シェリング『超越論的観念論のシステム』拾い読み①

最近シェリングの『超越論的観念論の体系(システム)』の訳が出ました。訳註豊富な待望の邦訳書です。

〈新装版〉シェリング著作集 第2巻 超越論的観念論の体系 https://amzn.to/3xqa8c5

ただ、それでもちょっと気になることがありましたので、書いておきたいと思います(①と表記したのは今後も何か気づいたら書いてみようと思った次第なので、続くかどうかは分かりません。気軽にお付き合いいただければ幸いです)。
序言の最初の文章です。

Dass ein System, welches die ganze, nicht bloß im gemeinen Leben, sondern selbst in dem größten Teil der Wissenschaft herrschende Ansicht der Dinge völlig verändern und sogar umkehrt, wenn schon seine Prinzipien auf das strengste bewiesen sind, einen fortdauernden Widerspruch selbst bei solchen finde, welche die Evidenz seiner Beweise zu führen oder wirklich einzusehen imstande sind, kann seinen Grund allein in dem Unvermögen haben, von der Menge einzelner Probleme zu abstrahieren, welche unmittelbar mit einer solchen veränderten Ansicht die geschäftige Einbildungskraft aus dem ganzen Reichtum der Erfahrung herbeiführt und dadurch das Urteil verwirrt und beunruhigt.

新訳では次のようになっていました。

日常生活のみならず学問の大部分にも支配しているものの見方を完全に変革し、それどころか逆転してしまう体系の諸原理が、既に非常に厳密に証明されている。けれども、その証明の明瞭性を感じることができ、或いは本当に洞察することができる人々においてすら、この体系は絶えず異論を見出すこととなる。というのは、彼らはそのように変革された見方によって直ちに活発な想像力が全く豊かな経験から引き起こされ、それによって判断が混乱させられ、不安に貶められてしまうような、そういう多くの個々の問題を捨てることができないからである。

気にかかるのは、welche unmittelbar以下の関係文の解釈です。「彼らはそのように変革された見方によって直ちに活発な想像力が全く豊かな経験から引き起こされ」と訳されています。しかし、私はここに違和感を感じます。welche unmittelbar以下のwelcheは主語ではなくて目的語です。なぜならこのwelch unmittelbar以下の関係文の動詞は、herbeiführt、verwirrt、beunruhigtと、全て主語が単数形であることを表しているからです。従いまして、この関係文の主語はdie geschäftige Einbildungskraftでしかありえません。そして目的語にあたるwelcheが受けているのはeinzelner Problemeでしょう。新訳も最後の方ではそう捉えているように見えるのですが、「彼らが」という主語を入れていること(これはまだいいのですが)と、die geschäftige Einbildungskraftが引き起こされるという風に目的語のようにしてしまっているところに混乱を感じます。「忙しなく働く想像力(die geschäftige Einbildungskraft)が非常に豊かな経験から個別的な諸問題(einzelner Probleme)を思い起こす(herbeiführt)」のです。「忙しなく働く想像力が全く豊かな経験から引き起こされる」のではないと思います。というわけで拙訳です。

日常生活だけでなく学問の大部分さえも支配している物事の見方を徹底的に変化させ、それどころか逆転させてしまうシステムの諸原理が、既に非常に厳密に証明されているが、その証明の明瞭さを感じることができるか、実際に洞察することができるような人々にさえも、このシステムが長きに亘って反論され続けてきているのは、ただただ[彼らが彼らの]個別的な諸問題の多くを捨てることができない所為なのかもしれない。見方をそのように変化させた途端に、忙しなく働く想像力が、個別的な諸問題を、豊かな経験全体から想い起こしてしまうことで、判断を混乱させ紛糾させてしまうのである。

こんな感じではないでしょうか。

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