トライポフォビア

  物心ついた頃から〝ぶつぶつ〟が苦手だった。ぶつぶつを見ると、瞬間的に鳥肌が立つ。そしてその鳥肌によってより一層、身体中がぞわっとしてしまう。例えば音楽室の壁。例えばひまわりの、種になった中心部。一つ一つの大きさや形が揃えば揃うほど、密度が高くなれば高くなるほど、その不快さは大きく、濃くなっていく。

  これに呼び名がついていると知ったのは大人になってからだ。トライポフォビア。日本語では集合体恐怖症。呼び名が付くほどに、この世の中に同じことを不快に思う人が大勢いることに安心感を覚えた。だからといって不快さが消えるわけではないのだけれど、それでも不快の共感は快の共感よりもずっと強い力を持っているように思う。

  意図せずに集合体に出会ってしまうことがある。それらは大抵の場合自然の中でのことで、虫の群れや、生き物の卵や巣、草花、木の実といったところだ。危険から身を守るため、なのだろうか。最近では自然の中のみならず、わたしは街中で度々集合体に出会う。若者の間で流行っているタピオカドリンクだ。あのドリンク片手に、弾けそうな笑顔をした彼女たちとすれ違うとき、わたしは目を背けたくなる。ブームが過ぎ去ることを、心ひそかに祈っている。

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