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亜南極でキングペンギン調査

(バイオロギング研究会会報 2011年6月号より)

2011 年 1 月〜3 月、キングペンギンの潜水行動調査を行うため、亜南極クロゼ諸島ポゼッション島(仏領)に滞在しました。ポゼッション島には観測基地があり、今回は計 37 名が夏隊として共同生活を送りました。おはようのキスと毎食のチーズが印象深かったです。

基地から20 分ほど歩いた浜辺には、約 20,000 ペアのキングペンギンが繁殖するコロニーがあります(写真 1)。最初に島へ上陸するときは、大型船からゴムボートに乗り移り、このコロニーのど真ん中にある桟橋に降り立ったのですが、ボートが島に近づくにつれなんとも言えない匂いが漂ってきて、「あ、ペンギン臭が...」と思った途端、浜辺にずらりと並んだペンギンたち が眼前に迫ってくるのです。その迫力を伝える表現力を持ち合わせていないのが残念ですが、とにかくぐっとくる光景でした。 ちなみに今回の調査中、私の「これまでの人生で観たもっとも 美しい光景」は 5 回くらい更新されました。

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写真 1: キングペンギンのコロニー。うじゃうじゃいる。

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写真 2: 島に向かうゴムボート。奥に見えるのが島まで乗ってきた大型船。


この場所で私は、キングペンギン研究のベテランであるお二人が率いる調査グループに混ぜてもらい、ロガー実験を行いました。繁殖期のキングペンギンは、島から数百 kmも離れた海域まで餌を獲りにいくことが知られています。こうしたトリップ中の三次元潜水経路データを取得することが、今回の旅の目的です。

潜水経路ロガー(W1000-3MPD3GT, Little Leonardo 社製)をエンペラーペンギン以外のペンギンに付けるのは初めての試みでしたが、思い切って、持ち込んだ 5 台のロガー全てを一気に装着しました。からっぽになったロガーケースを見ていると、ぞわぞわと落ち着かない気分になったことが思い出されます。

あとはひたすら帰りを待ってコロニーの見回りを続ける日々でした。うじゃうじゃのコロニーで双眼鏡をぶらさげてロガーペンギンを探していると、巨大版「ウォーリーを探せ」をやっている気分になります(フランスでは「ウォーリー」 じゃなく「チャーリー」らしい)。

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写真 3: 調査地周辺。各種設備が整っており、トイレ以外はなんでもある。


ところがウォーリー達はなかなか帰らず、そのうち「ロガー個体がやっと戻ってきたよ!!...って、背中にロガーが付いてないよ......」という夢を何度も見るようになりました。そんな調子だったので、ようやく 1 羽目のロガーペンギンが帰ってきたときには大喜びで先生に報告メールを送ったのですが、すぐさま 「データを無事ダウンロードするまでは喜ばないほうがよい」とのお返事。ごもっともです。回収直後に今夜のビールのことを考えてしまったことを反省しました。

なんやかんやで最終的には 計 8 羽からデータを取得し、ロガーケースに無事 5 台ともおさめて帰国することができました。色んな動物に出会ってきゃっきゃしたり、ロガーペンギンが帰らずどんよりしたり、通常の 10 倍くらい感情の波が激しい 3 ヶ月だったと思います。

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写真 4: こういうヒナを見かけると、いつまでも親のスネをかじっている自分を見ているような気分になった。


この時のデータでわかったこと↓

このほかに、あと3本くらい論文が出る予定ですがんばります。


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