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#572 「岡本土木・日鉄パイプライン&エンジニアリング事件」福岡地裁小倉支部(再掲)

2022年10月5日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第572号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【岡本土木(以下、O社)・日鉄パイプライン&エンジニアリング(以下、N社)事件・福岡地裁小倉支部判決】(2021年6月11日)

▽ <主な争点>
元請企業の下請企業労働者に対する安全配慮義務など

1.事件の概要は?

本件は、Xがガス管敷設工事の現場監督をしていた際に、バックホーで吊るされた鋼矢板が落下した後、倒れてXの頭部に当たった事故について、同工事の元請企業であるN社および下請企業でありXの使用者であるO社にそれぞれ安全配慮義務違反があるなどと主張して、債務不履行または不法行為に基づき、連帯して損害賠償およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<O社、N社およびXについて>

★ O社は、総合建設工事の請負業等を目的とする会社である。

★ N社は、ガス、石油、熱等のエネルギー搬送用配管およびこれに付帯する設備の設計、建設、補修および保守工事等を目的とする会社である。同社は福岡県内のガス管敷設工事(以下「本件工事」という)をA社から請け負ってO社に下請けさせ、さらにO社はB社に孫請けさせた。

★ 本件工事は、道路をバックホー(注:油圧ショベルの一種)で掘削し、土留作業を行った後、掘削構内にガス管を設置し、その後に鉄パイプと鋼矢板(注:仮設時の土留めなどでよく用いられる鋼鉄製の板)を撤去して埋め戻す、というものであり、バックホーの操作等はB社が行った。

★ Xは、O社の従業員であった者であり、本件工事で現場監督を行っていた。


<本件事故の発生、Xによる労働者災害補償保険給付の受給等について>

▼ Xは2016年11月3日に本件工事の現場監督をしていた際に、バックホーで吊られた鋼矢板(以下「本件鋼矢板」という)が落下した後、倒れてXの頭部に当たり第1ないし第3胸椎椎体骨折等の傷害を負った(以下「本件事故」という)。

★ O社がB社に対し、(1)本件鋼矢板は新品で油が付着しており、滑り落ちやすかったのだから、鋼矢板の油を拭き取ってから使用するように注意するか、吊るす穴が開いた鋼矢板を使用するよう指導すべきであるのにしなかったこと、(2)吊り荷の落下範囲や落下物の転倒範囲に作業員がいる場合は吊り荷を運搬しないことなどについて指導すべきであったのにしなかったことがXに対する安全配慮義務違反を構成し、O社がXに対し債務不履行または不法行為に基づき損害賠償責任を負うことについては、XおよびO社の間に争いがない。

▼ 北九州西労働基準監督署長は2018年6月、本件事故によるXの負傷については業務上負傷したものであり、症状固定日が2017年12月16日であることを前提として、労働者災害補償保険法施行規則別表第1の障害等級で第10級の20(併合等級)に該当する旨認定した。

▼ Xは上記認定に基づいて、療養補償給付として382万9219円を受給するとともに、2016年11月3日から2017年3月31日までの休業補償給付として109万9818円を受給し、また、障害補償給付として379万1610円を受給した。

▼ O社は同社の業務災害休業補償規程に基づき、Xに対し、本件事故による休業補償金として、36万6606円を支給した。

★ 本件において、N社はXに対する安全配慮義務を負わないことなどを主張し、O社は安全配慮義務違反については争わない一方、Xにも事故現場の現場責任者であるにもかかわらず、あえて重機の旋回範囲内という危険場所に入り留まった過失があるとして過失相殺を主張した。

3.下請企業従業員Xの主な言い分は?

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