離との間に強い負の相関があることがわかりました(遠いほど早く帰り始める)。オオミズナギドリの平均移動速度は27.8km/hであったことから、島までの所要時間は移動距離が1 km増えるごとに0.036 h(=1/27.8)増加することになります。この値は、島に帰り始める時刻と島までの距離との関係を表すモデル (帰り始め時刻)=-0.036×(帰り始め距離)+0.84の傾きにぴったり一致します。

つまり、オオミズナギドリは洋上の餌場から繁殖地がある島までの所要時間の変化に応じて、島へ帰り始める時刻を調節していたということです。このような行動により、島までの距離がトリップごとに大きく異なっているにも関わらず、一定の時間帯に到着することができるようです。

動物たちの生活史においては、繁殖、採餌、捕食者回避など、適切な時に適切な場所にいなければ達成できない目的が数多くあります。時々刻々と変化する欲求や目的にしたがって様々な場所を行き来する動物にとって、移動のタイミング能力は重要な意味をもつと言えるのではないでしょうか。

上記のオオミズナギドリで見られたような、移動開始時刻の柔軟な調節能力は、これまで人間以外で報告されたことがありません。ある場所への到着時刻の集中は無脊椎動物から哺乳類まで様々な種で確認されているので、そういった調節は他の動物でも行われているのかもしれません。


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