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L&Dが手にしているエクスポネンシャルな経営資源

「今季は業績が苦しいから、研修予算はカットね」
「座学なんて大して役に立ってないし、今年はOJT(という名に置いて何もしないこと)中心にやっていくことにしよう」

こういう話を聞くと(よく聞く話だ)、L&D予算とは業績がいいときだけ与えられる福利厚生かなにかのような気がしてきて心配になる。というかそういう判断をしても業績は全く問題ないのであれば、おそらく本当にその組織にとってL&Dは余り意味のない投資だったのかもしれない。もちろん私はL&Dはそういうものだとは全く思わないし、むしろ業績が苦しんでいればいるほど「変革」が求められているのだからL&Dの出番ではないかと思う。しかし、そういう思いは脇においておいて、もし仮に、L&Dに人、モノ、カネが十分に配分されない状態になってしまったとしたらどうするか?というのが今日のお題。


資源は有限である(普通の考え方だとそうなる)

ごくごく当たり前のことだけど、ヒト・モノ・カネは有限だ。そしてその資源はポジションに割り振られて与えられている。それらを使いたかったら、それらを使う権限が与えられているポジションにつくしかない。

でもそれは、変革を起こすための唯一の道な訳では無いし、むしろそれらを使ってできることにも限界がある。有限な資源なんて、使い始めたらアッという間になくなってしまう。資源の割当が十分だなんて状況はありえない以上、それらにたよるということは自らできることに制約を設けていることを意味する。 

「経営資源は常に有限である。だから、ギリギリな資源をいかに有効に配分し最大の利益を得るかが経営の腕の見せ所だ」。ヒト・モノ・カネに関して言えば、これは正しいのだろう。しかしこれをあたかも「何も出来ない」ことの言い訳に使っているような風潮もあるのではないだろうか。

使えば使うほど増える夢の資源

「もしいくらでも使っていい資源があるならばすごいことができるんだけどなあ」と考えている方に朗報をお伝えしたい。あなたには無限の資源がある。しかもこの資源は、核燃料のように使えば使うほど増殖させることができる。その増殖率たるやエクスポネンシャルだ。

その資源とは「関係」。人と人の関係(人的資本とは違う。もし専門用語を使うなら社会関係資本の方だ)。この関係という資源は、誰にも独占されていない、誰にでも利用可能な、しかも限りなく無限な、夢のような資源だ。無限の資源を使えるということは、それによってできることも無限だということだ。こんな最強の資源が誰にでもアクセスできるなんて、社会はなんと可能性に満ちているのだろうか。

具体例を示したい。例えば、「DXを実現しなければならない」というお題がある。これに真正面から答えるとしたら、例えば「DX教育に定評があるベンダーにお金を払って教育プログラムを実施してもらう」。これはカネを使う手段だ。または、権限をもつマネージャーがスキルある部下に指示をして、教育プログラムに従事させるというやり方もある。これはヒトを使う方法だろう。でもおそらく、このいずれも選択出来ない場合はよくある。ベンダーに払えるカネはないし、命令できるヒトなんてもちろんいない。

でも、ここからできることはまだある。例えば、社内で有志の勉強会を初めて見るのはどうだろう。あくまで任意で、業務時間外の自主活動だ。社内で使えるツールを使って皆で勉強し合いながらスキルを高めていく。もしかしたら、少し心得ある人が先生役を買って出てくれるかもしれない。

で、こういう活動が存在感を出し始めると、「もっと広めたい」という話になる。そうすると例えば社内報メールやポータルなどでこの活動を宣伝し、更に参加を募っていく。はじめは全従業員の0.1%程度の参加だったかもしれない、しかし、徐々にそれは1%になり、5%になり、10%になっていく。20%になったらもはやかなりの勢いといっていいはずだ。

ここまでの活動にコストはいらないし、誰からの命令も存在しない。やったことは、呼びかけをすること、そして運営をすること。これは、会社の中に新たな関係を生み出したということだ。そしてその関係が価値に繋がっていく。

一つ始めれば、2つ目はよりやりやすくなる。3つ目や4つ目は更に簡単だ。こうやってこのような活動は野火のように広がっていく。やがてこれらは相乗効果を生み出す。つまり、別々の場所で作られた関係が、コラボを始めていき、更に網目が細かいネットワークが生まれ、やがてこれらの関係は自己増殖を始める。

やれるかどうかはL&D次第

そんなにうまく行かない気がする?どうやってきっかけを作ればいいかわからない?そうかも知れない、でも、それはL&Dチームのスキルの問題だ。L&Dチームなんだから、必要なスキルが今存在しないなら身につけるまでだ。このスキルはインターナル・マーケティングなので、物の本でも読むところから初めて見るのはどうだろう。

ちなみにL&Dは、もしかしたら社内で最もこの「関係資源」をリッチに活用することができる立ち位置にいると言えるかもしれない。その理由は以下の通り。

  1. 研修のアナウンスなど、自然な形で社員にこまめに発信できる

  2. 「みなさんのスキル向上のために」という名のもとに、幅広いテーマで接点を持つことができる

  3. 評価に関係する立場ではないので、フラットなリーチが可能。心理的安全性が担保された形でのコミュニケーションができる

  4. 研修などを通じて現場との接点が豊富にあるので、耕し育てていく「関係資源」の芽をたくさん持っている

  5. 研修のアンケートなどを通じて、リアルな声を拾いやすい

何から始めるか迷う場合、まずは月次のレターを出すところから始めるのはどうだろう。研修の予定など乾いた情報だけでなく、読み物として楽しんでもらえるような特集を中心にして。手間はかかる。でもこれこそ「関係資源」を育てていくための重要な投資だ。

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