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[論文メモ] 渡り鳥の地磁気ナビ

Kishkinev et al.
Navigation by extrapolation of geomagnetic cues in a migratory songbird
Current Biology (in press)


対象種

ヨーロッパヨシキリ (Acrocephalus scirpaceus)
夜間に渡りをする鳥


問い

ヨーロッパヨシキリが地磁気勾配を利用して位置情報を得ていることが先行研究で示唆されている
→『行ったことのない場所の地磁気環境からも位置情報を得られるか』

検証方法

バーチャル移送実験:
捕獲地点から実際には移動させずに、磁場だけを遠隔地を仮想して人為的に変化させ、応答を記録。地磁気から位置情報を得ているとすれば、仮想地点から見た捕獲地点や渡り経路の方位へ行きたがるはず。ウミガメ、ウナギ、サケでも同様の実験が行われてきた。

この論文では、
A) 偏角だけを変化させた場合
B) 偏角, 伏角, 全磁力の全てを変化させた場合
の2パターンで、実験個体が向かおうとする方角が対照実験からどう変わるかを記録。実験Bの地磁気環境は、実験地点から北東に2700 km離れた地点に相当する。


主な結果と考察

・実験Aと対照実験では選択方位に有意差なし。どちらも南東。通常の渡り方位に一致。

・実験Bでは対照実験とは選択方位が異なっており、南西に分布していた。これは、仮想地点から見て通常の渡り経路に戻る方角にあたる。

この結果から、ヨーロッパヨシキリは経験したことのない地磁気環境からも位置情報を取得できることが示された。


新しさ

過去の実験では、familiar area内を仮想した磁場操作しかしていなかった。経験したことのない磁場で位置情報を得られる(外挿できる)かどうかを検証したのはこの研究が初。

→ 地磁気を手がかりにしたtrue navigation(=目的地と直接結びついていない環境情報を手がかりにナビゲーションする)能力を示した。


疑問

・実験Bは複数箇所へのバーチャル移送を試すとよさそう。1箇所しか実験していないのは捕獲できる個体数の制約だろうか。

・伏角のみ or 全磁力のみ、を操作する実験はなぜしなかったのだろう。実験Aは2年で68羽、実験Bは1年で32羽、のデータになっているので、実験Bが追加実験的な位置づけだったのだろうか。

・春の渡りの時期でも同じ結果になるんだろうか。


関連記事

・マップ外挿能力の検証実験(野外 ver.)
この研究↓は、実際にunfamiliar areaへ移送した場合の応答を調べている。


・渡り鳥の方位選択の計測方法(エムレン漏斗)


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