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[論文メモ] 鳥類のはばたきと神経回路


ラボセミナーで紹介したbioRxiv論文。せっかくなのでメモ。
※ 全体的に素人説明なので鵜呑みは危険です

Haimson et al. (2021) bioRxiv
Natural loss of function of ephrin-B3 shapes spinal flight circuitry in birds
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.29.428748v2

鳥類は翼を左右同時に羽ばたかせて空を飛ぶ。この運動を可能にする脊髄の神経回路形成にephrin-B3というタンパク質の機能低下/喪失が関わっているのではないか、という説を検証した研究。

四肢動物の肢の動きを「左右交互」と「左右同時」に分けて考え、ニワトリ、キンカチョウ、マウスを用いた実験をしている。

ephrin-B3
脊髄正中線で発現する膜結合タンパク質。マウスではプレモーターニューロンの軸索先端にある受容体EphA4に結合して双方向性の反発性シグナルを生じ、軸索が正中線を超えて左右で交差することを阻害するらしい(→ 左右交互に肢を動かせる)。ephrin-B3遺伝子をノックアウトしたマウスでは、プレモーターニューロンが交差することによって「左右交互」が「左右同時」に変わり、ウサギのように"ホッピング"歩きをすることが知られている。


アプローチ

[1] genetic, [2] molecular, [3] neuroanatomical approaches によって鳥類の脊髄でのephrin-B3の機能を調べた。

具体的には、四肢動物間でのゲノム配列の比較、ephrin-B3 と EphA4 の結合テスト、脊髄での遺伝子発現量の計測、脊髄の形態の比較、神経配線や神経分布の計測、マウスのephrin-B3をニワトリ胚で発現させる実験、など。


何がわかったか

・ephrin-B3遺伝子(EFNB3)のオーソログが鳥類の複数の系統で見つかった
  ただし、
  - キジ目(ニワトリなど)では失われていた
  - open reading frameがかなり短い
  - シグナリングに関わるいくつかの領域が欠けていた or 大幅に変化していた
  - EFNB3のエンハンサー(DNAH2)が失われていた

・鳥類の ephrin-B3 は EphA4 に結合できない構造に変化していた

・キンカチョウの前肢脊髄の背側正中線(roof plate)ではephrin-B3の発現が低下していた

・ニワトリ、キンカチョウ、EphA4ノックアウトマウス、では前肢脊髄のroof plateが正常マウスよりも大きかった。ニワトリの後肢脊髄ではグリコーゲンボディと呼ばれる器官が背側に発達しており、roof plateが短くなっていた。

・ニワトリ前肢脊髄では多くのプレモーターニューロンがroof plateを通って正中交差していた。
→ マウスのephrin-B3遺伝子をニワトリ胚に導入することによって交差するプレモーターニューロンの数が減少した。


まとめ

脊髄の神経回路は、
・ニワトリの前肢とホッピングマウス
・ニワトリの後肢と正常マウス
で似ている。

正常マウスではephrin-B3が "molecularバリア" となって神経交差をブロックしている。ニワトリ後肢ではグリコーゲンボディが "physicalバリア" となって神経交差をブロックしている。

鳥類ではephrin-B3遺伝子のエンハンサーが失われたりephrin-B3の構造が変化したりしたことによって、脊髄での神経交差が増えている。この変化がはばたき運動の進化に関わっている可能性が示唆された。


課題として挙げられていたこと

・鳥類の進化プロセスにおいてゲノム配列やタンパク質構造がいつ変化したかを明らかにするためにはクオリティーの高いゲノムデータが必要

・ephrin-B3とはばたき運動の因果関係は示せていない。gain-of-function実験が必要。

・ephrin-B3以外の分子メカニズムが神経回路形成やはばたき運動に関わっている可能性もある。


気になったこと

・例えばスズメなんかは後肢も左右同時に動かしているが、そういう鳥類の後肢脊髄の形はどうなっているのか。そして後肢を左右同時に動かす(ホッピングの)メリットとは。

・特定の領域のニューロンに限定してEphA4をノックアウトすると陸上では左右交互運動(正常)、水中 or 空中では左右同時運動、をするマウスができるらしい。おもしろい...。

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