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今だからこそジャズマスター

 1958年、カリフォルニア州・アナハイム。
 戦勝ムードが未だに褪せていない当時の現地で、フェンダー社は1台の(少なくとも当時としては)画期的なギターをNAMMに出展した。
 その名を「ジャズマスター」。フェンダー社で初めてジャズサウンドに特化したモデルというコンセプトで作られた、レオの自信作でさえあった。
 ところがふたを開けると、ジャズ映えしにくいサウンドや煩雑なプリセット回路などが仇なし、テレキャスターやストラトキャスターといった「時代の構築者」のような売り上げに至らず、1960年代には一時製造がストップしてしまった。
 このことからジャズマスターは一時「フェンダー最大の失敗」とまで叩かれるようになったが、ベンチャーズがジャズマスターを引っ提げサーフミュージックシーンの盛り上げに一役買ったところ、瞬く間に再評価が集まり再生産がしきりに行われる運びとなった。
 フェンダーのモデルをつぶさに見て、ジャズマスターほどの「隠れた魅力」を発するモデルもないように自分は思う。今回は、その「隠れた魅力」およびその理由となる事項を、いろいろと語っていく。

歯切れ良く、主張し過ぎないサウンド
 第一に、そのサウンド的性格から触れる。
 ジャズマスターは、ギブソンのP90を思わせる大きめなシングルコイルを2基マウントしている。そのため、テレキャスターやストラトキャスターのようなシングルサウンドやハーフトーンとは違う、独自のジャリジャリしたサウンドを発する。
 このサウンドで好き嫌いが早くも割れてしまうのが事実とはいえ、この「主張しながらも突出しない」音像はまぎれもなくフェンダーの「到達点」の1つである。まして、このジャリジャリ感のためだけにジャズマスターを選ぶプレイヤーも少なくない。
 自分はテレキャスターシェイプのモデルを所持しているが、近々売りに出そうと思っている。生活に困っていることもあるが、ジャズマスターの音像がより自分に合っているように感じたことも大きい。

癖は強いが程よい変域のトレモロ
 次に触れるのは、後にジャガーにも流用されたフローティングトレモロについてである。
 テールピースを可動させることによって、スプリングトレモロやビグスビーに変域は劣るがチューニングが狂いにくいユニットとなっている。自分のように、トレモロユニットにさほど変域と性能を要求しないプレイヤーには最適解と言えよう。
 だが、このトレモロユニットとブリッジがもたらす宿命が世間からジャズマスターを遠ざけた。弦落ちである。
 現在は純正品・コピーモデル問わず様々な形で弦落ち対策がされているが、一部のファンからは「痘痕もエクボ」的見方をされており、賛否が大きく割れている。
 結論から言うと、一見シンプルそうなトレモロユニットでありながら癖は強いものと見える。しかし、それもまたジャズマスターの愛すべき個性と自分は考えている。

意外と慣れれば使いやすい? プリセット回路
 ジャズマスターからジャガーに引き継がれた、ある意味最大のアイデンティティがプリセット回路である。
 回路を起動すると本来のボリュームとコントロールはバイパスされ、スイッチ下に別途設けられたボリュームとトーンでサウンドを調節することとなる。また、回路の起動中はネックピックアップの音のみ出力される。
 こうして書くとわかるように、プリセット回路は幾重にも癖があるため、初心者やシンプル操作を好むプレイヤーからは敬遠されている。
 だが、回路の勝手や使い所を把握すれば案外楽しく弾ける。主な使い方としては、

  • セレクタをネック、ボリュームとトーンをそれぞれ異なるセッティングにして、プリセット回路に切り替えた際の「瞬発的サウンド変化」をもたらす。

  • セレクタをミックスにして、パワーがあるパートはプリセットオフ、テクニカルなパートはプリセットオンという具合に使い分ける。

  • セレクタをブリッジにして、プリセットオン状態で演奏すると、プリセットオフにするだけで擬似キルスイッチ奏法ができる。

 この他にもいくつかあるが、自身のプレイに合った使い所を見つけると操作が途端に楽しくなる。それがジャズマスター最大のアイデンティティであり、隠れた魅力である。

メタル以外はなんでも「マスター」
 今回はここまで。ジャズマスターの魅力は、自分が語る以上にいくつも眠っていることだろう。しかしそれを引き出すのはプレイヤーの役割であると考えるので、自分から個人的口出しはしないことにする。
 いつも通り、拙稿に対する感想やジャズマスターの個人的魅力などがあればコメントしていただきたい。

 それでは、また機会があれば。

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