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【旅する日本語】心の在り処

じりつく陽射しとじゃりつく熱い砂、そしてこの同じ海に、この夏にできた恋人と、その彼と何年か前まで長く付き合っていた元恋人もいるということに、覚悟はしていたけれど、彼女と目が合う度、笑い合わなければならないとき、なぜだか手のひらがじわじわと焦げる感じがした。

透き通りすぎた海よりも青く見えた空に手をかざしても、ぬるい風が通り過ぎて行くだけ。
私は諦めて、友達が勇気付けながら施してくれた青いネイルを、海に出会わせたいと波打ち際に足を運んだ。

心配そうに見つめる彼の視線を受け取らないまま、手で波を受け取ると
決して軽くない重さで押しかけると、飛沫を散らし、一気に手のひらのじわつきを冷ましてくれた。


それはまるで風だった。

透明で、涼しくて、夏の朝に心地よく目覚めさせてくれる風と同じだった。

いつの間にか隣に来た彼は、未だに慣れない外国語で私を気遣いながらその手を握り、小さく口づけをする。

心は手にあると思う。



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