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#409 「池袋労働基準監督署長事件」東京地裁(再掲)

2016年4月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第409号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【池袋労働基準監督署長(以下、I労基署長)事件・東京地裁判決】(2014年10月20日)

▽ <主な争点>
精神障害による症状の治癒、休業補償給付の不支給処分の取消しなど

1.事件の概要は?

Xは甲社の営業所次長であったところ、平成13年3月、同社を解雇された元従業員からナイフで右前頸部を突き刺される被害に遭い、後に受診した心療内科において「うつ状態、心的外傷後ストレス障害」と診断された。

Xは処分行政庁(I労基署長)に対し、労災保険法に基づき、精神障害に係る休業補償給付の支給を請求し、15年7月8日以降、休業補償給付の支給を受けていた。

本件は、Xが処分行政庁に対し、23年4月16日から同年7月15日までの期間に係る休業補償給付の支給を請求したところ、処分行政庁がXの精神障害は同年4月30日に治癒(症状固定)したとして、上記請求のうち、同年5月1日以降の期間に係る休業補償給付をしない旨の処分をしたことから、その処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<甲社およびXについて>

★ 甲社は、普通自動車旅客運送業等を営む会社である。

★ X(昭和34年生)は、昭和57年4月、甲社に採用され、タクシー乗務員として稼働し、平成12年7月にT営業所次長に就任した者である。

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<本件災害、Xの治療経過等について>

▼ Xは平成13年3月28日午後零時50分頃、T営業所敷地内に駐車中の自動車内で休憩していたところ、甲社を解雇され、同社に対する恨みを抱いていた元従業員からナイフで右前頸部を1回突き刺された(以下「本件災害」という)。なお、上記元従業員はXに対する殺人未遂等の罪により、懲役6年の刑に処せられた。

▼ Xは本件災害に遭った直後、乙大学医学部附属病院救命救急センターに搬送され、緊急手術を受けて一命を取り留め、13年4月9日まで入院した。Xは退院時に「頸部刺創、甲状腺右葉不全切断、右上甲状腺動脈切断、右胸鎖乳突筋断裂」と診断され、以後、概ね月に1度の割合で同病院に通院を続けた。

▼ Xは15年1月、上記病院の心療内科を紹介され、同科のA医師の診察を受け、後に同医師からうつ状態および心的外傷後ストレス障害と診断された。

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<精神障害に係る休業補償給付の従前の支給状況等について>

▼ Xは13年7月頃に甲社の仕事に復帰したが、15年3月頃から休業するようになった。

▼ Xは15年9月、処分行政庁(I労基署長)に対し、精神障害に係る休業補償給付の支給を請求した。処分行政庁はXの上記請求に対し、傷病名を「F4 神経症性障害」、発病時期を「13年3月28日」とした上で、その業務起因性を認め、15年7月8日以降の期間についての休業補償給付を支給し、その後もXからの請求に基づき、23年4月30日までの期間に対する休業補償給付および療養補償給付を支給した。

▼ 処分行政庁は23年3月、Xに対し、本件災害による傷病について、症状が固定し、今後治療を継続しても明らかな医療効果は期待できないとして、同年4月末日をもって治癒(症状固定)とし、その後の休業補償給付等を行わないこととした旨通知した。

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<休業補償給付の不支給処分、不服申立ておよび本件訴訟の提起等について>

▼ Xは処分行政庁に対し、23年7月13日、(1)同年4月16日から5月15日までの期間および(2)同月16日から6月15日までの期間に係る各休業補償給付の支給を請求し、また、同年7月27日、(3)同年6月16日から7月15日までの期間に係る休業補償給付の支給を請求した。

▼ 処分行政庁は同年8月、Xに対し、同年5月1日以降の期間に係る請求については同年4月30日の症状固定後の請求となることを理由として、(1)のうち同年5月1日以降の期間に係る休業補償給付ならびに(2)および(3)の休業補償給付をそれぞれ不支給とする各処分(以下「本件各処分」という)をした。

▼ Xは23年9月、本件各処分を不服として、東京労働者災害補償保険審査官に対し、本件各処分の取消しを求める審査請求をしたが、同審査官は24年2月、Xの審査請求を棄却する旨決定した。

▼ Xは24年4月、これを不服として、労働保険審査会に対し、本件各処分の取消しを求める再審査請求をしたが、同審査会は同年10月、Xの再審査請求を棄却する旨の裁決をした。

▼ Xは25年1月、東京地方裁判所に対し、本件各処分の取消しを求める本件訴訟を提起した。

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